表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
320/384

大世界の勇者1

 勇者とは何を成す者なのか?

 人々を助け、巨悪を撃つ者なのか?

 勇を成してその猛を振るい、弱きの(しるべ)となる者なのか?

 とある勇ある者は言った。 勇者とは、皆を回す大きな歯車であると

 私はそうなれるのだろうか?

 助けるだけが勇者ではない。 守るだけが勇者ではない。 強さや優しさだけが勇者ではない

 勇者とは、自分の中にある勇を人々に分け与え、共に歩む者

 私はみんなと一緒に歩きたい

 同じ場所に立ちたい

 あの子が本当の勇者なんだろう。 私は勇気がないから。 そして何より私は弱い


「桃、そろそろ行くぞ」


「ええ、グリドさん」


 私には力が足りない。 守りたいのに守れない。 あの子は今どうしているのだろう

 故郷に帰れたのかな?

 神様にも劣らない力を持ったあの子

 今まで来ていた定時連絡が途絶えて半年以上、あの子を追いたいけれど、私にその力はない

 悔しいけど限界は自分が一番よく分かってる

 この世界では最強でも、今ここにいる別世界から来たグリドさんの足元にも及んでいない

 きっと、ここが限界何だと思う

 

「そんなことはありませんよ」


 急に私の頭に声が響いた

 幻聴? 私の弱い心が生んだ幻なの?

 

「勇者桃、貴方こそ全てを救うカギとなる勇者。 きっとわかるわ。 あなたにこれを」


 頭の中の声が語り掛け、私にこたえる

 そして見えるはずのないビジョンがなだれ込んできて、私は気を失った


 数日後、目を覚ました私の前に心配そうな双子女神がいた。 この二柱の女神さまはこの世界を守る女神

 下位女神という位置付けで、上位の神々から生まれた存在

 

「よかった。 気づきましたね」


「ほら、これを呑みなさい」


 双子の一人、マルセタリア様がリンゴのジュースを差し出してくれた。 それを一気に飲み干して立ち上がる


「待ちなさい、どこへ行くのです?」


 あれ? どうして私は立ち上がったのだろう?

 分からない。 分からないけど行かなくちゃ


「女神様、私」


 そう言いかけたところで目の前の空間にひびが入った


「な! 転移門!? なぜこのようなところに」


 それは転移門や次元の歪と呼ばれる、異世界と異世界をつなぐ扉だった

 私もかつて通った穴


「行かなくちゃ」


「桃! どうしたの!? どこへ行くというの?」


 脅威の去ったこの世界にもはや勇者は要らない

 それに今は勇者よりも強い人々がいる

 行かなきゃ。 あの子の元へ。 ()()()と共に

 体に何かとてつもなく大きな力が宿っているのを感じる

 きっとこれがあの声がくれた贈り物なんだろう

 

「すいませんアウラスタリア様、マルセタリア様。 行かなくちゃいけなくなりました。 あの子の元へ」


「桃、一体何を言ってるの? 上位の神の加護がないあなたがその門をくぐればただじゃすまないわ! 早く離れなさい!」


 以前この門をくぐった時はこの世界へ招かれたから通れた。 でも今のように勝手に開いた門を通れば、一度体の再構築が行われている私は死ぬだろう

 でも、そうならない自信があった

 そして、私はもう人じゃななくなってる


「もしまた会うことがあれば、その時はまた仲良くしてくださいね」


 二柱が制止するのを聞きながら、私は門をくぐった


 眼を開けると真っ白な世界。  何もない、何も…


「やっぱり来てくれましたね」


 その場所で声だけが響いた


「誰なんですか? あなたは」


 そう聞くと私の前に真っ白な霧が発生して、ぐるぐると渦巻き始めた

 その霧はやがて人型となり、一人の美しい真っ白な女性となって私の前に立った

 身長は2メートルはありそうなほど高くて、見上げなければ顔が見えない


「フフ、ここは種をまいて以来来てないから久しぶり。 ここまで育ってくれて嬉しいわ」


 何を言っているのか分からない。 この人は、一体誰?


「あらあら、警戒しないで愛しい子、全ては花咲いた結果よ。 余計な害虫を駆除しなきゃ。 あなたは薬、私は蒔く者。 世界は花。 開花すれば世界。 見てほら、こんなにも世界は美しいわ」


 彼女が手を広げると、たくさんの世界の情景がまるで花のように咲き乱れた


「でも、コレは私の愛しい子を蝕む。 狂おしいほど口惜しい。 さぁ愛しい子、あなたはコレを止めるの。 愛しい子、お願い。 私はもう限界が来る。 この世界にいることはできない。 それが決まり事だから」


 女性は悲しそうな顔をしている

 少しわかった。 きっとこの人は私に何かを止めて欲しいんだ

 でも、なんで私? 私は、とっても弱いのに


「あなたは強い。 信じて。 あの子たちを助けてあげて。 導はあなたと共に。 見えるはず。 仲間はたくさんいるわ。 私自身で止められないのが腹立たしくてたまらない」


「分かった。 あなたが誰だか分からないけど、私にできることがあるなら」


「ああ、愛しい子。 本当に愛おしいわ。 さぁお行きなさい。 大世界の覚醒勇者」


 それだけ言うと彼女はふわりと花のような香りを残して消えた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ