石野の異世界放浪記11-1
七星と燐奈、二人をあの世界に残したまま次なる世界へと石野たちは飛んだ。 トコは相変わらず石野にしっかりと抱き着いたままである。 それを羨ましそうにリュコは見ている。 リュコも石野に抱き着きたいのだが、幸せそうなトコを見て自分は身を引いているのだ
「ふむ、ここは寒いな。 石野、もう少し我に近づくといいぞ」
「ん? ああ」
降り立ったのは極寒の大地。 猛吹雪と深い積雪によって体力はどんどん奪われ、岸田に至っては既に眠そうに目をトロンとさせている
岸田の肩を抱えてリュコのそばによると、その周囲が温かかった
「我はこのくらいの雪はどうってことないのだが、お前たち人間にはつらいだろう。 我の体からは高熱を発しておるからこの辺りだけ暖かいんだぞ」
リュコは自ら熱を放出することができる。 これにはかなりのエネルギーを使うため常に何か食べていなくてはならなくなるのだが、幸いにも食料は様々な世界で大量に手に入れている。 中にはリュコの大好物であるから揚げもあり、それをリュコにあげている
「はぁ、からあげ、なんて素敵な食べ物。 我の夫になってほしいぞ」
リュコは唐揚げを頬張りながら発熱し、大雪原を進んでいく
それから3時間ほど歩き続けたところ、急にリュコが立ち止まって石野たちに制止するよう促した
「気配がするぞ。 かなり危険な気配。 岸田、リコも呼んでおいて欲しいぞ」
どうやらリュコの感じている気配は三神獣の力を合わせなければならないほど危険なようだ
「分かったっす。 リコちゃん、出てきてくれっす」
岸田が胸元から取り出した馬と書かれた玉をかざすと、リコが飛び出た
「ご主人! 拙見参でござる!」
レライアに会えたことですっかり元気になったリコは、どうやら玉の内部空間で更なる修行を積んでいたようで、神力が上がっていた
「来るぞ! 全員戦闘準備!」
リュコが叫ぶ。 直後に前方の雪が盛り上がって巨大すぎる青い百足が現れた
「何と巨大な…。 リコ、トコ、力を貸してほしいぞ!」
「「うん」」
二人はリュコの隣に立つとその力を余すところなく解放した
敵対するのは神話級と呼ばれる神々をもってしてようやく打ち倒せるほどの強敵、国喰いと呼ばれる魔物だった
「「三神獣三位一体! 月影送り!」
トコが高く飛び上がると狂気の眼で月の幻影を空に浮かべた。 するとそれに吸い寄せられるように国喰いがそちらの方向を見つめる
リコは国喰いの背中を駆けあがっていた。 雷を纏った神刀を突き立て斬りつけていくが、相当な硬度を誇っている国喰いの鎧には傷一つついていない
リュコはその間に神力を限界まで溜めている。
月の幻影が金色から赤く染まり、ゆっくりと国喰いに落ちてきた
リコの刀による目にもとまらぬような斬りつけが少しずつ国喰いの表面を削り取り始めた
リュコの神力は体内で爆発的に膨らみ、それを一気に拳に集約する
「くらえ蟲!」
赤い月が頭にあたると国喰いの視力が奪われた。 まわりが見えなくなりもがき始めた国喰いの足の関節部を狙ってリコが砕き折っていった。 その間にリュコの拳の輝きがよりいっそう増し、リュコはゆっくりと国喰いを見上げる
「これで終わりだ大百足!」
リュコは翼を広げて舞い上がると国喰いの頭上で翼をたたみ、拳を振り下ろした
激しい金属音のあと、百国喰いの頭にひびが入って砕け始めた
「うむ、なかなかいい感じだったぞ。 初めての連携にしてはな」
三人はこの日初めて連携をとったようだ。 長い間一緒にいたためなのか、その息はよく合っており、これからの戦いでもいかんなく発揮できそうだ
砕け散った国喰いの残骸、 三人はこの世界には他にも神話級の魔物がいるかもしれないことを理解して、再び先に進み始めた
「リコちゃん、転移者の気配は分かるかな?」
「うーむ、この辺りにはいないようでござる。 転移者の気配を全く感じないどころか、人間の気配もないでござる。 魔物はたくさんいるみたいでござるが」
リコがそう言った途端に真っ白な毛並みの狼に取り囲まれた
「やれやれ、とんでもないところに降りちまったみたいだな、俺たちは」
石野はアマテラスより賜った神刀を抜くと回転し、一閃した
たった一撃で囲んでいた数十匹の狼を切り伏せる
「先を急ぐでござる。 まだまだ魔物がいるでござるよ」
リコの言った通り、それからも次から次へと魔物が襲ってきては石野たちに倒されていく
相当な数が襲っては来ているが、石野たちにはトコという切り札もある。 彼女の狂気の眼は一気に魔物たちを狂わせ、同士討ちさせる。 石野たちは最後に残った数匹を倒すだけでいいため、体力の温存が出来た
「む、この先に人の気配が複数あるでござる。 大きさからして村だと思われるでござる」
まだまだ襲ってくる魔物を倒しながら、一行は数分後にようやく村にまでたどり着けた