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その男は急に目の前に現れた少女たちに驚く。 この場所はまだ見つかっていない迷宮の最奥で、男が作り出したものだった
「なんだお前たちは。 俺の迷宮を見つけた冒険者なのか?」
「あんたがこの世界の創造主? 闇の力を感じるんだけど」
男は驚いた。 確かに男は数日前まで闇と共におり、自身の研究の手伝いをしてもらっていた。 その過程で彼も闇の力を分けてもらっている。 それによってあの化け物たちを創造することができたのだった
「だから何だと言うのだ。 お前たちに関係ないだろう。 もうすぐ完成するんだ。 邪魔をするなら消えてもらう」
男がパチンと指を鳴らすと部屋の壁が開き、何かの液体に付けられた化け物たちがせり出てきた。 どの化け物も洞窟にいた気色の悪い化け物に似ており、あの時の化け物よりもさらに不気味な見た目のモノもいる。 目を見開いて苦悶の表情を浮かべる人間の頭が三つついたモノ、仮面をかぶった全身焼けただれたモノ、右腕が異様に大きく、顔が胸についたモノ、体長3メートルはありそうな口が耳まで裂けている女性など、およそこの世界にいる魔物とは思えない異質な化け物ばかりだった
「趣味が悪いねぇ。 創造主とも有ろう者が命をもてあそぶ研究を…。 いなみ、あたいはちょっとあいつを説教しようと思うんだけど、そっちの化け物、任せられるか?」
「うん、ちゃんと葬送してあげる。 せっかく生まれたところ悪いけど、この子たちは世界に危害を加えるからね」
二人は、二柱としてその神力を開放した。 力を感じ取って後ずさりする男
「なんだと…? なぜこの世界に、上位の女神が…」
男は恐怖するが、すぐに切り替えて化け物を解き放つスイッチを押した
「行け! お前たちはたとえ上位の神だろうとしのげるほどの力を与えた! 殺せ! その女どもを!」
そして男は考えた。 もし女神の死体が手にはいれば自分の作り出すモノもさらに強化されるだろうと
液体が抜かれ、ガラスの入れ物から飛び出す化け物たちはいなみを見て咆哮する。 そのうちの一体、いなみの目の前にいた顔がグズグズに崩れた女性型の化け物がいなみに抱き着く。 崩れた顔が奇妙に歪んだことから笑っているのだろう
「ヒヒヒ、ヒヒヒヒヒ、あ、ああああああ、うぐううう、だず、げで、ゴロジ…で」
その言葉を聞いていなみは全身が総毛だった。 その女性型の化け物は、この世界の人間を素体にして創り出されたモノだった
「お前、人間を使って…」
「そうだよ! 俺の世界の人間だ。 俺がどう使おうとお前らには関係ないんだよ!」
笑う女性は涙を流し始め、悲痛な叫びをあげる。 彼女の指から鋭い爪が伸びていなみを切り裂こうと迫るが、それをやすやす躱して光の力を込めた拳を女性に叩き込んだ
「グギャァアアア」
女性の体を消失させる。 消えながら女性はありがとうと微笑んだ
「僕はお前を許さない」
いなみは自分の殺された母親を思い出す。 本当の母親ではなかったが、いなみをずっと愛し、最後の最後まで愛してくれた母を。 彼女は死体となった後もいなみの敵によって恥ずかしめられた
「光の力、レディアントフルエデン」
いなみから発せられた光は迷宮全てを光で包み、化け物にされた人間たちのことごとくを浄化した
「な、そんな…。 俺の研究が…」
ガクリと膝をつき、消え去った化け物たちの残り塵を見る
「生命はお前の遊び道具じゃないんだよ。 おとなしくあたいらと来てもらうからな」
すっかり戦う意思を失った創造主の男はレライアに縛り上げられると迷宮から連れ出された
「俺はこれから、どうなる?」
「これだけ命をもてあそんだんだ。 消滅は免れないだろうね。 その前にお前に力を与えた闇について教えてもらうけどな」
「そうか。 あの研究を続けられないとなると俺はもう生きることに興味はない。 それと闇のことだが、俺が分かるのは奴の性別と顔くらいだ」
「それだけでいい。 着いたら全部話してもらうからな」
しばらくしてルーナ達の元へ戻ると男を乱雑に転がした
「この人が、創造主ですか?」
男はルーナを見ると少し驚いた。 自分を確保した女神二人をしのぐほどの神力を感じたからだ
「俺の知っていることを話せばいいのか?」
「はい、貴方にその力を与えた闇はどんな者でしたか?」
「あいつは顔に傷のある男だった。 褐色の肌に深く刻まれた真一文字の傷。 声はしみいるような美しい声だったな」
「何か言っていなかったか? どこに行くとか、何かをしているとか」
「いや、特には…。 待てよ、確か幻想の楽園、そんな言葉をつぶやいていたk」
話の途中で男は急に黙り込んだ
「どうした? なぜ黙り込んで」
リゼラスが男をのぞき込むと、その口、目、鼻から黒いどろどろとした液体が流れていた
「ぶふぅっ!」
ゴポゴポと大量の液体を吐き出しその液体が男の体を覆った
「まさかこれは、闇化!?」
やがて液体が完全に男を包み込み、鎧となった
「何だこの闇化は。 今まで見たことがないぞ」
「ムム、ヤバいぜな。 闇が体を覆ってるだけじゃなくて魂と完全に融合してしまっているぜな。 これはもう治せないぜな」
男は目をルーナに向けると獣のように四足で走り出した。 彼の手は鋭い棘と何者をも切り裂く爪が生え、ルーナを切り裂かんとしていた
「お姉ちゃん変わるね!」
一瞬でサニーにシフトすると攻撃を素手で受け止めた。 その時棘のいくつかが突き刺さったが、構わず男を投げる
「うぐっ、嘘、腕が」
棘の刺さった腕は黒く染まり、段々と広がっていく
「お姉ちゃんごめん!」
サニーはその腕を仕方なく切り落とした。 隻腕のまま男の次なる攻撃を躱して力を放った
「破壊の力、方撃!」
手で触れることで相手を破壊するのがサニーの力だが、彼女は独自にそれを改良して遠くからでもぶつけることができるようになった。 ただ威力は多少劣る
飛ばした力が男にぶつかり炸裂するとぶつかった下半身がはじけ飛んだ
「グギギギ、アガ、スマ、ナイ、ぞうか、オレガ、化け物に、変えた、ニンゲンタチも、このような気持ち、ダッタノだナ」
男は少し自我を取り戻したようで、自分がしたことに対する罪悪感にさいなまれた
「魂に融合した闇がさらに深層に潜り込んで行ってるぜな! 今のうちに倒さないともっとヤバい相手に変化するぜな!」
「分かった!」
いなみも戦闘に加わり、サニーと二人で遊撃する。 どうやらいなみの光の力は効果が絶大なようで、男の腕を二つとも消し飛ばした
「ごめんいなみさん。 ちょっと私…」
思ったよりも腕の傷はサニーに影響を与えており、ルーナに戻ってしまった
「うぐっ、サニーのおかげで体に闇が回るのは避けれたみたいです。 私、自分の回復、を…」
出血の激しい腕の血を止めて戦いはいなみに任せることにした
「光の力、一閃の煌き!」
左手を横に一閃すると男の首を跳ね飛ばし、体の消滅が始まった
「あ、ああ、何と心地の良い光。 神よ俺を救ってくれて、ありがとう。 そして、すまなかっ、た」
男は最後に意識をはっきりと取り戻して消滅していった
「予想以上に危険な闇だったようだな。 男の言っていた幻想の楽園とは何なのだ? レライア様、何かわかりませんか?」
「うーん、あたいも聞いたことないな。 一応母さんに聞いてみるか。 蓮十郎に会いに行く」
次元の神の力を受け継いだ少年。 彼は今以前ルーナ達がいた世界へと戻っていた。 彼ならば次元の違う世界にいる大神との連絡が取れる
ルーナは失った腕の再生を始めていた。 神力による超速再生によって腕はトカゲのしっぽのように生え変わる
「この世界の脅威は去ったぜな。 アカシックレコードでもその闇の経緯が見えないのはおかしいぜな。 大神様に早く合うぜな」
ルーナは石野との別れを名残惜しみながらも闇を追うために転移した