4-39
ここが僕の本当の世界
そう思ったのはここに来て半年ほどが経ってからだった
何の力もない役立たずな僕を受け入れ、仲間と認めてくれた上で冒険へと連れて行ってくれた
「剣くらいは扱えるようになれ」
このパーティのリーダーであるハボックさんは僕にたくさんの剣技を教えてくれた
「魔法の能力は乏しいみたいだけど…。 まぁ簡単なやつなら使えるんじゃない?」
そう言って下位の魔法を扱えるようにしてくれたのはエルフのリーリーさんだ
とてもきれいで、優しい人
「男ならたとえ剣がなくなっても身を守れるくらいにはならないとな」
そう言って厳しく格闘技を教えてくれたのは武術家のテンゴウさん
三人とも異世界から来た、役立たずの僕を、受け入れてくれたんだ
それからまた半年が過ぎ、僕以外の三人は死んだ
たった一度のクエスト失敗、僕らは強くなったことで傲っていたんだと思う
初めての迷宮への挑戦
そこには予想だにしない化け物が待ち構えていた
闇の魔獣と呼ばれる黒い魔獣
本来初心者向けのはずだったこの迷宮はその魔獣が出現しただけで地獄と化した
最初にリーリーさんが僕らを回復させようと焦って、胸を鋭利な角に貫かれて死んだ
胸にあいた巨大な穴から吹き出る血を、僕は忘れることはないだろう
そして貫かれながらも僕らを案じ、逃げてと声にならない声で叫んだリーリーさん
次に追ってくる魔獣を足止めするためにテンゴウさんが死んだ
たった一噛みで上半身を喰いちぎられた
力なく倒れる下半身と、そこから散らばる臓腑、思い出すと吐きそうになる
「お前だけでも逃げろ!」
最後まで僕をかばってくれたハボックさん
逃げろと言ったその直後に、頭を薙ぎ払いによってもがれて倒れた
今僕は、その魔獣に前足で抑えられている
抑えられた脚はメキメキと音を立てて潰れていた
痛さで絶叫するが、放してくれはしないだろう
やがて魔獣の大きな口が僕に迫った
「死にたくない」
たった一言だったけど、僕の腹から出た声
それで状況は好転すると思ったわけじゃない
でも、まだ死ぬときじゃなかったみたいだ
「なんだ、これ…」
気づいた時には闇の魔獣はぐちゃぐちゃになって死んでいた
僕は足を見てみる
なんともない
それどころかなんだか力が溢れていた
「みんなの、死体を…」
回収しなきゃ。 そう思って再び三人が死んだ場所へと戻った
「やっぱり、夢じゃなかったんだ」
頭部のないハボックさんの体、上半身を喰われたテンゴウさんの下半身、そして、大好きだったリーリーさんの、胸にぽっかりと穴の開いただけの眠っているかのような死体
彼らはこの場で焼かなければならない
ハボックさんが言っていた
死体は焼かなければゾンビと化すって
だから、僕はつらさを、泣きたくなるような気持ちをこらえながらみんなの死体を集めて焼いた
そして焦げた骨となったその死体を迷宮の片隅に埋葬し、外へ出た
「ほら見なよバグ。 こいつは掘り出し物だって言ったろ?」
「そうだね姉ちゃん、じゃぁこいつを使おう」
出口で待ち構えていたのは黒い肌の少女と少年
話から察するに姉弟のようだった
「さて、メグらの封印が解けて最初の人形となることを感謝しな!」
「お前の心の闇、広げてやるよ」
二人は僕に近づいてくる
その体から得体のしれない力を感じ、僕は怖くなって、消えた
何が起こったのか分からないけど、僕はその場で消えたのだ
気配も匂いも何も残さずに、二人の目の前から、忽然として
相手からは僕のことが見えていない
でも、僕からは二人のことが見えている
「どこ行ったんだ!? 一体どんな能力を…」
「姉ちゃん、気配すら残ってない。 まるで、この世界から消えたみたいだ」
「上等! メグから逃げるなんて、ずったずたに引き裂いて惨たらしく殺す!」
「そうだね姉ちゃん。 思いっきり遊び殺そう」
二人は目の前にいる僕に気づかずにどこかへと去っていった
いったい、僕はどうしたんだろう?
ハボックさんの話だと、この世界に来る異世界人は何らかの力を持っているらしい
でも、僕は何もない
何もないはずだったんだ
僕は再び現れる
どうやらこの力、自由に使えるみたいだ
「それにしても、一体何だったんだ今の二人は…。 考えてもしょうがない。 今は、ギルドにこのことを報告しなきゃ」
闇の魔獣はその姿が確認されただけで国家レベルの案件になるらしい
いや、国どころか世界を騒然とさせる
それほどまでに危険な魔獣なのだ
でも、あの魔獣、殺されていた。 一体だれが…
さっきの二人じゃ断じてない
あれだけ魔獣はバラバラに、引き裂かれていたんだ
血がついていないわけがない
むしろ、僕の方が血まみれだった
そうこれはまるで
「僕が倒した?」
何の力もない僕が?
いや、さっきの力と言い、何かが僕の体で起こっているのは確かだ
後天的に僕に力が備わった。 そう考える方が自然かもしれない
これもあとでギルドで確認しておこう
ギルドに戻った僕は全てを報告
僕の力に関しては後回しにされた
ギルド内は当然騒然となり、数週間は慌ただしかったけど、それももう治まって来た
そんなことより僕はもう、冒険に行けない
怖い、仲間をまた失いたくない
もう、何もしたくない
そう思っていた最中、ギルドから来るようにと言われる
僕の能力を測るため、だと思う
「あの」
「来ましたね…。 この者を即刻捕らえなさい!」
ギルドの受付嬢の一声で周りにいた冒険者全員が立ちあがって僕を取り囲んだ
なんで? どうして? そんな疑問を感じながらもこの場を切り抜ける方法を考えた
でも、無理だ。 ここには明らかに僕より強い冒険者が数十人単位で囲んでいる
「仲間殺しおよび世界反逆罪により、貴方を裁判なしの死刑とします」
「なんだって?! だって僕は…。 僕が! 仲間を殺すなんてそんなこと」
いくら叫んでも僕の声は誰にも届かなかった
僕は殴られ、蹴られ、そのまま気を失った
気づいた時には牢の中、明日僕は処刑されるらしい
広場のど真ん中での斬首刑
これは報いだ。 仲間を見捨てて僕だけ生き残った報い
それなら僕は、最後のその時まで死んでしまった仲間のために祈ろう
死ぬのはもう怖くない
僕はあの時死ぬはずだったんだから
そして次の日、僕は断頭台の上に立つ
民衆や、僕に優しかった冒険者たちまで僕を責め立てる
そんな声も遠くに聞こえるほど僕は疲れ切っていた
「何か言い残すことは?」
そう聞かれても答えることなんてない
僕はもう、どうでもよかったんだ
「では、断頭台に首をはめろ」
大きな斧が見える
あれが僕の首を落とすのか
一瞬で、楽に慣れそうだな
僕は首をはめ、鍵をかける音が響き、すぐに斧は振り下ろされた
「待て!」
凛々しい女性の声が響く
目を開けると、稲光を発しながら光のような速度で女性が走ってくる
女性は斧を蹴り上げて僕の首枷を外した
「無実の人間が殺されるってのは何とも気分が悪いじゃないか」
女性の体からはバチバチと電撃が火花を上げていた
「これを見るぜな!」
野次馬の後ろから、可愛らしい少女が叫んでいる
その手には、ロボット?
少女を模したと思われるロボットがモニターへと変形して映像を映し出した
そこには僕達のパーティが全滅する様子が映っており、そして、僕が闇の魔獣をずたずたに引き裂く様子が映し出されていた
「この人は無実です! 本当の黒幕は…」
もう一人、翼に捻じれた角、長い尾を持った可愛い少女がその両手に何かを抱えているのが見えた
「こいつらだよ!」
その横では目の覚めるような美しい白い少女が、先ほどの少女の抱えていたものを指さす
それは、僕が迷宮の出口で出会った黒い肌の姉弟だった
久しぶりにこの書き方