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目を覚ますと未だ暗い洞穴の中で、その傍らには巨大なあの化け物の死体が転がっている。 噛み砕かれて胃の中で溶かされ、そのあとの記憶がない。 私は死にながらも完全に記憶が残っていた。 最初に頭をすりつぶされたのに即死せずに自分の体を壊されるのをしっかりと覚えている。 それなのに、それなのに私は今こうして生きて、うすぼんやりながらも周りの景色を見ることができている
「七星! よかった。 目が覚めたのね」
燐奈がゆっくりと私を抱き起して泣いた。 きっとあの時死んだと思ったのは私の記憶が作った幻だったのかもしれない。 だって私は生きている
「さて、七星といったか。 お前は一体何なんだい?」
見たことない女性が私に声をかけた。 まるでイカズチのように激しい印象で、体にパチパチと電撃が流れているのが分かった。 この人も、冒険者なのかな?
「待ってください! この子はただの女の子なんです!」
「いやいやいや、別に取って食おうとしてるわけじゃなくてな。 ちょっと話を聞きたいだけなんだけど」
どうやらただ話を聞きたかっただけみたいだけど、何の話なんだろう
「あー、なんだ。 ひとまずこれを着るといいぜな」
別の女の子がどこから出したのか、私に服を渡した。 私はなぜか裸で、よくまわりを見ると男性冒険者はみんな向こうを向いてくれていた。 それから隠されるようにして着替えを終えるとまた雷のような女性が私の前に立った。 何かを聞こうと口を開きかけたけど
「取りあえずここは今安全だから、しばらく休もうよ。 僕らも急いで着たから結構疲れてるしね」
バイスさんに言われて全員がここで休憩できるように用意を初めた。 私はまだ休んでいろと言われてそのまま簡易式の布団、布を束ねたものに寝かされた。 周囲にあるオークたちの死体は焼いて供養するみたい。 一か所に集められて焼かれていた。 化け物の死体も同様に。 それが終わると雷のような女性は再びやって来た
「さて、まず少しあたいの話を聞いてほしい。 君はある特別な力を有している。 その力は我々神々ですら及ばなかった領域のものでね。 いいかい? 落ち着いて聞いてほしいんだ」
雷のような女性は私の目をしっかりと見て、そして真面目な顔で告げた。 私が、人じゃなくなったことを
それに我々神々と…
「不死、ですか?」
「うん、君の力、それは決して死ぬことのない体を手に入れたということでね。 それこそ、君は人でありながら神の領域を超えたと言ってもいい。 君のその力は決して老いることも死ぬこともない悠久の時を生きる生命となった。 いずれ君はその体を脱ぎ捨て、我々神々のように精神生命体となることだろう」
矢継ぎ早にそう言われて、私も燐奈も、周りの冒険者たち戸惑っていた。 特に私は混乱してあとからあとから涙があふれてきた。 受け入れるもなにもどうしていいかわからなくて、怖くて、ただただ泣いた。 そんな私を慰めるように燐奈がそっと抱きしめて頭を撫でてくれる。 私は少し落ち着いて改めて話を聞く体制になった
「私は、どうすれば…」
誰ともなくそう聞いたけど、一様にみんな口ごもってしまう
「君の力はすでに定着してしまっていてね。 もはや引きはがすことはできない…。 残念ながら人としての領分をすでに逸脱している」
言われなくても、そのくらいは理解できた。 だからと言って簡単には受け入れられない。 神様ですら叶わなかった不死という力のすごさは十分わかってるつもり。 きっと私はもう人間じゃいられない
ルーナはその少女を見て得体のしれない力を感じていた。 神力と言うよりももっと恐ろしい何かを感じて眠っている少女をもう一度見た。 その時少女の体に死神の髑髏のような幻影が渦巻き、その体を覆ったのが一瞬だけ視えた
「幻、覚?」
小さくつぶやいたけど誰もこの幻影を視た者はいないようで、私はそっとそのことを胸にしまった。 見間違いじゃない。 現に一瞬消えた髑髏は再び現れ、そして消えてを繰り返している
レライアからの話は一通り終わり、まだ気持ちの整理がつかない少女のためにここでしばらく休むこととなった。 少女の名前は七星、その親友の名前は燐奈と言い、燐奈は結界と言う力の使い手だった
「俺様にもこの力を引きはがすようなことはできないぜな。 アカシックレコードに記録がない? どういうことなのかさっぱり分からないぜな」
パリケルのアカシックレコードは今ある全ての世界についての記録がある。 それは過去からこの先全ての未来永劫の記録。 そこに彼女の不死の力に関する記録が一切ない。 それどころか彼女の記録が虫食いまみれで何かがおかしいことを見てパリケルはそのことを黙した。 少女をさらに混乱させないためである
その日はそこで一夜を明かして明朝に洞窟を出ることにした。 明らかに異質な力を持った七星のことは一旦秘匿し、レライアはギルドにも報告しないように全員に告げた。 そしてレライアは最後に、神の目はいつもお前たちを見ていると釘を刺しておいた