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5-11

「やぁ、よく来た来たね」


 ルーナが封印されていた城。 その城の地下。 地球の人間として生き、そして悲惨な死を繰り返しながら転生し、罪を清められていたルーナがようやく自分の世界に戻って来たこの場所に男が立っていた

 見た目はスーツを着た若い男。 髪は長くボサボサとしているが、その一見すると女性のような顔によく似あっている


「僕僕僕は君たちたちが混沌と呼ぶ呼ぶ呼ぶ者だよ」


 男の話し方はまるで壊れたテープを再生しているかのように繰り返されている

 どこか様子のおかしい男はニタニタと笑いながら手を振った

 すると地下にある部屋の扉が一斉に開き、中からルーナとサニーの知った顔が幾人も現れた

 

「お母さん、お父さん…」


 その中には自分たちを守って死んだはずの産みの親の顔


「ミシュハ母さん、クリアおばあちゃん…。 ザスティンさん、ドルレリッサ、ニニアまで…。」


 混沌が召喚したのは、ルーナとサニーにとって大切な人たちばかりだった

 ミシュハたちはかつて操られていたリゼラスによって殺されている

 彼らは全て確実に死んでいた者達だった

 再開を喜ぶよりもまずその様子のおかしさを疑問に思った


「おどおど驚いた? ちょっといじっていじっててて蘇らせてあげあげあげたよ。 改造も施してしてしてばっちりだかららららららら。 クヒッ」


 再び会えた喜びよりも、敵に死体をもてあそばれた悲しみよりも、ただ純粋な怒りのみが双子を支配し、次の瞬間には混沌の背後に回り込んで攻撃を仕掛けていた


「まだまだまだ僕じゃないない」


 混沌が指を鳴らすと甦らされた者達が一斉に襲い掛かって来た


「お父さんお母さん! お願いやめて!」


 ルーナの声が響くが、彼らには何も届かない。 言葉を理解する心が最早ないからだ

 次から次へと襲ってくる彼らはその体が壊れるのも構わず箍のはずれたかのように城の地下を破壊しながらルーナとサニー、そしてエイシャの命を狙う

 すでに骨は砕け、腕がちぎれ飛び、臓物が飛び出ているものまでいた


「もうやめて、皆をこれ以上傷つけないで…」


 怒りの頂点を迎えていたルーナだったが、自分の大好きだった人々が自らの体を壊しながら向かって来る様に心が折れていた


「だったら、その体を頂戴よ。 僕に僕に!」


 それが混沌の目的だった

 ルーナとサニーには全ての神々の力に耐えうる器としての体を持っている

 混沌はこの大世界全てを手に入れるためにその体が必要だったというわけだ


「そういう、ことか…。 あんたのせいで何もかもが…。 闇も、神々も、古の支配者も、母様たちも…」


 エイシャは理解して混沌を見る

 だがその目はその後ろを見ていた


「あんたも被害者ってわけね。 やっと見えた。 ずっとこいつを操ってたの? ()()()!」


 混沌の後ろにひずみが現れ、そこから美しい男が現れた

 その印象はとにかく異質。 彼には気配というものがなかった

 顔は笑っているが感情は感じず、話す言葉は理解できるのに聞こえず、呼吸をしているのに空気の流れがない


「今までありがとう、君のおかげでここまで来れた」


 混沌をねぎらうかのように言葉をかけるが、異放者の抜けた混沌はすでに消滅し始めている。 その目に異放者への憎しみを浮かべたまま。 そしてルーナ達に思いを託すかのように

 彼は消滅する寸前にパチンと指を鳴らした

 すると力を失ったミシュハやルーナの産みの親は崩れ落ちた


「さぁルーナ、サニー。 僕が君たちを全ての支配者にしてあげる。 こいつはだめだったけど、君たちなら十分僕を受け止められると思うんだ」


 異放者は少しだけ残った混沌の欠片を蹴り飛ばした


「異放者、大世界から別の大世界への行き来は種蒔く者から禁じられているはずよ」


 その言葉を聞いて異放者は少しだけ感情を見せた。 驚きながら聞き返す


「何故たかだか女神程度の君が種蒔く者のことを? 大神も知らないはずなんだけどね」


「私は力の女神よ。 あらゆることができるのが私なのよ!」


「おかしいなぁ、情報にはロックがかかってて見えないはずなんだけどなぁ。 君、誰かに教えられたね? まぁどっちにしても君はいらない」


 異放者が口で言葉を紡ぐとエイシャは驚愕の表情を浮かべた

 何をされたのかも理解できないままエイシャはこと切れていた


「え? エイシャ? 何をして…」


「さ、そいつはもう死んだから、二人とも僕と行こうよ」


 手を差し出す異放者をはねのけて二人は逃げた。 敵わないのは火を見るよりも明らかで、逃げれないこともわかっている

 それでもルーナはサニーの手を取って逃げた

 だが案の定サニーが捕まり、その体に男が入り込もうとした


「だめ!」


 ルーナはサニーの手を握りしめ、あの時のようにサニーの中に入りこもうとするモノを自分の体に吸収し始めた

 

「やめてお姉ちゃん! もうやめて! またお姉ちゃんに全部抱えさせちゃう! そんなの絶対ヤダ!」


 だがルーナは異放者を自分の体内に閉じ込め、抑え込め始めた


「ぐ、うう、ああああ」


 相当苦しいのか、ルーナはだらだらと汗を流し、目をギュッとつむっている

 やがてその動きが止まった


「お姉ちゃん…?」


 サニーが恐る恐る近寄ると、ルーナはカッと目を見開いた


「やった、やったぞ。 これで種蒔く者も我が手中に収まる! アハハハ、ありがとう器の双子よ」


 異放者に体を取られたルーナはその内部に抑圧され、自分の体を動かすことができなくなった

 そしてサニーを一瞥すると忽然と姿を消してしまった

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