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口を開くルーナ
彼女はただ目の前に迫った脅威に驚いて少しだけ力を出しただけ
そう、ほんの少し、撫でるように尻尾を振っただけ
しかし、驚いていたためか、思った以上に力が解放されていたのだろう
レッサーフェンリルは真っ二つになっていた
気づけば体を染める真っ赤な血と臓物の臭いが鼻を突く
周りは皆あっけに取られていた
事の顛末を話し終えるとほとんどの者がルーナを見ておびえた
全く歯の立たなかった巨狼をたったの一撃、それほどまでの力を見せられ、それが見たこともない種族の少女ともなればなおさらだ
彼女はただ皆を守りたかった。ただ役に立ちたかっただけなのに、それがかえって怖がらせる結果となった
とりあえずは同行していたトロンとレノスが口止めをする
名の知れた彼らなら一応の緘口はできるだろうが、人の口には戸が建てられないと言うのが世の常
すぐにルーナのことは知れ渡るだろう
だから、報告を終えた後はすぐに街を逃げるようにして後にした
「そう気を落とすもんじゃない」
「君は彼らの命を救ったんだから」
レノスはそう言ってくれている
このダキシオン王国では宮廷魔導士であるレノスが守ってくれるだろう
だが、この国以外は?エルフや竜人など、聡明な種族は危険と判断しルーナを封印するか討伐しようとするに違いない
なんとか知られないようにしなくてはならないのだ
ひとまずパーティの前衛を桃、中衛をアル、後衛をパリケルとルーナにした
ルーナは自分の身に危険が迫るとき以外戦いに参加しないように配置
ちなみにトロンは自身の研究室に戻るらしい
ルーナの力にさらに強力な封印術をかけなおし、ちょっとやそっとで力が解放されないようにしておいたので当面は大丈夫だと判断した
封印はその数1000段階に及ぶ
もちろん宮廷魔導士のレノスや多数の魔導士の協力もあってこれほどの数の封印をかけることができた
とりあえずはギルドに成果報告も終えたので次の依頼を受けることにした
レノスとトロンの進言により実力が認められ、現在のランクはCとなった
Cランクともなると街一つを壊滅させるような魔獣や魔物の討伐、盗賊団といった連中の排除、つまり人殺しにも手を染めなければならない
精神年齢的には50代のパリケルや、この世界に生まれ、人が殺され殺すという状況を少なからず体験しているアルはともかく、ただの女子高生だった桃とまだ幼いルーナには酷なことかもしれない
それでも魔獣王を倒すという目的を持った勇者としての自分を自覚して桃は決心した
それに、桃ほどの腕前があれば殺さずとらえることもできる
当面の問題はルーナの力が暴走しないように気を張ることくらいだろう
次なる依頼は隣町、コリューカから馬車で一日ほど走った荒野
そこに大量に巣食ったフレアスネークという大型の蛇の討伐だ
一個体のランクはFとそれほど高くないのだが、数があまりにも多いため集団としてのランクがCと設定されている
油断すればその炎の体に巻き付かれ、焼き殺されて丸のみ、という悲惨な結果になる
現にすでに冒険者の幾パーティかが帰ってきていない
恐らくは全滅したのだろう
ここ最近は獣魔王の影響から魔獣や魔物がどんどん活性化している
冒険者たちも上から下まで出ずっぱり、いくら数が多いからと言って世界中で必要とされているためいくらいても人出が足りていないのだ
翌朝、無事に隣町コリューカから荒野へとたどり着いた
馬車の行者は逃げるようにしてその場を後にする
「さっそくお出ましみたいよ」
桃の声に反応するかのようにぞろぞろと燃える蛇が現れた
その数およそ200体、普通はたった四人で討伐するような数ではない
桃は大剣と大楯を、アルはロングソードを、パリケルは二号ちゃんを、ルーナは拳を構える
四人とフレアスネークの大群との戦いが始まった
それから2時間後、桃たちは大小さまざまな傷を負いながらも全滅させた
治癒ができるアルは回復に回り、主に桃とパリケルが攻撃を担当した
パリケルは一撃でも攻撃を受ければ致命傷となるため常に桃の盾に隠れる形で参加
終わったころには二号ちゃんはボロボロになっていた
街に帰ってメンテナンスをしなければならない
素材採取と討伐証拠採取も無事に終え、帰りは歩いて帰る
歩けば三日はかかるが、キャンプ道具や食料もパリケルの持つアイテムボックスに収納されているのでそこまで苦にはならない
疲れを癒すようにのんびりと街まで戻った
ルーナ活躍の場なし
まぁ出ちゃったら圧倒的すぎて戦いが描けないので仕方ないね