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混沌を探す。 神々には秘策があった。 今や全ての神々が協力し合えるようになり、監視の神キュカを含め、様々な電子の飛び交う世界を見ることのできるマキナ、あらゆる生物の眼から世界中の情報を得ることのできる眼の神ギゼル、情報を収集し、読み解く情報の神ケルネリスなど、混沌のほんの少しの情報をもつかむことができるようになった
三柱とともに来たリゼラスだったが、彼女はくちを出せずに三柱の様子を見ることしか出来ないでいた
「目撃情報がケルエリス兄様の元に集まったみたい」
エイシャがその情報を確認していると、その中に気になる情報を見つけた
「これ、見て。 混沌、封印? 封印されてたってこと? あ、この情報はあなたたちの友達が調べてくれてたみたいよ」
ケルネリスの送って来た情報は紙のように薄い媒体で、そこに文字や写真や動画のようなものが映し出されていた。 その中の一つにアカシックレコードと書かれたものがある
それがパリケルの手に入れた混沌に関する重要な情報だった
アカシックレコードの限界を超えた情報だったが、原初を連れ出せたことでその情報が手に入ったのだ
パリケルが調べた限り、混沌は原初が生まれるよりも前、大世界が出来た頃に生まれた。 もともとこの大世界を一人で彷徨っていたのだが、他の大世界から来た違法者、通称種蒔く者によって原初が作られ、混沌は支配者ではなくなった
もともとが危険な思想の持ち主だったのか、それともショックを受けてねじ曲がったのかは分からないが、混沌は原初を殺して取り込み、もう一度この大世界の支配者になろうとした
しかし原初とその護衛に阻まれ、混沌は封印される。 その際原初と護衛は一部の記憶を失ったというものだった
「それじゃぁ混沌は今になって復活したってこと?」
「ええ、私達神々を仲違いさせたのもこいつが裏で糸を引いていたから。 闇が三種族間での和平を蹴ったのも、全ては混沌が暗躍していたから…。 こいつのせいで、アストは…」
エイシャはかつて自分が愛し、愛された人間の勇者のことを思い出す
「とにかく、そいつを倒せば全て丸く収まるってことでしょう? だったら見つけ出して、徹底的に破壊してやるわ」
サニーは自身の持つ力の強さを理解していた。 中位以下の世界ならばその全てを簡単に破壊しつくせるだけの強力な力。 シンガでもそこまでの力を有してはいない。 当然混沌への対抗策として十二分に混沌を討ち果たせるだろう
「今いる場所が分かったわ。 ここは…。」
そこはまさしくこの三柱が出会った場所。 二人がまだサニアとルニアと呼ばれていた世界。 二人の産みの両親が眠るエイストラハイムだった
「私達の、世界」
ルーナとサニーはそれぞれがその思いにふけっていた
数千年前に自分たちが生まれ、壊し、そして神の力を手に入れた世界
この世界にはルーナとサニーの産みの母と短いが母として自分たちを愛してくれた二人の母が眠る
二人ともすでにルーナとサニーを守って亡くなっていた
「この世界はあなたたちにとってはつらい思い出がある場所だっていうのは分かってる。 もし嫌なら私だけでも」
「行く。 私も行く。 あんたがお母さんを殺したのは絶対に許さない。 でも、この世界にはお母さんが眠ってるんだもん。 せめてお墓参りだけでもしたい」
「私も行きます」
ルーナもサニーも同じ思いのようだ。 混沌を追うのも重要だが、二人は両親、そしてもう一人の母であるミシュハに今までの報告をしたかった
「わかった。 もし混沌が出たら私が盾になる。 だから二人で攻撃して。 もし私が捕まったり洗脳されたりしたら、私ごと殺しなさい」
それはエイシャの償いと覚悟。 双子の母を殺してしまったことと混沌を倒さなければならない使命感が混在していた
「わかった。 そうなったらあんたごと殺してあげる」
「ちょ、サニー」
「お姉ちゃんだってこいつのこと憎んでるでしょ! こいつのせいで私達はお父さんとお母さんを失ったの!」
ルーナにもそれは分かっていたが、エイシャも混沌によって狂わされていただけだとわかり、内心は複雑だった
「とにかく、今は混沌を倒すことだけ考えようよ」
サニーを落ち着かせ、エイシャを見る
「私の方はもう覚悟はできてる。 アズリア姉様やマキナ姉様は悲しむかもしれないけど、これは私のつけるべき落とし前だもの」
三柱のそれぞれの考えが交差する中、エイストラハイムに移動し、降り立った
情報を得てから混沌の気配が分かるようになっている。 近づくにつれて強く濃くなっていく気配。 今までどこにも感じなかったはずの混沌の気配。 封印が解けてからずっと暗躍していた混沌はもはや自分のことをを隠そうともせず動いている
大きな戦いの波がまもなく始まろうとしていた
その渦中にいるルーナとサニーは自らの使命と生まれた意味をこの時確かに理解した