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神様たちと別れたはいいけど、僕はこの何もない空間だけの世界で何をすべきなんだろう? 神の力を急に手に入れて、それで…。 あの子たちについて行けばよかったんだろうけど、どうにも僕じゃついていける気配がない。 この力の使い方だってまだ完全じゃないらしいし、今はともかくこの力を自分になじませるといいってレライア様が言っていた。 あれから毎日鍛錬を重ねて、なじませるという言葉が分かった来た。 そしてさらに分かったことがある。 次元の力はある意味万能なのかもしれない。 多次元に干渉するだけじゃなくて、その干渉を通じて空間を引き裂き攻撃したり、多次元へ移動することもできる
世界には平行に存在する世界と上下に存在する世界がある。 これはレライア様に教わったことで、それが世界の全てだと言われた。 でも本当は違う。 この力の本質は外宇宙と呼ばれるこのすべての世界からさらに外の世界にまで干渉できるということだ。 なぜそのことを知れたのかと言うと、この力に宿った次元の神ディジョン様の意思が教えてくれたんだ。 ただディジョン様はそれだけ告げるとそれ以来話さなくなってしまった。 それが余計に僕の不安をあおるんだけどね
「蓮十郎! 聞こえるぜな?」
あ、この声は、確かアカシックレコードの管理者とかいうパリケルさんだ。 彼女のおかげで色々情報が得られて助かっている。 この通信機だって彼女のお手製のもので、どんなに世界が離れていても通信できるという代物だ
「は、はい! どうしたんですか?」
「今からそっちに戻るぜな。 いつでも大神様に連絡できるよう準備しておいてほしいんだぜな」
「分かりました」
戻ってくる? もう? 何かあったのかな?
疑問には思ったけど彼女がそういうならきっと非常事態なんだと思う。 僕は力を開放して大神様、マナリシア様に連絡を取った
「あの、マナリシア様? 聞こえるでしょうか?」
「はい、聞こえていますよ。 どうしたのですか?」
僕はあらましを伝えてマナリシア様にこの世界に来てもらった
「もう間もなく到着するそうです」
「そう、ありがとうね蓮十郎君」
この方は僕を蓮十郎君と呼ぶ。 お姉さん的な魅力のある美しい女性にそう呼ばれるとなんだかこそばゆい
「あ、来ましたね」
バチバチと電磁場が乱れてそこに穴が出現し、中からルーナちゃんや女神さまが飛び出してきた。 でもルーナちゃんはマナリシア様を一瞥するとそっぽを向いて空間の隅で座り込んだ
「ルーナちゃん…」
マナリシア様は悲しそうな顔をしたけど、すぐに切り替えてレライアの方を見た
「母さん、ちょっと聞きたいことがあるんだ。 幻想の楽園って知ってる?」
「…。 どこでその言葉を?」
「実は…」
レライア様の話だと、とある世界に闇の痕跡があって、その闇にその世界の創造主がたぶらかされて道を誤った。 その創造主がくれた情報がその幻想の楽園という単語だったそうだ。 どうやらマナリシア様はその言葉に聞き覚えがあったようだ
「そこはまだ私達神々も、闇も、コシコデンと呼ばれる古の支配者すらいなかった時代、原初と呼ばれる何かがいた場所とされています。 原初は現在どこにいるのかは分かりませんが、その土地は原初に祝福されたことによってとても危険な土地となっているのです」
「祝福されたのに危険なんですか?」
「はい、祝福と言えば聞こえはいいですが、ある意味呪いのようなものです。 そこは力を無限に得られる場所。 もし人の身で入り込めば一瞬でその力の中に溶かされ、消えてしまうでしょう。 それは神だろうと闇だろうと古の支配者だろうと同じことです。 それ故にそこは封じられました。 私達と、闇と、古の支配者によって」
確かに力を得ることができるけど必ず破滅する場所。 それがその土地だそうだ。 だからこその幻想だと言う。 でも何でそんな土地が関係してくるんだろう? 話によると闇も恐れてたみたいなのに
「何故闇がその土地の名を口にしたのかは分かりませんが、何か良くないことが起こる前兆であるのは間違いありません。 その闇を探し出してあの土地が解放されるのを防いでください」
マナリシア様はコシコデンへの対処で忙しいため自ら出ることができないのを嘆いている。 きっと本当は自分で何もかもを引き受けたいんだろう。 でもこの方の体は一つ。 そうはいかないのが実情だ。 だからこそ娘で力のある女神となっているルーナちゃんの力が必要なんだ
「分かりました。 その闇を止めます。 あなたのためではなく世界のために」
そっぽを向いていたルーナちゃんだけど、ようやくマナリシア様に向き直った。 そういえばルーナちゃんの体はマナリシア様を素体にしていると聞いた。 それを聞いたからかもしれないけど、この二人はよく似ている。 目鼻立ちも、目や髪の色も
「ありがとうルーナちゃん。 お願いね」
悲し気な表情だけど、それでも愛情深くルーナちゃんを見つめるその目は母親以外の何者でもなかった
「実はもう一つ聞きたいことがあるんだけど」
レライア様はもう一つの質問をマナリシア様に切り出した
「不死の少女を見つけた」
「それは、本当なのですか!?」
マナリシア様は大きく驚いている。 神様含め、闇も古の支配者も不老だけど不死じゃない。 死ぬこともあるのだ。 現にマナリシア様の妹、光の女神ルーチェ様は亡くなっている。 神ですら手に入れられなかった不死と言う異常性にマナリシア様は驚いていたのだ。 しかもパリケルさんが言うには、何でも情報があるはずのアカシックレコードにすらその少女のことが曖昧にしか書かれていなかったらしい。 そう、その子は世界にとっての異質だということになる
「その子はどこに?」
「とある世界で冒険者をやってる。 どうすればいいと思う?」
「そうですね。 しばらく見守りましょう。 その子は力を手放したがっていますか?」
「今はどうやら受け入れたようだけど、やっぱり相当ショックが大きかったみたい。 出来ることなら手放したいと思うよ」
そりゃそうだ。 不老不死は人類のあこがれなんて言うけど僕はいらない。 だって怖いじゃないか。 まわりが死んでいく中、ずっと一人で生き続けるなんて
マナリシア様はひとまずその子を観察することにしたらしい。 とにかくまずはその楽園を目指さんとする闇を止めなくては。 そしてその旅には、僕もついて行くことにした