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集合と散在は異放者の後ろに瞬間的に回り込むと腕を鋭い剣に変えて振り下ろした。 異放者はそれを避けようともせずにその身に受けて笑う
「コレから強いって聞いてたけど、やっぱりこの程度じゃないか」
異放者はパリケルの死体を蹴り飛ばした
「やめろぉおお!」
怒り狂った集合と散在の体をメロの体から出た白い鎧が覆う。 鎧とはいってもその形は曲がりくねった樹木のようで、ところどころが刺々しい
「ゼル・ブラボラ!」
集合の力を使い異放者を吸い付けその腹部を切りつけるが、異放者の体はねじ曲がりかすっただけだった
「ガザ・メキナ!」
フィフィの声が響くとメロの腕が切り離されてねじ曲がった異放者の胸元に深々と突き刺さり、そのままメロの腕ごと遠くへ飛んでいった
「集合」
飛んでいったメロの腕は素早くその体へと帰った
「まだ、死んでないみたいだ」
「ええ、全力でいくわ」
異放者の飛んでいった方向へ走り、いまだ吹き飛んでいる最中の異放者を棘のついた足で蹴り上げる。 今度はこの空間のはるか上空まで飛ばされた
「エレ・ビブタレ!」
腕をハンマーのように変質させると叩き落し、ぐしゃりと言う音と共に地面にクレーターが出来た
「エドラ・バルドバ!」
自身の体全体を硬質化させてさらにいずこからか質量の重い物質を体に吸収してそのまま異放者に向かって高速で落ちた。 ゴシャリという違法者がつぶれる音。 集合と散在はすぐに飛びのいて異放者の様子を確認した
「やった、の?」
「動かないね」
二人は恐る恐る近づくが、やはり異放者はピクリとも動かない。 それを再度確認してから蹴り飛ばされたパリケルの死体へ駆け寄った
ゆっくりと抱きかかえると、失ったはずの体温が戻り、頬もうっすらと赤みを帯びて生気を取り戻していた
「主、様?」
パリケルはゆっくりと目を開く。 首の傷は少しずつだが再生していた
「ゲホッ、ゲフゲフゲホッ! ああ、来てくれ、たのか、ぜな…。 守護者」
生きていたパリケルを二人は抱きしめた
さかのぼること数ヵ月前、集合と散在はあてどもなく自分たちの住処を探して旅していた。 異形の彼女たちを受け入れる世界はなく、少しばかりの友人はできたが、その友人たちも放浪する旅人だった
そんな中、二人はある世界でアカシックレコードの断片を発見した。 自分たちと同じ波長を放っていたそれに触れるとその中の全ての情報が二人に流れ込んだ。 二人はそこで自分たちの使命を知ったのだった
「主様、お守りします、必ず、いつまでも、貴方と共に」
二人はまだ立てないパリケルにかしづき、その忠誠を誓った
二人の動きが止まる。 パリケルは動けぬ体で動かなくなった二人を見た
「守護者?」
二人は無言のまま頭からバラバラになって崩れ落ちた
「ふぅ、ちょっとはやるみたいだけど大したことなかったか。 せっかくわざわざやられてあげたのに拍子抜けもいいとこだよ」
グチャグチャの死体を踏みつけながらパリケルに近づいてくる。 しかしその歩みは急に止められた
「主様に、近づくな!」
ドロドロに溶けて混ざり合った二人が違法者の足をしっかりとつかんでいた
「死にぞこない、邪魔だよ」
その手を蹴ってパリケルを殺そうと手を伸ばした
「ゼグラ・ベオルブ・マーブレバラ」
二人は流動しながら異放者を飲み込み始める
「な、に?」
飲み込まれた場所から体が溶け始め、二人の体内へと吸収されていく
「やめろ! 僕を喰っているのか! う、ぐお! 放せ!」
いくら取り払おうとも分裂し、分裂した体はそれぞれが再び絡みついてどんどん飲み込んでいき、異放者は体の右半分を喰われたところでもがくことも喋ることもできなくなった
「最後まで喰らってやる。 お前は僕に集約されて一部になるんだ」
抵抗しなくなった異放者は最後の最後に小さくつぶやいた
「一体失ったが、収穫もあった」
二人にも聞こえないほど小さな声だったため気づかれてはいない。 異放者は最後に、かすかに笑った
「主様、無事敵を討伐いたしました!」
動けないパリケルを抱き起す
「よくやって、くれたぜな、守護者…。 俺様は少し、眠る、ぜ、な」
パリケルはアカシックレコードによって再生されていた。 彼女はアカシックレコードの本体と魂が直結しているため体がいくら傷つこうとも死ぬことはない。 眠ってしまったパリケルを二人は優しく見守る。
そしていずれこの場所は知識の世界と呼ばれ、守られる場所となる