石野の異世界放浪記11-2
その村はかなり質素で簡素、人々は貧しくやせ細っている。 村人に話を聞いてみると、ここ最近増えた魔物のせいで流通は滞り、狩りにも行けず、このまま死に絶えるしかないと思っていたところに石野たちが来たのだった
「取り合えずこれをどうぞ」
石野は女神アマテラスから賜った袋から魔物の肉を取り出して渡した。 この村の住人が有に数ヵ月は暮らせるほどの量だ。 そこにリュコが保存用の処理を施し腐らないようにしておく
「次はこの村に入り込む魔物の問題を解決しないとっすね」
数ヵ月前までは村に魔物が入り込むなどということはなかったのだが、ここ最近になって日に数匹もの魔物が入り込んで荒らしていくのだと言う
戦える男たちも深手を負い、今は周囲に穴を掘ることで少しは侵入してくる数を減らしたのだが、その穴を飛び越えて侵入してくる魔物も多いため、ついに犠牲者が出始めた
村の奥はそんな者達の墓であふれている
「結界を張ってもいいっちけど、それじゃあちきたちがいなくなったとき効力が薄れて消えちゃうっちよ」
トコの指摘に石野はしばらく考えた結果、防護壁を作ることを思いついた。 それもやぐらやネズミ返しもつき、強固な門に守られたものである
「リュコ、木を伐りだしてきてくれないか? トコは丈夫なツルで縄を編んでくれ」
「分かったぞ! ちょっと待ってるがいい! たくさん持ってくるぞ!」
「石野、あちきと一緒にツルをあむっちよ。 ほら、足の上に抱っこするっち」
トコは石野と一緒に作業ができるのが嬉しいのか、頭を擦り付けながらちょこんと石野の組んだ足の上に座り込んだ
そこから村人と協力して壁に必要な素材を作り、リュコが大量に取って来た木や巨石などを加工して10日ほどで村を囲む壁を完成させた。 リュコ、リコ、トコの力はすさまじく、およそ人間だけではここまで早く完工することはできなかっただろう
「ありがとうございます! これで村もしばらくは安泰です」
しばらくはというのは、食料がなくなれば再びひもじい思いをしなくてはならなくなるということだ。 そうならないためにも魔物が増えた原因を探らなければならない
「リコ、ここから街の探知はできるっすか?」
「ちょっと距離が遠いでござる。 行ってみないことには…」
リコの探知でギリギリ届かない距離に大きな街がある。 この村からはかなりの距離があるため、弱った村人が移動しようにもできない状況にあった
「これは俺たちで救援を頼みに行くしかないな。 村長が言うには街に彼の娘がいるらしいので安否確認もしてほしいそうだ」
石野は村人たちの願いを背負って村を発った
「街は確かこっちの方っす。 そこに転移者もいればいいんすけど」
村からは整備された街道を通っていくのだが、その道中もかなりの数の魔物が襲ってきた。 どれもこれも今のあの村人では殺されるであろう強敵ばかりである
「うう、多いっす。 疲れたっす」
岸田は村人たちのためにと奮闘しすぎたため、街までまだ半分ほどの距離でばててしまった
「さ、先行っててくださいよ石野さん。 俺後で追いつくんで」
「そんなことできるわけないだろう。 ほら見ろ、今も魔物が狙ってるじゃないか。 ここにお前を置いて行ったら死ぬぞ?」
「だったら拙に乗るでござる」
「うむ、我らに乗るがいい」
「でも二人とも疲弊してるっす」
リコもリュコも岸田ほどではないが、連戦に次ぐ連戦によって体力がかなり奪われていた。 それでも岸田と石野を背に乗せるために変身した
「すまないリュコ、リコ」
「気にするな! 石野たちのサポートをするのが我らの使命なんだぞ」
そこからはそれぞれがそれぞれの背に乗って街まであっという間に飛んだ。 到着した瞬間に二人は倒れたため玉に戻し、ゆっくりと休ませる
「ここからはあちきが何とかするっち。 この目は探知もできるはずだっち」
トコの口ぶりから自身はなさそうだったが、過去に狂気の眼を使いこなしていた月兎は様々な目に関する能力を使えた。 そのためトコにも同じことが出来るはずだ
「ぐぬぬぬぬ、石野のために、頑張るっちよ!」
眼の力を発動させてさらに眼に力を籠めた
「見えるっち! 行けそうだっちよ!」
トコの眼には全ての力の流れが見えていた。 人間の生命力や地脈の力、魔力の流れや痕跡までもが手に取るようにわかる
「う、ぐぐぐ」
まだ慣れていないためか、トコに相当な負担がかかっているようで、鼻から血が垂れ始める
「お、おい、無理するなトコ。 もういいから」
石野が止めるが、大好きな石野のためにトコはやめようとしない
「見えたっち! 街の中央! そこに転、移、しゃ」
眼から血を流しながらトコは倒れてしまった。 脳に負荷がかかったため気絶してしまったようだ
「ありがとうトコ、ゆっくり休んでくれ」
トコを玉に戻すと石野は街の中央へ、岸田は村長の娘が働く宿屋へと赴いた