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石野の異世界放浪記11-8

 魔物も寝静まる夜も深い時刻、街に地鳴りが走った


「な、何事だっちか!」


 あわてて石野のお腹の上から起き上がったトコは窓から外を見た

 そこにはホロランドで見た化け物がさらに気味の悪い姿となってこちらを見ていた

 大きさは約10メートルはあろうか


「グジュジュ」


 何かが腐ったようなにおいを発しながら石野たちの泊まる宿に近づいてきている

 能面のようだった顔は笑っているのか不気味に歪み、腕をぐにょぐにょと振り回しながら目の前まで来た


「ひぅ…」


 トコは恐ろしさで悲鳴も上げれない

 そんなトコを石野は抱きかかえて窓から外に飛び出した

 直後宿に化け物がのしかかる


「なんだなんだ!」


 宿からはその衝撃に驚いて客たちが着の身着のまま飛び出してくる

 そして化け物を見て驚き、逃げ始めた

 そんな中、騒ぎを聞きつけたハンターたちがその場に集まりだしたようだ


「何これ…。 魔物?」


 駆け付けたハンターたちの中にマイズのパーティもある

 すぐに彼らは行動を起こした

 まずマイズが縮尺で宿から化け物を引きはがし、宿前にある広場に押さえつけた

 マイズの力は石野がいることによってその力を増している。 うまく化け物を縛ることに成功した


「合成魔法、プラネットフレア!」


 キーファがすかさず強力な魔法を叩き込み、それを皮切りにハンターたちが一斉に攻撃し始めた

 その攻撃に石野たちも加わる

 そんな様子を囚われていた少女テンコは心配そうに見ていた

 もし彼らが負ければ、またあの暗闇に連れ戻され、地獄のような日々が待っている

 それだけは二度と味わいたくないとテンコは立ち上がった


「私も、何かしなくちゃ」


 とはいっても彼女は今まで喧嘩すらしたことがない。 極々おとなしい争いの嫌いな少女だ

 たまたま宿前に置いてあった掃き箒を手に取ると何故だか分からないが、自分にも戦えるような気がし、勇気がわいてきた


「できる。 私は、戦える」


 するとそれにこたえるように手に持った箒が光り、美しい刀へと変わった


「え? なんで? 刀に…」


 それには驚いたが、箒とは比べ物にならないほどに武器として洗練された刀がその手にある

 迷いなく化け物に向かって駆けだすと、彼女の着ていた寝間着が変化した

 それは戦闘用巫女服、まるで和製魔法少女のように変化していく彼女を周りの人々は神でも見るかのような目で捉えていた


「せりゃぁあああ!!」


 地面を蹴り、空高く飛び上がると刀を振り下ろした

 化け物の頭を綺麗にとらえたその一撃は化け物を一刀両断し、左右に分ける


「まだまだ!」


 着地するとすぐに刀を横一文字に一閃。 化け物の胴を薙いだ

 その傷口の端から化け物は崩れ始める


「なんて強力な力だっちか…。 あの子、神様の力をつかってるっちよ」


 トコがその眼でテンコの力を視ると、彼女の力が判明した

 “神衣(かむい)”。 それは神の威を借る神聖なもの。 彼女は神に愛された少女だった


「やった…。 私、戦えた?」


 今自分で成し遂げたことを信じれず、その場にへたり込むと、神刀は箒に、神衣服は普通の寝間着に戻っていた


「何だったんだ今の力。 すごいねテンコちゃん」


 マイズはへたり込んでいるテンコの手を取り、立たせた

 そしてテンコは恥ずかしそうに顔をそらす


「それにしてもこの化け物は何だったのだ? 確かに我の力で消し炭にしてやったはずだぞ?」


 既にこの化け物は消え始めており、黒いシミが地面に広がっていく


「レドざま…。 モウジワゲ、あり、マセ…。 ん」


 最後にそう口を開いたが、誰にも聞こえていないようだ

 もう蘇ることもないだろう


「とにかくホロランドには何かあるってことだな…。 夜明けか…。 よし、俺たちは今から再びホロランドに侵入する。 次はもっと有益な情報を持って帰るさ」


 石野は支度をすると岸田、トコ、ギルドの隠密調査班を連れてホロランドへとすぐに向かった

 マイズ達は再びこの化け物が来ることも考慮し、狙われているテンコを守るために街に残ることになった


「それで、テンコ。 お前は本当に人間なんだっちか?」


 出立の直前にトコはテンコを真っ赤な瞳で見据えて聞く


「え…? に、人間です。 私はれっきとした人間ですよ!」


 自分に言い聞かせるように叫んだ

 トコが疑問に思ったのは、彼女は閉じ込められていた間、()()()()()()で一年間を過ごしていたからだ

 トコの目には確かに彼女は人間として映っている。 能力も神々の威を借りるものでテンコ自身は神力を持っていない

 それなのに、彼女はあの地獄のような状況で生きていた

 

「あの場所に特別変な魔法や力は感じなかったっち。 あの化け物たちが何かをお前にしてた様子もない。 ただ捕らえてただけだっち。 それなのに人間であるお前が生きていられるはずがないんだっち」


「トコ、行くぞ」


 石野に呼ばれるトコ


「今は、人間ってことにしといてやるっち。 でもそのうちお前の正体を暴いてやるっち」


 もしかしたら彼女は少し前に出会った七星と同じく異放者なのかもしれない

 そうトコは考えていた

 

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