始まり1
何もない空間に男と女が立っていた。 地面もない空間の筈なのに立っているのだ
男の方は手のひらサイズの箱を取り出し、そこから黒い種のようなものを取り出した
「この辺りでいいだろう」
男は種をその空間に浮かべる
「頼む」
「ええ」
女の方がその種に何やら自分の力を注ぐと、種は膨らみ弾けた
「あとはこの子を」
「あなたは始まりになる大切な子。 この世界をお願いね」
女性は膨らんだ種の中から赤子を取り出すと、種の残骸をゆりかごにして赤子を中に入れなおした
「お前たち、この子を頼んだぞ。 もしこの世界に害を及ぼす世界が生まれたときはお前たちがその世界を滅ぼすんだ」
「「はい!!」」
同じ顔をした7人の少女がいつの間にか傍らに膝ま付いていた
「キキリリ、お前はリーダーとして動け」
「わかったの! 必ずやお役に立てるようにキキリリは頑張るの!」
男はキキリリと呼んだ少女がやる気を見せていることに満足し、その頭に手をポンポンと添えて空間から消えた
ここは世界の始まり。 原初の生まれた場所
その彼女を守るように7人の戦士が彼女をのぞき込んだ
「この子がニニミミたちの守るべき主様」
「シシララは命に代えても守るのだ」
「このメメナナの役目であるそれは」
7人の姉妹は口々に原初への愛を語り、かわるがわるにその子を抱いてあやし、成長するまでの母代わりとして大切に育てた
「ふひぃい、大分世界が構築されてきたじぇ~。 タタムムちょっと見てくるじぇ」
「待つっさ。 どうせ一人で行けばなかなか帰ってこないっさ。 ココエエもついていくっさ」
「お前も見に行きたいだけじゃ? だったらザザビビも見に行きたいじゃ」
タタムム、ココエエ、ザザビビの3人は満場一致で一緒に探索することにした。 現在他の4名は原初のために空間の改築中で離れている。 つまり3人がここからいなくなれば、彼女を守る者がいなくなるということだった
「ちょっと行ってすぐ戻れば大丈夫じゃ。 ほんのちょっと、ほんの少し見るだけじゃ」
「うんうん、ココエエもそう思うっさ」
「じゃ、いくじぇ!」
3人は原初をそっと寝かせると空間の端を見に行った
そこをこの空間目指して外宇宙から何者かが狙っていることも知らずに
外宇宙とは異なる宇宙。 世界一つ一つに異世界があるように、その異世界がまとまった宇宙も別宇宙がある。 全く別の法則、時間、人、世界がある外宇宙から、まだ始まってすらいないこの世界を乗っ取ろうと何者かが虎視眈々狙っていた
「おー、これはすごいじぇ。 もうこんなに広くなっているじぇ」
「うんうん、ココエエもそう思うっさ」
3人が世界の広さに感心していると、世界を裂いて何かが入り込んだ気配を確認した
「まずいかもしれないじゃ。 早く戻るじゃ!」
ザザビビは7人の中でも一番の速さを持つ。 真っ先に原初の眠る世界の種の元へと戻った
その種の横に口を大きく開けて笑う男がいた
「やったよやった。 種だ種。 もらった貰った」
原初を掴むと男はその場から去ろうとする
「待つじゃ! ザザビビたちの主様をどこへ連れて行くつもりじゃ!」
ザザビビの手からくるくると回転しながら大槍が出てきた
「無槍、ZZBB」
自分の体の一部である生体槍の“無槍ZZBB”、その力は空間ごと削ぎ消すというもの
「ふひゃひゃ、あああ、あいつらこんなの置いてったのかぁ。 じゃぁお前を消せばこの子は僕のものってことになるなるなるね」
男が原初を黒い靄で包み込み、宙に浮かべる
「その子を! 放すじゃ!」
槍を男のいる空間ごと削り消すと、男の肩が抉り消えた
「ふっひゃ、取れた取れた。 肩無くなった」
男の傷口は黒い靄に覆われて一瞬で再生する
「な、そんな馬鹿なことあるわけないじゃ。 空間を削ったじゃ! 再生するはずないじゃ!」
ニタリと笑う男はザザビビの頭をがっしりとつかむと空間に叩きつけた。 天井も床もないはずの場所にグシャリとザザビビの頭がつぶれる音が響いた
「ザザビビ! よくも妹をやってくれたじぇ!」
「ねえちゃま!! 頭が…」
ぐちゃぐちゃにつぶれたザザビビの頭を見てココエエは口を押えて驚く
「未剣、TTMM」
タタムムが生体剣“未剣TTMM”を男に向ける。 TTMMの力は未来そのものを終わらせる力。 斬られた先からの未来は訪れることはない
「せりゃだじぇ!」
男の胴を切り、未来を終わらせる。 が、男はただ笑って一向に終わらない
「なじぇ!? タタムムの剣は未来をっ」
今度はタタムムの脚を掴むとそのまま縦に裂いてザザビビの上に叩きつけた
「よくもねえちゃまたちを! 許さないっさ!」
ココエエの手にいつの間にか盾が構えられている
「絶盾、KKEE」
生体盾の“絶盾KKEE”は、ありとあらゆるものを防ぐ。 それは彼女に及ぶ概念や理不尽からもだ
「ふひゃひひひゃ、あああ、ぐちゃぐちゃだぁ」
踏みつけ、にじり、二人はもはや人型を保っていない。 その体の一部を拾い上げるとココエエに向かって投げた。 それは放物線を描いて向かって来る
「その程度、盾で防ぐまでもないっさ!」
飛んで来る体の一部を避けて男に盾をぶつけた
「ここまでっさ! お前という存在を防ぐっさ!」
彼女の盾によって男は存在することができなくなるはずだった
「あ、あれ? なんで? 今、避けたのにっさ」
ココエエの胸から下がちぎれ落ちている。 男の投げたモノが吹き飛ばしたのだ
「おおおお前も、潰れちゃえ」
男はココエエの残った胸から上を同じように踏みつけて潰し、ぐちゃぐちゃになったその感触を楽しむように笑う
「タタムム! ザザビビ! ココエエ!」
そこに他の姉妹たちが帰って来た。 妹たちの惨状を目の当たりにして彼女たちは怒る
「実拳、MMNN」
「狂棒、SSRR」
「隠本、NNMM」
「壊眼、KKLL」
4人はそれぞれの生体武器を構えて男を囲んだ