エイシャの死闘
エイシャ達の隠れ城に突如襲来したそれは瞬く間に複数の神々が戦闘不能にされていく。 得体のしれない黒いモノからは闇の気配がした
「エイシャ! 速く逃げなさい! マキナ、エイシャをお願い」
「分かったよんお姉ちゃん。 ほらエイシャ、早く!」
エイシャはマキナに手をひかれるがその場から動こうとしない
「いやです! 姉様たちが!」
「いいから早く行きなさい! ここはわたくしたちが食い止めま」
そう言いかけたときアズリアの手足を黒いモノが切り裂き、その手足を奪った。 吹き出る血を見てエイシャは叫んだ
「いやぁ!! 姉様! アズリア姉様!」
マキナ、それに十数柱の神がエイシャを守るように囲み逃げる。 その間にもエイシャをかばって周りにいた神々は落とされていく。 惨劇を前にエイシャは何もできずにいた。 ただマキナの腕をしっかりとつかみ、歯を食いしばる
「ルーナちゃんのところへ行くよん。 あの子ならきっと、それにいなみちゃんもいる。 あの子たちなら」
突然マキナがエイシャを掴んでいた腕を放す
「マキナ姉様?」
「逃げてエイシャ。 力が続く限り遠くへ!」
マキナの腹部から黒い槍のようなものが突き出ているのが見えた
「いや、やめて、マキナ姉様を放して!」
エイシャがその槍を掴もうとするがマキナはエイシャの腕を掴み、電子の力で反発させて吹き飛ばした
「逃げ、て」
エイシャは飛んだ。 マキナに言われた通り力の続く限り。 逃げ切る直前にその正体をしっかりと見た。 一件少女のような顔をした顔に傷のある男
その顔はいびつな笑顔に歪み、マキナから自分の腕を抜いた
「姉様、必ず戻ります!」
涙ながらにグングンと男を引き離して逃げ切ると転移を開始した。 目標座標は既に設定してある。 ルーナのいる世界へとエイシャは一気に飛んだ
力の奔流する世界に降り立つとその最奥に強大な力を持つ者とルーナ達の気配があった。 それともう一つ、何やら懐かしさを感じる気配。 エイシャはそこに向かって走り出した
最奥、そこには世界の始まり、全ての母と言われる原初、ルーナからシフトしていたサニー、いなみが立っていた。 その横にもう一人立っていたが、力の波によって顔がよく見えない
「いた! もうあの子の力を取り戻そうとは思わない。 そんなものより、姉様の方が大切だもの!」
その決意をした瞬間、エイシャの奥底から力が沸き上がってくるのを感じた。 エイシャの権能、力。 神々全ての力を使える彼女本来の能力が戻って来たのだ。 彼女の力はルーナと接触したときすでに戻っていた。 ルーナやサニーの中にあるのはそこから枝分かれして生まれた彼女たちそのものの力である
そんな彼女たちを今強大な力が襲い掛かろうとしていた。 エイシャは神々の力を重複して発動させてその力を正面から受け止めた。 それこそが彼女の力の真骨頂である。 重複した力は原初にせまるほどの 力となる。 そしてその強大な力の持ち主の正体が分かった
「待って! 原初! 今は私たちが争ってる場合じゃないの!」
原初の攻撃を何とか防いだエイシャは原初に向き直る。 原初はどうやら娘の親友であったエイシャに感謝しているらしく、それ以上牙を向けてくることもなかった
さらには死んだと思っていた愛すべき姉との再会。 エイシャは再開を喜びつつもアズリアたちを心配して全ての事情を話した
「なるほど…。 そんなことになっていたとはな。 すまなかったエイシャ、あたいが兄さんを止めていればこんなことには。 安心しろ、アズリアたちは必ず助けてやる。 それにあたいたちが追っているのもその男で間違いないからな」
エイシャは能力を使い、この地に縛られていた原初を助け出した。 本当は彼女を娘の元へ連れて行きたかったが、姉たちの身が心配で断念した
「あなたのお姉さん、アズリアちゃんもそこにいるのね?」
「は、はい。 姉を知っているのですか?」
「ええ、貴方と、アズリアちゃん、それとアマテラスちゃんは娘と仲が良かったもの。 ずっと、見ていたのよ?」
神々の戦争が起きてからは会えていなかった原初の娘マルカ。 いまだ封じられており、エイシャは助け出したかったが、彼女では封印を解けない。 三族間合同の封印はそれほどまでに強固だった
「とにかく、アズリアちゃんたちを助けるのを手伝うわ。 でも、私が手伝うのはそこまでよ? 黒幕はあなたたちの手で討ちなさい。 他種族とも協力してね」
それは今までのわだかまりを捨てて元のさやに納まれと言う原初の進言だ。 神々、闇、コシコデンで力を合わせてそれを討てというのだ
それが黒幕、“混沌”を倒すすべであると彼女は教えている
混沌、闇よりも深く黒い悪の化身とも言うべき存在。 混沌はずっと全ての世界を自分の手にできる機会を狙っていた。 あの日ラシュアの心を操ってエイシャの思い人を殺させたのも、闇に悪心を植え付けたのも、三種族の和解をコシコデンのリーダーであるジンダイに壊させたのも、全てはこの混沌の暗躍があったからだった