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この辺りの地形は森が多い
ダキシオン国中に巨大な森林が広がっている
もともと誰もいない魔獣たちの住処だったのをこの国の初代王である勇者が切り開き、人々が住めるようにしたのだ
街と街を街道で結び、安全な行路を確保し、森の恵みによって発展していった
今ではダキシオンには多種多様の種族が住み、仲良く暮らしている
国が豊かで潤っているので心に余裕を生み、他国で起こるような差別がここではない
それに、もしそのようなことをすれば罪になると法律で定められていた
だから亜人種たちは誰もが幸せに暮らせている
現在共に魔獣退治へと向かっている冒険者たちもほとんどが亜人と人間の混合チームだ
それぞれ和気あいあいと言った感じで仲がいい
共に行く冒険者に話を聞いてみると亜人種がここまで自由にできるのはこの国くらいなのだそうだ
他国には獣人しかいない国(人間は入れないらしい)、獣人やエルフたちが普通に奴隷として売られている国、他人種を絵に描いたように見下しているようなエルフの国などなどだ
他にも鬼人が住む国(島国)があるそうだが詳細は良く知らないとのこと
この旅で仲良くなった冒険者一行、獣人のラルフという男性をリーダーとし、他に人間の少女ニルファ、獣人の少女スーラ、エルフの男性アルフルという四人のパーティ
彼らは桃の勇者という職業に驚いていた
というのもここ数百年その職を持つ者は現れていないからだ
獣魔王を倒すために選ばれるので当然と言えば当然だが…
職業はどうやらギルドカードに魔力を注げば見れるらしく、他にも職業やランク、レベルなどが見れるらしい
そう言われてルーナは自分のカードを見てみる
ギョッとした
職業はそのまま破壊神(その時点でもう人に見せられないと思った)
ランクは普通にDで、レベルはおそらく最大値である999
魔力、体力、その他もろもろが測定不能となっていた
皆が見せ合う中ルーナは一人距離を置き、カードを隠した
「ね、ルーナちゃんのも見せてよ」
桃にそう言われてとっさに、職業魔法使い、レベルは10と答えておいた
この世界で一般的な職業であり、レベルも大体平均くらい
そう答えれたのも魂の記憶が引き出され、様々な知識をそこから得れたからだろう
「あれだけの力があるのに普通な感じだね」
「きっとギルドカードでは測り切れないこともあるんだね」
桃はそう納得したようなのでそれで良しとした
自分の強すぎる力は隠すに越したことはない
他の者もたいして気にしている様子はないが、一人、トロンだけは気づいていた
彼はルーナにそっと耳打ちする
「絶対に見られちゃだめだよ。きっとめんどくさいことになるからね」
その言葉に小さくうなずいた
それからしばらく歩くと洞窟が見えてきた
この洞窟が魔獣の巣くっている場所だ
外から出もその魔獣の気配が漂ってきている
ただ、ルーナは感じないようで、ぽけーっとしていたため怒られた
恐らく格下すぎて何も感じないのだろう
討伐対象を探そうと中に真っ先に入った一組の冒険者たち
そして響く彼らの悲鳴
慌てて他の冒険者も乗り込んだ
桃たちもそれに付いて走り出す
内部は相当開けていた
ここにいる冒険者の一団が悠々入れ、大型の竜でも余裕があるほど
そこの中央に、冒険者の一人を咀嚼するかなり大型の狼がいた
その周りでは配下と思われる小型の狼がこちらを威嚇し吠えている
巨大な方はレッサーフェンリル、伝説の魔獣フェンリルの劣化版で、強さはフェンリルにはるかに劣るものの、それでもBランク指定の魔物だ
DランクやCランクの寄せ集めであるこの冒険者団では勝ち目がなかった
さらに小さい方はマッドウルフという危険な毒牙を持つ狼型の魔獣で、これらはDランク指定だが数が多かった
すでに幾人かが襲われ、喰われている
喰われている中にはCランクでも実力のあった冒険者もいる
あたりは絶望感に包まれた
「みんな私の後ろに下がって!」
桃はそう言うと大楯を地面に突き立て、楯のスキルを発動させた
怪我人を背負って生き残っている冒険者たちが一斉に桃の後ろ、楯によって張られたシールドの後ろに隠れた
それにより怪我人は治癒されていく
「あれが、勇者の力?」
誰ともなくそうつぶやいた
「麒麟角!」
シュッと大剣を伸ばし、レッサーフェンリルに突き出した
そこから伸びる切っ先がレッサーフェンリルの胸を貫く
刺さりこそしたものの、致命傷は与えられない
「それ二号ちゃん!ブーストランチャー!」
見てるだけと言っていたパリケルが二号の性能を試したくなったのか、攻撃を加えた
燃え上がる弾を撃ちだし、周囲の狼を焼き尽くしていく
それに続けとばかりに割と無事な冒険者たちが生き残っている狼たちを倒していく
桃の力で彼らは皆強化された為、狼たちの攻撃を受けても体に傷一つ負わない
「フレアランス!」
アルも横から強力な魔導を放って縫い付けられているレッサーフェンリルを攻撃した
それでもレッサーフェンリルは倒れない
それどころか暴れて、桃の抑えていた大剣が引き抜かれてしまった
動き出す巨躯はなぜかルーナに真っ先に迫った
その瞬間、ヒュっと何かがフェンリルの前を下から上に通り抜けた
その場にいた誰もが幼い少女の死を覚悟したが、その時は訪れることはない
レッサーフェンリルの動きがぴたりと止まったのだ
「どうしたんだ?」
冒険者たちが不思議に思っていると、レッサーフェンリルの体が左右に分かれ、ただの屍となった
全員何が起こったのか分からない
勇者ですらその力に圧倒されていたのに、たった一人の少女が仕留めてしまったことに事態が飲み込めないでいた
討伐は完了した
犠牲者もそれなりに出たが、それでもBランク相手によく生き残った方だ
疑問の残る討伐だったが、桃の大剣が抜ける際に彼女が切り裂いたのだろうと言うことでひとまずの決着がついた
しかし桃本人はそれでは納得がいかない
だから、聞くことにした
事の詳細を、ルーナ本人に…




