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銀級の冒険者は3パーティいて、それぞれ4人、4人、3人の合計11人
私と燐奈を合わせると13人となった
「君たち、まだ初心者なんだってね? 安心して、僕らが必ず守ってあげるから」
そう話しかけてきたのは銀級の中でも名の知れたパーティである、四人組の“駆ける稲妻”のリーダー、バイスさん
魔剣ソウルペインという剣の使い手で、もうすぐ金級になるという将来有望の冒険者なんだって
それに、彼のパーティの人達もこの辺りで知らない人はいないほど名前がとどろいてるみたい
他の銀級の人達も同じように金級まであと少しという人達ばかり
そんな強い人達と一緒ならきっと大丈夫!
「ここがそうです。 恐らくこの奥にあの焦げ目を作った何かがいます」
「ここは、オークたちが住んでる洞窟だね。 もしかしたら彼らが危ないかもしれない。 急ごう」
今回の任務のリーダーでもあるバイスさんの指示に従って、最初に盗賊職の女性が入っていった
罠などがないか確かめるためらしい
彼女の名前はピノリさんといい、鳥人族という種族で、鳥の翼を背中に携えている
顔は目のぱっちりとした可愛い女の子なんだけど、年齢は私達の2倍もいっているというから驚き
「おっけー、この辺りに罠は無いみたい。 あとここに魔物がいた痕跡があるわ。 多分プルラットとジャイアントトードかな。 どっちもこの辺に生息してる魔物だからいてもおかしくないけど、この二種類の魔物が一緒にいるなんて見たことも聞いたこともないんだよねぇ」
それはつまり何か異変が起きてるってことなのかな?
ピノリさんが詳しく調べているけど、他には特に何もなかったみたい
「すいません、念のため私も調べてみていいでしょうか?」
燐奈が提案してる。 そっか、燐奈の結界なら何かわかるかも
「いいとも、むしろ君の力は当てにしていたからね」
燐奈は前に出て、周囲に結界を張る
「ほお、これが噂の結界の力、なるほどなるほど、魔力が宿らない力とは何とも興味深い」
バイスさんのパーティメンバーで、私達の中でも最高齢のおじいちゃん魔導士、ボルクドさんが燐奈の結界を興味深げに眺めてる
燐奈の結界はすごいでしょう。 と、自分のことのように嬉しくなった
「見つけました。 この足跡は間違いなくあの焦げ目から続いていた足跡です」
「と言うことは、その何者かはここに入って魔物を倒し、さらに奥へ向かったということかな?」
「そうだと思います。 奥へ向かっているみたいですので行ってみましょう」
「でもここにはオークたちが住んでいるくらいで特に何もないんだけどな。 一体何の目的で入っていったんだろう」
さらに奥へ進むと悲惨な現場に出くわした
そこには優しいオークたちが無残に殺された死体が無造作に転がっていた
「なんてことを…。 でもこれでわかった。 ここに入った者達は危険な存在だね」
確かに、人間に友好的な種族にこんなことをするってことは、私たちにも危害を加えてくるかもしれない
もしそうなったら、私は燐奈を守れるかな?
「待ってください。 敵と言うのは早計かもしれません。 これを見てください」
燐奈の結界によって浮かび上がった足跡と血痕、それと争ったであろう形跡。 そこには見たこともない傷跡があった
「ふむ、これは何か別の魔物がいたようじゃの。 それもこの傷跡…。 死んでしまったオークたちと同じ傷跡じゃ。 この足跡の持ち主たちはそれと戦った形跡がある」
「つまりここにはその足跡の人達と敵である何かが、いるってことか」
なるほど、じゃあその人たちがこっちに攻撃してくる可能性も低いかも
それから数日、適度に休憩を挟みながら私たちはついに最奥へたどり着いた
ルーナ達はそこで目にする
巨大で醜悪な化け物を
ドロドロに溶けた肌、ぎょろぎょろと動き続ける血走った目、剥き出しになった鋭くいびつな牙、何物をも切り裂かんとする大きな爪
化け物は何かを咀嚼している
それは犠牲になったオークたちの死体だった
「う、ひどい匂い。 腐臭、か」
「こいつ、多分だけどオークを喰い終わったら這い出して来るぜな。 ここで倒すが先決だぜな」
「ああ、私もそう思う」
化け物はルーナ達に気づき、目を動かして見つめた
喰らっていたオークを口からボトリと落とすとニタリと笑って手を伸ばしてくる
「しっ!」
レライアはその手を雷を纏った手で振り払う
「ゲギャガァ!!」
化け物は軽く声をあげると怒り、ずるずると体を引きずりながらレライアの目の前に立った
「お前はここにいちゃいけない化け物だ。 こんなところで生み出され、捨てられたことには同情するけど、このままじゃこの世界が危険だからさ。 死んでくれ」
手にまとった雷の形状を変え、火花散らす一振りの剣へと変えると、それを化け物の頭に突き刺した
「グギャァアアア!!」
叫び声をあげてのたうち回る化け物
レライアはとどめとばかりにもう一方の手で作り出した雷の剣を投擲し、再び頭に突き刺した
ものすごい悲鳴がとどろいて洞窟内を揺らしている
バイスさんは走り出し、私達も当然それについて走った
奥はオークたちの居住区らしいんだけど、道中にもオークの死体がたくさんあったから、すでに全滅しているかもしれないみたい
やがて居住区について、私達の目に飛び込んだのは、たくさんの食い散らかされたオークの死体と、女性だけの5人組パーティ、そして、この惨劇を引き起こしたと思われる恐怖以外の何者ではない化け物
こういう化け物が苦手な私はあまりの怖さに失神しそうになったけど、そこは燐奈が支えてくれた
「七星、大丈夫?」
「う、うん、ちょっと気が遠くなっただけだよ」
どうやら女性たちはその化け物と戦っているみたい
化け物の頭にはバチバチと輝く剣が突き刺さっていた
「おい、誰だか知らないが今ここに来るんじゃない! 巻き込まれるぞ!」
女性の一人、騎士風の女性が私達に向かって叫んでる
でも、一足遅くて、化け物の指がスルスルと伸びてきて私を掴んだ
「七星!」
燐奈ちゃんが結界の力で助けてくれようとしたけど、間に合わない。 化け物の指の動きの方が速くて私はそのまま化け物の顔の前に運ばれた
「ヒッ」
怖い、怖い、映画でも作り物でも苦手な私は、今ここにいる本物の化け物を見て恐怖で体が硬直してしまった
化け物は口を大きく開けて私をその中へ運ぶ
恐怖で失禁しながらも体は全く動いてくれなくて、もがくことすらできなかった
そして、口は閉じられ、私は自分の胴体がブツリと喰いちぎられる感触を味わいながら咀嚼された
「七星ぇえええ!!」
咀嚼され、頭をつぶされ、飲み込まれた。 それにもかかわらず意識があり、燐奈の声がはっきりと聞こえる
遅れて私の下半身が飲み込まれた
胃の中で溶かされる感触
熱い、熱くて痛くてたまらない
死にたいのに、死ねない
私は一体どうしたの?
一瞬の出来事だった
レライアがとどめを刺そうと近づいたその時、何人かの冒険者が飛び込んで来、化け物はその中の一人の少女を伸ばした指で捕まえ、喰らってしまった
「くっ、あたいがいながら、まんまと…」
化け物は笑っている
人を喰ったからか、その傷口が再生を始めていた
「七星! 七星!!」
冒険者の一人が仲間を喰われて泣き叫んでいる
「破壊の力」
混乱する最中、サニーは冷静にその化け物の頭を掴み、破壊した
一片の肉片も残ることなく四散し、化け物は消滅していく
その中から先ほど喰われた少女の無残な遺体がボトボトと地面に落ちる
「そんな! 七星、七星!」
その遺体の仲間の少女が駆け寄って破片となった少女を拾い上げて鳴き続けた
サニーたちはかける言葉もなくただその光景を見ることしかできない
その時目の前で奇妙なことが起こり始める
ぐちゃぐちゃに、バラバラになった遺体が集まり始め、一つの塊となり始めた
「なんてこった。 この少女、転移者、か? しかもこの力は」
塊はやがて人の形となり、裸の少女となった
それはまさしく今喰い殺されたばかりの少女の姿だ
「不死…。 神々ですら手に入れることができない力。 この少女は一体何者だ?」
少女、七星の力、それは不死と呼ばれる絶対に死ねることのない体となったことだった
今回書きたいことあったので長くなりました