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リーダーの合図を皮切りに、まずは見張りの盗賊たちを弓やボウガンで静かに排除していく
扱いに長けた冒険者が放ったため声もなく見張りは息絶えた
そのまま音を立てないよう先遣隊数人が洞窟へと入った
彼らはCランクの実力者だ
そのあたりの盗賊なら軽くいなしてしまうだろう
案の定異変を察知し、真っ先に出てきた盗賊たちは瞬殺されていた
「敵だ!討伐隊が来やがった!」
どうやら一人取り逃してしまったらしく、騒ぎながら奥へと逃げていった
「全員突撃!」
リーダーがそう叫ぶと一斉に冒険者は洞窟へと入っていった
桃たちもそれに続く
奥からは続々と盗賊たちが出てくる
双方入り乱れての乱戦となった
「ほぉ、なかなか上玉なガキどもがいるじゃねぇか」
どうやら盗賊に目をつけられたらしい
何人かが下品な笑いを浮かべながら桃たちに迫る
しかしその笑顔はたやすく崩れ去った
桃たちの思わぬ実力に面食らっているようだ
「やべぇ、強ぇぞこいつら」
「一斉にかかれ!」
一人の盗賊が呼びかけると桃を6人の」盗賊が取り囲んだ
「まとまってやりやすくなったね!」
「大一閃!」
剣の幅を打ち付けるようにして回転し、盗賊を穿つ
取り囲んでいた盗賊たちは重い一撃を受けて全員気絶した
「二号ちゃん捕縛!」
先の戦闘でボロボロになっていたパリケルの人形“パリケルちゃん二号”はすっかり綺麗になっている
その腕から縄のあみを射出し、気絶した盗賊を捕らえた
「次が来てる!桃さん、気を付けてください!」
アルが盗賊の一人と競り合いながら桃に言う
競り合っていた盗賊を風の魔導で吹き飛ばすとすぐに次の盗賊に斬りかかる
次から次へとまるでアリの巣をつついたように出てくる盗賊たち
この辺一帯では最大勢力を誇っているだけのことはある
桃もアルも多少苦戦はしてるもののどうにか倒している
他の冒険者も何人か怪我はしたが、実力者ぞろいのためそれほど問題はない
問題はまだ出てきていない幹部クラス
恐らく実力もDからCランク、幹部が出てくればCランク冒険者が相手する手はずとなっている
いよいよ盗賊たちも減って来た
「おかしい、幹部連中はどこだ?」
リーダーがつぶやく
そこに外の見張りをしていた冒険者たちがやって来る
どうやら幹部連中は裏口から逃げているようだ
現在外に控えていたCランク含む冒険者が足止めしているが劣勢らしい
「分かった!すぐ行こう!」
「君たちも来てくれ!」
リーダーが呼んだのは桃たち
彼女らの実力を見て判断してのことだった
急いで裏口の方へ向かう
外の冒険者とこちらで挟み撃ちにするためだ
やがて見える洞窟の出口
入口より狭いが人が通るには十分だ
外では激戦が行われている
おたがいが大小怪我を負っており、冒険者たちの方が押されている
倒れた冒険者の中には死人もいるようだ
「かかれ!」
リーダーが指示を出す
桃は緊張しながら背負っていた剣を抜いた
ここからは先ほどのような下っ端とは違う本当の実力者との戦いとなる
幹部と思しき盗賊の一人、明らかに先ほどの盗賊たちとは装備の質が違っている
恐らくマジックアイテムなどで固めているのだろう
それがこちらに気づいた
「頭!援軍です!」
頭と呼ばれた片目を眼帯で覆った男が振り返る
「ほぉ、あれは、勇者持ちがいやがるな」
頭は眼力で桃の職を見抜く
特殊な鑑定というスキルで彼は大勢の盗賊を率いる頭となった
その眼力は相手の弱点を見抜く
「ん?どういうこ…と…だ?ありゃぁ…」
その視線はルーナに止まっている
「アンノウン?不明?何もわから…」
そして、彼は見てしまった
そのためか、戦意は完全になくなり、おびえ切り、自ら投降した
「嘘だろ、あんな化け物がいるなんて…」
ブツブツと一人ごとのようにつぶやく
「何言ってんだこいつ?」
冒険者の一人が疑問に思っていると、突然盗賊頭が叫んだ
「お前ら!何なんだそれは!」
「どっから連れてきた!」
騒ぎ出す盗賊頭を不思議に思う
その盗賊頭が指さしているのはルーナだった
「今すぐ俺を連れてってくれ!牢でもどこでも行く!早く!」
騒ぐ盗賊を馬車に詰め、牢獄街と呼ばれる囚人たちを入れている街へと送った
「いったい何だったんだあいつは?たった一人の少女に何をおびえているんだ?」
「君たちは何か知っているのかい?」
そう言われたが答えるわけにはいかない
「さ、さぁ?おおかた数にびっくりして投降したんじゃないんですか?」
桃はあいまいに返事をする
一応はそれで納得したようだが、どうにも腑に落ちないと言った顔だ
これで盗賊退治の依頼は落着した
それぞれが帰路につくことになり、桃たちもコリューカへと戻った
――――――――――
牢獄街の一角で一人の盗賊頭がおびえている
「俺は見た、見たんだ…」
「本当の化け物を」
「あんなのどうやったってこの世のどんな生物もかなわねぇ」
「もう終わりだ。滅びるのを待つしかねぇんだ…」
男は静かにむせび泣いた
「あの、破壊の神は、誰も止められねぇんだ」