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真相を聞いた赤井は額の汗をぬぐい、四号のまとめた資料に目を通す
パリケルが言ったことを正しく理解すればしっくりきた
そして若返った石野と性別まで変わってしまった岸田
石野の若返りは神の御業であったが、岸田に至っては体の再構成が起こったとしか思えなかった
「ははは、こんな話、学会の人間は信じないだろう。 多次元やパラレルワールド、異世界。 それらがあるという証明はあるようだが、それを誰も見ていないし解明もしていない。 まだまだよもやま話なんだよ、この世界ではね」
赤井はこのあと資料を再度確認して海外の事例ともかけ合わせて解析するようだ
「俺様達は行くぜな。 それと、これを置いて行くからいつでも連絡してくるぜな。 同じ研究者として協力するぜな」
パリケルが渡したのはどこの世界にいようと通信が通じる通信機だった
「ありがたい。 分からないことがあったら聞いてもいいかい?」
「いつでもいいぜな!」
赤井とパリケルは同じ研究者同士お互いを尊敬しあって固く握手をした
「行きましょうパリケルさん。 赤井さん、もしお父さんが帰ってきたら、また会いましょうって伝えておいてください!」
「ああ伝えておくよ、君たちも気を付けて行くんだよ」
赤井と別れ、ルーナ達は人気のない森の中で転移を開始した
磁場嵐はルーナの近くにいなければ危険なため、周囲に人がいないかを何度も確認してからの転移
バチバチと火花が散り、ルーナ達の姿が消えた
空が青い
雲とそのすぐそばを飛ぶ鳥、鳥に見えるがあれは竜だろう
鳥に被膜のついた翼は無いだろうから、恐らく伝説の竜に違いない
私は休日を利用して友人とショッピングに繰り出していた
友人はそう多くはなかったが、親友と呼べる子がいた
その子にはなんだも打ち明けられ、そして私もその子の相談を聞いたりしていた
気の許せる友人とのショッピングは楽しい
そんな中、私は突然光に包まれた
「憐奈! その光から出て! 速く!」
親友の七星の声が聞こえ、手が私に差し出される
その手をガッチリとつかんだけど、光はさらに輝いて、私達は見知らぬ土地へと飛ばされた
ここは恐らく地球じゃない
太陽が二つあり、見たこともない動植物がそこかしこにある
私の横には気を失った七星。 幸せそうな顔で寝ている
この子は誰にも分け隔てなく接してくれて、愛想のない私にも笑顔をくれた
もし、ここが、異世界という場所なら…。 私はこの子を命に代えても守る
「ん、うう、燐奈? 大丈夫なの燐奈!」
「ええ、私は大丈夫。 それよりも大変なことがあったみたい」
まわりを見るように指をさす
「え!? ここ、どこ? モールにいたはずなのに、なんで原っぱなんかに…」
あたりは草ばかり。 そして見たこともないコスモスに少し似た赤い花とウサギに似てるけど角のある獣
このウサギは人懐っこいみたいで、私たちに寄ってきている
「とりあえず、人を探しましょう。 ここがどこなのか聞かなくちゃ」
「そうだよね! さすが燐奈!」
七星はいつも私をほめてくれる
私は自慢じゃないけど成績もよくてスポーツもできる方。 でも、両親に褒めてもらったことなんてない
当然だと言われて育った
そんな私をほめて、優しい笑顔を向けてくれる七星が私は好き
「七星、あなたは私の後ろに。 もしここが異世界だとしたら、何が起こるか分からないから。 あなたは絶対私が守る」
「ありがとう燐奈。 じゃぁもし燐奈が危なくなったら私が助けるね!」
私は燐奈を後ろにかばうようにして歩き出した
道なんてないけど、とりあえず草の生えていないところを目指した
遠くの方にだけど、草地のとだえた場所が見えている
「燐奈、ここって、異世界?ってとこ、なん、だよね? それって、魔法、とか、使えて、モンスター、なんか、が、出ちゃう、のかな?」
「たぶん、そうだと思うわ」
私は振り向かずに七星に答えた
七星は疲れたのか、言葉が途切れ途切れになっている
「じゃぁさ、燐奈、早く…。 逃げ、て」
「何を言って」
振り返ると、七星の胸から何かが生えていた
大きな槍のようなもの
これは、生えてるんじゃなくて、七星が後ろから貫かれていた
「七星!」
倒れ込む七星を手で抱えて襲った相手を見ると、口が耳まで裂け、ギラギラとした目をもち、犬のような耳と顔を持った人型の何かが笑いながら七星の背中から槍を抜いた
そのせいで七星の胸から血が吹き出る
「七星、七星!」
「燐奈、ご、めん、ね。 逃げ、て…。 うぐっ! 速く!!」
七星を置いて何て逃げれない
彼女を抱きしめて手を握り、化け物が再び槍を私たちに向けてつきだすのを見て目をつむった
七星と二人で死ねるなら…。 それもいいかもしれない
目を開けると、私の周りに何か薄い膜のようなものが張られて槍を止めていた
化け物は私たちを槍で貫けなくてイライラしているよう
「何? これ」
私はこれを結界と認識した
全く壊れない結界に化け物はあきらめ、この場を去っていってしまった
ぐったりして冷たくなっていく七星
死なせたくない!
お願い、どうか、死なないで!
その願いが通じたのか、七星の胸の傷がみるみる塞がっていった
弱弱しかった呼吸も落ち着き、顔色も体温も戻っていた
眠る彼女を背負い、私は街を目指した