石野の異世界放浪記12-3
翌朝、送ってくれると言うペリシモの指示に従って大きな花の上に乗った
「これはですね~、私がいつも使ってる転送花でして、目的地を言うと魔法の力でそこまですぐに移動できる優れものなのですよ~」
ペリシモに礼を言うと、彼女はうなづきつつ岸田の手を取ってキスをした
花に乗ると、花弁が閉じて石野たちを覆い、飲み込んだ
「うわ、狭いっち。 むふふ、石野に引っ付いてるっち」
「ちょ、そんなとこ触んないで下さいよ!」
「俺も変なとこ触られてるっす。 誰の手っすかこれ」
「すまん、俺だ」
内部はかなり狭く、もみくちゃになったが、すぐに花弁は開いた
「お、着いたみたいだな」
石野は真っ先に飛び出し、二人の女性のお尻にあたっていた手を引っ込める
「うわ、すっごい雷っす」
辺り一面に大量のキノコが生え、雷が降りしきる景色は異様としか思えなかった
四人はただただ口を大きく開けている
やがて雷の精霊と妖精たちが集まってきて石野たちを歓迎し始めた
精霊の話によると、すでにペリシモから連絡が全精霊に対して通達されているので、この世界のどこへ行こうと協力してくれるらしい
「ペリシモさんすごいっすね」
「まぁこの世界全ての植物を見て回ってるって言ってましたからね」
しばらく精霊達と談笑していると、雷鳴の精霊エフィルダが遅れて到着した
「すいません、お待たせいたしました。 今あなた方と同じ世界から来た、人間というものを誰かが目撃していないか聞いて回っていたのです。 申し遅れました、私はエフィルダ。 精霊の祖神シルフェイン様からここの管理を仰せつかっております」
「精霊のそしん? そしんってなんすか?」
聞き馴染みのない言葉の意味を問うてみると、エフィルダは淡々と説明を始める
「祖神とは種族の神のことです。 その種族を生み出した神様ですね。 私達精霊族はシルフェイン様、妖精たちの祖神エラリウラ様、その他にもこの世界にはいませんが、人間族だとアマテラス様、お名前までは存じませんが、鬼人族や妖怪族、竜人族などにも祖神がいらっしゃいます」
様々な種族には生み出した神がおり、自分の眷属で子供達である各種族を見守っているのだ
「なるほどな。 それでアマテラス様はあんなに気遣ってくれていたのか」
「え!? 石野さんアマテラス様にお会いしたことあるんですか?」
驚いたテンコに石野は事情を説明する
「ふわぁ、巫女をやってた私でもお会いできたことないのに、石野さんずるいですよ」
「ずるいと言われてもな…」
テンコと石野の談笑を遮るようにエフィルダが口を挟む
「もう話していいですか?」
「あ、すまない」
エフィルダの説明によると、つい数日前に巨大キノコで出来た山の中に一人の少年が入って行ったのを、妖精たちが目撃したそうだ
危険なので止めようとしたが、少年は妖精たちの制止を振り切って奥へ入って行ってしまったらしい
この山に入るには妖精たちでは力が足りず、中位の精霊達に報告して捜索をしたところ、山のどこを探しても見つからなかったらしい
「その少年ってどんな感じでしたか?」
テンコはいつの間にか神衣を纏っていた
彼女の神衣は自分の思った通りの形状をとることができるようで、今は探偵のような衣装を着ていた
「なんだその恰好は」
「フフフ、石野さん、人の捜索と言えば探偵です。 常識ですよ」
「常識じゃないと思うっす」
出会った頃はおとなしい少女だと思っていたが、テンコはかなりお調子者で、天然であることが分かった
「私達も行ってみましょう! 手がかりを見つけるんです」
虫眼鏡を右目に当てて石野と岸田を見る
「エフィルダさん、俺たちも捜索してかまわないかな?」
「ええ、全面的に協力するようペリシモ姉さんに言われてますから」
そのまますぐにエフィルダの後をついて山へ向かった
山は有毒なキノコの胞子が溢れているため、テンコにガスマスクを出してもらい装着した
「あなたは大丈夫だと思いますが?」
岸田がガスマスクをつけようとするとふいにエフィルダがそう言った
「どうしてっすか?」
「あなたの体、胞子程度の毒は効きませんよ? 気づいていないのですか?」
岸田はマスクを脱いで胞子を吸い込んでみる
「あれ? なんともないっすね」
「あなたは今精霊と人間の狭間にいます。 それも精霊寄りです。 それ故に体が段々と精神体になっていっているのです」
「俺の体が、精霊と同じに?」
岸田は自分の手のひらを見る
見た目からは分からないが、岸田は確かにその変化を感じていた
「ま、なるようになるっすよ」
今気にしても成るようになると楽天的に考え、岸田は手掛かりを探して歩いた
山に入ってから数時間が経ち、段々と日も暮れてきている
「今日はここまでにして野営しましょう。 暗くなってから歩くのは危険です」
エフィルダの言う通りにしてその場でテンコの出したテントを設営した
その様子にテンコは一人で笑う
「テンコのテント…。 フフフ、テンコのテントですよ石野さん」
「ああ分かったから早くそっちを杭で打ち付けてくれ」
石野に言われてハーイとしぶしぶ杭でテントの端を留める
そうして夜は深くなっていった