石野の異世界放浪記10-3
リコは周囲の電磁波を巧みに操りながら探知を始める
特殊な感覚で気配を探ったり危険度を測ったりするニャコやワコと違い、リコの力は電磁波を張り巡らせて世界中の人間を探り、周波数の違う人間の大まかな場所を見つけるというものだった
この探知は正確な人数や個人特定までができないため、目的地に着いてからは聞き込みによる調査が必要となる
「かかったでござる。 ここより東方へ2キロほど行った先に人間が固まって住んでいるところがあるでござる。 恐らく街であろう。 主よ、拙に乗るといい。 すぐ目的地へ運んでやろうぞ!」
そう言うとリコは龍鱗の生えた鋭い牙を持つ馬と龍が欠け合わさったような姿になった
伝説に登場するまさしく麒麟の姿だ
言われた通りに岸田はリコの背中に乗る。 それに習って石野も乗ろうとしたが、振り落とされてしまった
「お前は拙の主人ではなかろう! それに拙は男は乗せん!」
振り落とされたときに打った尻をさすりながらため息をつくと、リュコが飛び出した
「なぁなぁ、よければ我に乗るか? 麒麟よりも我の方が速いぞ?」
「リュコちゃんはまだ小さいんだからそんな心配しなくていいよ。 俺が歩けばいいだけの話だ」
石野はリュコの頭をポンポンと撫でて歩き出そうとするが、その腕を掴まれた。 リュコの柔らかい手の感触ではなくざらざらとしたトカゲのような感触
振り向くとそこに体長5メートルほどの龍が立っていた
「これなら乗れるだろう? 遠慮するな」
リュコは石野を両腕で抱えると自分の背に乗せた。 リュコは優しい石野のことを案外気に入ったようで、懐き始めていた
「じゃぁお言葉に甘えさせてもらうかな」
「うむ、任されよ」
それぞれがそれぞれに神獣に騎獣して目的地へと飛んだ
龍王も麒麟も空を飛べる神獣である。 そのため2キロという距離は大した距離ではなかった
「つきましたぞ主。 この街にいると思われますぞ」
その街はよくにぎわっており、先ほどまでいた街と大きく様相が違いリュコは再び目を輝かせていた
彼女は生まれてから地球の、日本の神域しか知らない。 そのため人の多さ、街の活気、その全てが珍しかった
「ここに唐揚げはあるのか? あったら買って欲しいぞ!」
走ろうとするリュコの首根っこを捕まえて引き留めつつ街の住人に話を聞いて行った。 すると面白いことが分かった
まず初めにここには大きな冒険者ギルドがあり、ミスリル級冒険者と呼ばれる伝説に残るような冒険者が一人いる
次に最近二人の新人が入り、そのうちの一人が不思議な力を使うらしいということ
この力を見た人の話によると、この世界では力の行使に欠かせないはずの魔力を使うことなく“結界”という力を使っていたようだ
名前は不明だが、それはギルドでわかるかもしれないということで、石野たちはそのギルドへ向かってみることにした
街にあるギルドは非常に大きく、人もそれなりに多かった。 その誰もが冒険者のようで、皆一様に胸にプレートをぶら下げていた
どうやらこのプレートは冒険者の階級を示すもので、最高等級がヒヒイロカネ級だということが分かった
「冒険者ギルド、セレティレア支部へようこそ。 ご依頼でしょうか? 登録でしょうか?」
「少し聞きたいことがあるんだが」
石野はここ最近に入った二人の冒険者のことを聞いてみた
「あー、あの子たちのことですか? 申し訳ありませんが部外者の方には情報を提示することができません。 直接聞かれる分には構いませんが、答えてくれるかは分かりませんよ? 結界を使う子はかなり警戒心が強いので…。 それと、現在二人とも調査クエストに出ているようですね。 戻ってくるのはいつになるかわかりませんが、このギルドは宿も兼ねているのでそこでお待ちになってはいかがでしょう?」
受付嬢は顔を赤らめて自分の教えれる最大限の情報を教えてくれた。 彼女はちらちらと石野の顔を見て時折目をそらしつつも釘付けのようだ
「分かった、ありがとう。 ところで登録もついでにしていいかな? 今夜泊まるための宿代を稼ぎたいんだ」
今現在使える金は持ち合わせていない。 ならば稼ぐまでと考えた
「はい、ではまず書類をいくつか書いていただきます。 その後ギルド地下で魔力を測っていただきますね」
手続きには少し時間がかかったが、およそ3時間で全ての手続きが完了した
魔力を計測した結果、石野は通常の10万倍、岸田に至っては通常の25万倍もの魔力を有していることが分かった。 受付嬢もその様子を見ていたのだが、まずいつも使っている通常の魔力計は石野の時点で砕けてしまった。 そのため奥から相当数の魔力を測ることのできる魔力計を持ちだして計った
それでも岸田はギリギリで、この世界で最も魔力の高い種族である精霊族や竜族の倍はあった
ちなみにリュコとリコは登録せずに玉に戻ってもらっている
「い、以上で登録終了です。 これから、ストーン級冒険者として、頑張ってください、ね」
いまだ驚きから立ち直れていない受付嬢は染みついたマニュアル対応と共に引きつった笑顔を向けた
「さて、ここで待ってれば帰ってくるみたいっすし、いくつか依頼を受けてお金かせぐっす!」
「ああ、とりあえず何日か分の宿代と食費を稼ぐくらいでいいだろう」
思い立ったが吉日とばかりに依頼をまとめていくつか受けて、その日のうちに達成して数週間分の宿泊費と食費を稼いだ。 ついでに街を見て回ると、フリット専門店があったためそこで大量に買い込んでリュコにあげると、彼女は既に輝いていた目を金星のごとく輝かせて石野に抱きついて、何度もお礼を言っていた。 岸田はそれを見て、「基本いい子なんすよね」とつぶやき笑った