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燐奈は私の大切な友達
馬鹿でドジな私をいつもかばってくれて、どんな時でも私の味方でいてくれる優しい子
だから、こんな世界に来ても二人なら大丈夫だと思った
今、私は背中から何かに刺され、その切っ先が胸から突き出ているのを見ている
ゆっくり振り向くと、狼のような人型の何かだ笑っているのが見えた
ごっぷりと血が込み上げてくるのが分かる
早く、燐奈を逃がさなきゃ
意識が途切れそうになるのをこらえて、途切れ途切れに伝えることができた
きっと、逃げて、くれる
でも、燐奈は逃げなかった
私をかばうように化け物に背を向けている
駄目だよ燐奈、私なんか置いて、逃げて
そこで私は意識を失った
もう二度と覚めることのない眠りについた
死んだはずなのに目が覚めた
胸の傷を見るけど服に穴が開いてるだけで傷はまるでないみたい
「燐、奈…」
親友の姿を探すけど、そばにいない
もしかして、燐奈は逃げれたのかな? それなら安心できるんだけど
私が生きているのはどういうことなのかな?
困惑しているところに扉が開かれて誰かが入って来た
まだかすんで見えにくいけど、体型からして女性?
「七星!」
この声は、燐奈だ!
「燐奈!」
私と燐奈は抱き合って再開を喜んだ
彼女の説明によると、私の傷はあの後どういうわけか塞がってしまったらしい
そのあとから今までの三日間、私はずっと眠っていたみたいなの
「よかった。 もう目を、覚まさないかと思ってた」
燐奈は泣きながら喜んでくれる
それからようやくかすんでいた目が戻り、少し散歩をしようと燐奈と一緒に廊下に出た
まだ体調は本調子ではなくてフラフラするけど、歩くには支障がないくらいかな
廊下を歩くとすぐに階段があって、そこを降りるとまるで西部劇に出てくるような酒場だった
でもそこにたむろしている人たちが普通じゃない
猫耳や犬耳の生えた人、二足歩行しているトカゲの顔を持った人、翼の生えた人、体が透けてて胸の部分に丸いボールのようなものがある人などなど、物語に登場するような人たちばかりだった
「やっぱり、これって」
「ええ、私たちどうやら、異世界に来てしまったみたい」
ここは、地球じゃなかった
何もかもが全く違う世界で、魔物がはびこる危険な世界だった
「大丈夫、七星は絶対私が守るから!」
燐奈はやっぱり優しくて、こんな私を守ってくれると言ってくれた
でも、私だって燐奈を守りたい
「そうだ。 七星、一緒に来て」
私は燐奈に手を引かれて酒場(宿だったみたい)を出て、街を出て、森の中へ
「この辺りかな」
森は薄暗くて、いかにも何かが出てきそう
「来た!」
燐奈が指さした方向には茂みがあって、そこが揺れている
その直後に青い毛の角の生えたウサギが飛び出した
「討伐対象、ユニークモンスターのブルーアルミラージ。 今の私なら楽に」
燐奈はブツブツと何かを言いながら腰にぶら下げていたナイフを取り出した
「七星、私の後ろにいて」
とびかかってくるウサギ
「燐奈! 危ない!」
このままじゃ燐奈があの角で刺されちゃう!
でもその心配は杞憂だったみたい
「結界、堅!」
燐奈の前に紋章が現れて、透明の壁が出てきた
ウサギの角はそれに阻まれてカキンと音を立てた
「結界、斬!」
今度はウサギのお腹に紋章が現れて、ウサギは真っ二つに切れた
「え? え?」
混乱していると、燐奈はウサギの角をナイフで切り取って袋に入れた
「討伐完了。 七星、帰ろ」
訳も分からないままにまた燐奈について街に戻った
今度はさっきの宿じゃなくて、もっと人がにぎわっている場所、ギルドと呼ばれる建物に入った
受付みたいな場所で燐奈はお姉さんに何かを言って、小袋をもらっていた
「これで当面の生活費は稼げたわ。 七星、私、冒険者っていうものになったの」
そういえば、ラノベで読んだことがある
魔物を倒したり、いろんな依頼を受けて生活する人達、それが冒険者っていう認識であってるみたい
でも、燐奈にそんな危険なことをさせたくないし、なによりあの力のことも聞きたい
「あの力? ああ、結界のことね。 どういうことか分からないんだけど、この世界に来てあの化け物に襲われてから使えるようになったの」
どうしてこんな力が使えるようになったのかは本人も分からないみたい
だからと言って燐奈一人だけ危険な目に合わせるなんて駄目
「私もなる! 燐奈と一緒に戦う! 燐奈の背中は私が絶対守るもん!」
燐奈はかたくなに止めようとしたけど、私がこう言いだしたら聞かないことは長い付き合いの中でわかってくれているから、それ以上引き留めなかった
「でも、危なくなったら絶対に逃げて。 たとえ私を置いて行くことになっても。 私は七星が生きていてくれればそれでいいから」
そんなこと、私も同じ。 私は燐奈が生きていてくれさえすればそれでいい
それから私はギルドで登録を済ませ、私達は晴れて新米冒険者パーティとなった
燐奈は三日だけ先輩だけどね
ルーナ達はもうちょっとお休み