石野の異世界放浪記11-6
地下の臭いはかなりきつく、鼻が曲がりそうだった。 さらにはネズミ型の魔物も多く徘徊しており、それなりに戦闘を行う羽目になった
「まぁ弱いからどうってことないっすけど、ここの臭いは勘弁してほしいっすね」
「下水なんてこんなもんだろ。 トコ、どうだ? 声は聞こえてるか?」
「ぐぬぬ、聞こえなくなったっち。 でも方向は分かるっちよ。 声のしてた場所までもうすぐだと思うっち」
そのままトコについて行くと少し開けた場所に出た
どうやら下水が一旦合流する場所のようだ
その場所の壁に扉が一つぽつんとある
「何だこの扉は…。 どう見てもこの世界のものじゃないぞ」
石野の言う通り、その扉は鉄扉で、ドアノブも握って回すタイプのものだ。 この世界にはドアや扉はあるものの、こういった現代的なものは一つもない
明らかな異質であった
「入ってみるっすよ」
岸田が手をドアノブにかけて回した
あっさりと扉は開き、中へ入ることができた
「暗いっすね。 えーっと、ライトライト」
岸田はもっていた懐中電灯(文明の発達した世界で買ったもの)を取り出してつけた
「誰かいるっち!」
トコはそこに潜む何者かを見つけて近づいていく
「おい、危険かもしれんから近づくな」
「大丈夫だっちよ。 この子があちきを呼んでたんだっち」
そこにいたのは傷つき、体中汚れ、やつれ切った少女だった
彼女は辛うじて生きており、か細い呼吸をしているようだ
手足から胴体にかけて太いチェーンによってがんじがらめにされており、口には猿轡をはめられている
これはまるで封印されているかのようだった
「なぜこのような場所に少女が? それにここまで厳重に動けなくされている理由が分からん」
「とにかく拘束を解いて治療するっち。 ひどいけがだっちよ。 このままだと命が危ないっち」
トコに言われた通りすぐに少女の拘束を解くと少女はうめいた
「大丈夫か? 何があったんだ?」
目を覚ました少女に石野が問いかけると、少女は弱弱しいながらも答えた
「こ、こは? 私、どうして、こんなところ、に」
どうやら彼女は何も覚えていないらしく、ここにいる理由もわかっていないようだった
「取りあえずここを出るっち。 もしかしたらこの国がこの子をここに閉じ込めてたのかもしれないっち。 誰にもばれないよう慎重に運ぶっちよ」
外に出ようと少女の体に巻き付いていたチェーンをはがして行く
だが彼女は何も着ていないようだった
石野は再び慌てて顔をそらし、岸田に布を渡して少女に渡してもらった
「これを羽織ってくださいっす。 ここを脱出するっすよ」
少女はうなづくと布を体に巻いて岸田の手を握った
「立てるっすか?」
「はい」
いまだ混乱している少女だったが、岸田の問いかけには少しずつ答えれているようだ
ゆっくりと部屋を出て地下道を進み、地上への階段を昇っていく
「追っ手もないみたいっす。 これなら大丈夫そうっすよ」
しかしその考えは甘かったようだ
突如四人を何者かが襲撃した
まるで影のようなその何者かは少女に肩を貸していた岸田の腹部を狙い、ナイフを突き出す
「おっと、危ないっすね」
軽々そのナイフを交わし、蹴りで手から跳ね上げた
影のような何者かは驚いたように目を見開き、予備に持っていたと思われるナイフを取り出して構えた
「こいつがこの子を閉じ込めてた見たいっすね」
「そいつだけじゃないっち。 そこら中にこいつらがいるっちよ。 あちきがついていながらなぜ気づけなかったっちか…」
トコは自分を責めるが、石野はそっとトコの頭を撫でて彼女を抱きかかえた
「数が多い、走るぞ!」
トコを抱え上げた石野は、少女を背負った岸田と供に走り出す
下水への扉を尻目に街中を駆け抜けた
「宿は張られてるだろうな。 ひとまずどこか隠れられる場所を探すぞ」
追手はグングン引きはがされていく
女神の祝福を受けている二人の身体機能は、人間をはるかに凌駕し、神獣の域へと達している。 そのため人間と思われる敵はその速さに追いつけないでいた
「うまく撒いたみたいっすね」
岸田は息を荒げているが、石野はまったくそんなそぶりも見せずに涼しい顔をしていた
また、その腕に抱かれたトコは顔を真っ赤にしてうっとりとしている
不可抗力でお姫様抱っこのような格好になったのが嬉しかったようだ
「ここは人目に付きにくそうだな。 リュコ、念のため不可視の結界を張っておいてくれないか?」
石野はリュコを呼び出すと、周りから見えなくなり、音も漏れない結界を張ってもらった
救出された少女はそんな石野たちを見て驚いている
「さて、お嬢ちゃん、君は何者なのか聞かせてもらえないか?」
険しい顔で見る石野を怖がったのか、少女は目も合わせようとしない
「あーもー石野さん、あんた顔しかめると怖いんだから、もっと優しく聞けないんすか?」
「そうはいっても俺の性分なんだが…」
岸田は石野に下がるよう促すと少女の顔を見た
少女と岸田の見た目年齢は大体同じくらいに見える
「ごめんっす。 このおじさん悪い人じゃないんすけど、顔怖いんすよね」
余計なことを言って拳骨を喰らい痛がる岸田は改めて少女に話を聞くことにした
そこから語られた少女の正体は驚くべきものだった