闇と始まりのカタカムナ7
二人の闇は現在コシコデンと共に闇を探しているのだが、それと同時に最後のコシコデン、ジンダイも探していた。 だがジンダイはクカミでなければ探せない。 そのクカミは未だ目を覚まさない
「クカミはまだ目覚めぬか…。 我らが愛しい妹よ」
カタカムナはその手に抱くクカミの頬をそっと撫でる。 ウエツやタミアラ、ミヨイも含め、コシコデン達は眠り続けるクカミを見て嘆く
「掴んだ!」
その時マクロが叫んだ。 どうやら仲間の気配を感じたようだ
「出るよ。 準備して」
狭間の世界から空間を裂いて別世界への扉を開いた。 扉の外は大きな人々がそこかしこに歩いている巨人の世界だった。 見上げるほど巨大な人々は闇にもコシコデンにも気づくことなく巨大な街を闊歩している
「これは何とも大きいのぉ。 わしらの数百倍はありそうじゃの」
「巨人族だね。 そんなことより早く仲間に会わなきゃ」
マクロは駆け出し、そのあとを他の闇とコシコデンがついていく。 巨人たちの脚の隙間を縫うようにして走るが、あまりの広さになかなか進まない。 どうやら闇の気配はこの街の中央部からしているようだった
「遠いな。 わしらが駆けた方が速い。 わしらの中へ入れ」
コシコデンの速さは光に近い。 普通の人間ほどの速度しか出せない闇を乗せて走るほうが明らかに速かった
「そうね、あなたたちの方が速いのだし、乗せてもらおうかしら。 良いわよねマクロ?」
「ああ、と言うわけでバグ、メグ、君たちはタミアラさんに」
「何言ってんのよ! メグはこの人たち怖いの! 無理よ無理!」
「僕は乗せてもらいたいな」
「ちょ! バグの裏切り者!」
バグが乗ると決めたためメグも仕方なく同乗した。 メグは恐る恐るタミアラの内部へと入ったが、タミアラはこの前のように怒ることなくそれを受け入れた
「そうそう、いい子ですよタミアラ」
どうやらミヨイが釘を刺したようだ。 タミアラはミヨイの言うことならばどんなことでも聞くため、カタカムナが制御するよう頼んだのだ
「では行こうかの。 マクロよ、案内せい」
マクロの案内通りにコシコデン達は走る。 あまりの速さで目では終えず、巨人よりもはるかに小さいため見つかることもない。 あっという間に目的の街中心まで駆け抜けた
「ここで間違いないのか?」
「うん、この建物の中から気配が…。 えーっと、孤児院? なんでこんなところに?」
そこは親のいない子供たちが生活している大きな孤児院だった。 窓から様子を見ると、巨人の子供たちが何やら楽しそうに歌っているのが見えた
「この歌、もしかして」
マクロは聞き覚えのある歌に反応し、空いていた窓の隙間から素早く中に入り込んだ。 その歌を歌う子供たちの中心には小さな人影があった
「やっぱり。 ルワイルさんだ。 一体なぜこんなところで歌なんか」
ルワイルは闇の中では能天気な性格で何事にもあまり興味がく、戦争にも参加せずに自分一人の世界で歌を歌いながら引きこもっていたほどだ。 そのため封印もされていなかった。 ただ彼女が攻撃態勢に入った時、それは一つの世界がたやすく破壊されるほどだった。 歌を破壊にのみ向けた攻撃は一小節を歌うだけでほぼすべての生き物を殺してしまう。 だからこそ彼女は攻撃性の高い歌を歌わない。 闇の中でも異質な博愛主義者だった。 ただ、闇の中でも生まれが速く、疎まれながらも尊敬は集めていた
「ルワイルさん!」
マクロの呼びかけに気づいたのか歌がピタリと止まる
「マクロ君? 久しぶりね」
それだけ言うとまた歌を歌い始めた。 子供達もそれに合わせて歌い始める。 その歌は何とも心地よく響き、闇もコシコデン達も思わず聞きほれてしまっていた
やがて歌は終わり、ルワイルはマクロたちを迎え入れた
「みんな~、この方たちは私のお友達よ~」
子供たちにそう言うと闇とコシコデンを椅子に座らせた。 巨人の子供からすれば人形のように小さな存在であるマクロたちは巨人の子供たちに拍手で迎えられた
「あの、ルワイルさん、これは一体どういう状況ですか?」
「あら、私今様々な世界で子供達の面倒を見ているのよ。 子供っていいわねぇ、純粋で汚れなくて。 私すっかり虜なのよ」
自分の数百倍もある子供を愛おし気に見つめるルワイルは本当に幸せなようだ
「そんなことよりルワイルさん、あなたは神々に復讐する気はないのですか! 僕らはあいつらに!」
「それはあなたたちが共存の道を見つけなかったからでしょう? 私には関係ないと思うわ」
「でも!」
「私は戦う気なんてないわよ? 今は子供達のことで手一杯。 ほら皆、次はどの歌がいいかな?」
もう興味を無くしたように子供達に歌のリクエストを聞く。 それに怒りを覚えたタミアラは子供に向かって力の波を放った
しかしその波は子供にぶつかる前にルワイルによってかき消された
「どういうつもりかしら? 古の支配者ごときが私の大切な子供達に危害を加えるなんて、死にたいの?」
ルワイルの目は赤く光り、怒りに満ちていた
「ふん、貴様の方こそ闇程度が、我にかなうとでも?」
「あら、それじゃぁあなたたちを消してあげようかしら? マクロ、貴方も消えたいのよね?」
それを聞いてマクロは慌ててタミアラを止めた。 自分達の身が惜しいからではなく、本当に全員が消されてしまうと思っての行動だ
「何故止める。我がこ奴に勝てないとでも?」
「思ってるよ。 この人は、ルワイルさんは、闇の上位中の上位の存在だ。 だからこそ闇たちの総意にも逆らうことができたんだ。 怒った時のこの人は、貴方よりはるかに強い」
マクロの並々ならぬ様子にタミアラは少したじろいだ
「ふん、興がそれたわ。 命拾いしたな」
「あら、それはこちらのセリフではなくて?」
いまだ火花を散らす二人だが、ひとまずこの場が収まったことにマクロは安堵した
「マクロ、私は参加しない。 わかるでしょう? それに神々との戦い何て馬鹿らしいだけよ。 そんな暇があるならもっと実のあることをなさいな。 とにかく私は戦わない。 それと、もし私の大切な子供達に危害が加わるようなことがあれば、私は神々につくわよ?」
その言葉に闇たちはショックを受けた。 彼女が発した言葉はもはや闇に戻ることがないことを意味している。 仕方なくあきらめるしかなかった
「まったく、あの子たちはなぜわからないの? 踊らされているということになぜ気づかないの? 神々は気づき始めた…。 私も、動く必要があるのかもしれないわね」
寝静まった孤児院でルワイルは一人つぶやいた