石野の異世界放浪記12-4
翌朝、テントを出て辺りを見ると山の情景がすっかり変わっていた
相も変わらず雷は撃ち付け続け、轟音が鳴り響いているが、キノコの量が昨晩よりも多くなっているのだ
「でっかいキノコっすね。 一晩でこんなに成長するもんなんすかね」
「元の世界の常識なんか今更通用しないだろ。 しかし、これは困ったな。 戻ろうにも道が完全に変わっているじゃないか」
困ったことにキノコは道を塞いでしまい、前にも後ろにも進めない状態だ
仕方なくキノコを切り裂いてどこともわからない方角へ進んでみた
「申し訳ありません、私がついていながらこのような体たらくを…」
しょぼくれるエフィルダの肩をポンポンと叩いて岸田が慰めた
そんな岸田を見て彼女は顔を真っ赤にする
「あ、あの、私の力で、方角は分かると思います」
エフィルダは慌てて取り繕いながら自分の力を発揮し、磁力を操作して方角を探った
リコと同じような力だが、雷を操るのはエフィルダの方が長けているようだ
「分かりました。 こちらが北ですのであちらの方角が昨日向かっていた方角です」
とにかく岸田に顔を見られないようにエフィルダは先頭に立って歩き出した
道を塞ぐキノコをなぎ倒し、昨日とは比べ物にならないほどの速さで山を進み、ようやく開けた場所にたどり着いた
そこには不思議とキノコは生えておらず、日に照らされて白く光っていた
その中心地になぜか剣が一振り刺さっている
「これは何でしょう? 剣、ですけど…。 確かこの世界って争いが無いから武器がないんですよね?」
再び探偵の格好になったテンコが虫眼鏡で剣を観察し、エフィルダに質問する
「はい、剣があったのはもう数十万年も前のことです。 その頃はまだ魔物がいたので私達も戦っていました。 ですが、この剣は最近打たれたものと思われます。 この世界に武器はもはやありませんから」
剣を抜いてみると、太陽の光で輝き、神聖な力を感じた
石野はそれをしまうと辺りに何かが残っていないか調べ始める
テンコの捜査は様になっており、岸田と石野は微笑ましくその様子を見た
「ああああ! これ見てください石野さん!」
虫眼鏡で周りを細かく見ていたテンコが何かを発見したようだ
大声をあげたためエフィルダが少し驚いていた
「どうした?」
石野が近づくとテンコは地面を指さす
そこには光る粘液が広がっていた
「これは…。 何かの生物の粘液ですね。 私の領域にあるキノコに粘液を出す種はいません。 かといって人間のものでもなさそうです」
石野はその粘液を触り、観察し、臭いを嗅いでみたが、特に匂いはせず、ただ地面の土の臭いだけが鼻を刺激した
「あっちに転々と続いてるみたいだっちね。 よし、リコに追ってもらうっち」
リコは鼻がよく、こういった痕跡を追跡するのに向いていた
石野がリコを召喚すると、リコは岸田の前に膝ま付いた
「主殿! 何をすればよろしいでござるか?」
早速リコに追跡してもらいたいと伝えると、リコは張り切ってその粘液を嗅ぎながら追跡し始めた
人型を取っているためその光景はかなり異様だったが、リコは気にせず四つん這いで進む
「ふむ、ふむふむ、こっちにまっすぐ進んでるみたいでござる」
リコはグングン進んでいくので少し速足で歩身を進めた
そして数時間後、粘液の持ち主の行き先が分かった
「なるほど、ここが目的地だったというわけですね」
その粘液の持ち主だと思われる化け物の死体が、青く光る巨石の前に倒れていた
化け物は切り刻まれ、ひどいありさまだ
化け物が手を伸ばしている青い石はこの領域の要石というもので、力を蓄えるものだった
「この化け物、一体どこから来たのでしょう。 それにこの傷…。 先ほどの剣でつけられたものと見て間違いないですね」
テンコは死体を観察し、巨石の周りを歩き始めた
その巨石の影になった場所。 そこに一人の少年が倒れているのを発見した
「石野さん、この子」
どうやらその少年は探している人物で間違いないようだ
体には化け物につけられたとみられる傷が数多くつき、彼の体の下からは血がにじんでいた
意識は失っているが、寝息を立てていることからまだ生きていることが確認できる
「すぐに治療を! トコ!」
「わかったっち!」
トコは眼の能力の一つ、治療眼を少年に対して向けた
彼女のこの治療眼は部位欠損すらも容易に再生させる力を持つ
「ちょっと時間がかかるっち。 その間化け物の調査でもしておくっち」
トコの治療中、石野たちは化け物を調べた
魔物は既に絶滅したはずのこの世界にはこのような化け物がいるはずがない
エフィルダも見たことがなく、不思議がっていた
「私は一足先に戻り、ペリシモ姉さんにこのことを伝えます」
エフィルダは一度戻ろうとしたが、すぐに踵を返して岸田に詰め寄るとその頬にキスをし、ペリシモへの連絡を取りに戻った
「またキスされたっす。 俺モテモテっすね」
岸田はテレながらも喜んだ
そして化け物の体を再び調べ始めた
「これでよし。 目が覚めたら話を聞いてみるっち」
しばらくして治療を終えたトコが額の汗をぬぐいながら 石野の肩に乗った
石野が頭を撫でるとトコは目を細めて喜ぶ
それから一時間ほどで少年は目を覚ました