石野の異世界放浪記9-6
残る三人の魔人はどうやら一緒に行動をしているようで、三位一体となって街や国を攻撃し始めていると報告があった
魑魅魍魎たちを戻し、三人が目撃されたロゲインという街へと急いだ
現在地からは30キロほど離れており歩いて行くには時間がかかるためレコとポコを呼び出して妖術で連れて行ってもらうことになった
この移動はレコとポコに大きな負担がかかるため今まで使用したことはない
しかし今は緊急事態のため、二人はためらわずこの妖術を使うことにした
「行きますよポコ!」
「任せるですのレコ!」
二人は手を合わせる
「妖術! 空速絶式!」
二人は石野と岸田の手を握ると飛び上がってマッハを超えるほどの速さで飛んでいった
30キロの距離をほんの数十秒で移動し、魔人の暴れている街へと到着した
街には人の死体がうずたかく積みあがり、中には子供の死体まであった
「これは、ひどいな」
間に合わなかったことに悔しそうな顔を浮かべる石野と、その横で静かに怒る岸田が拳を固く握りしめている
「お、まだ生きてる人間がいるじゃないの。 おいバイズー。 こいつらも殺していいよな?」
「いいと思うよ。 ここの人間は全部殺しちゃうつもりだし。 まぁでもあんまり人間殺しすぎると奴隷がいなくなるからさ、こいつらで終わりにしとけよベク」
「じゃぁそっちの女はあたしに殺らせてよ。 ベクはあっちの男でいいわよね?」
「えー俺女がいいんだけど。 悲鳴聞くの楽しいじゃん?」
「いいから寄こしなさいよ。 あんたはさっきまでさんざん楽しんでたじゃない」
ベクという男は舌なめずりをしながら岸田を見ている
「さっきのは手足千切ったらすぐ死にやがったんだよ。 今度の女はなかなか強そうだからさ。 譲ってくれよ」
「あんたの趣味ってホント悪趣味。 まぁいいわ、譲ったげる」
「あんがとメロロロ」
ベクは岸田を、メロロロという女魔人は石野に狙いを定めた
「それじゃぁ残った獣人のガキ二人は俺がもらおう。 安心しろ、俺に嗜虐趣味はない。 一瞬で殺してやる」
三人の魔人はそれぞれのターゲットに狙いを定めて歩み寄って来た
「お兄さんさ、なかなかかっこいいね。 あたしに忠誠を誓うなら奴隷として生かしてあげてもいいんだけど?」
「ふひゃひゃ、おい女ぁ、俺が楽しんでる間に死ぬなよな?」
「ガキども、そこでおとなしく立ってるんだな。 先に殺してあの二人が凌辱されるところを見ないで済むようにしてやるから」
三人がそれぞれの相手に向かって話し終えた直後、三人の魔人は首を落とされる
その顔は驚愕の表情で固まっていた
「もういいっすよね石野さん。 こいつらの言葉、反吐が出るっす」
「ああ、俺もだ」
魔人はまだ生きているようだった
闇を纏っていただけあって生命力は強化されている
首を失った体が転がった自分の頭を掴んで元の位置に戻す
「やばいよあの女! 連携! 多分あれ、この世界最強とかいうSランク冒険者だよ!」
「確かに、普通の人間に俺たちの頭が落とせるはずがな」
またしても岸田の剣が三人の魔人を切り裂く
さいの目に、細切れに、粉々に、三人の魔人は自分たちが死んだことに気づかず消滅した
「もう喋ってほしく無かったっす。 闇に染まる奴らってのはみんなこんなのばかりなんすかね?」
「闇は心の闇を広げるのです。 もともと邪悪な者はさらに邪悪になります」
石野たちは魔人を倒しきったことをギルドに報告した
「ありがとう。 君たちのおかげで魔人は全て片付いたようだ」
マスターは深く感謝して石野への礼金を奮発したが、それを石野は断る
「その金は被害に遭った村や街、国のために使ってくれ。 俺たちは先を急ぐからいらないんだ」
「し、しかしこれだけの大恩を返さない訳には…。 そうだ、ならばこれだけでも貰ってくれ」
そう言ってマスターがギルドの奥から持ってきたは一振りの剣だった
「かつてどこかの世界から流れ着いたレイメイデンと呼ばれる神剣だ。 君たちが持つのならば誰も文句はあるまい。 ただ、その剣は主を認めなければ使えないと言われている。 どちらか持ってみてくれないか?」
マスターに青く輝く剣を渡された石野
しかし石野にはその剣は反応しなかったようだ
次に岸田が剣を掴む
するとレイメイデンはまるで長い間主を待っていたかのように光り始めた
「やはりか! 君がこの剣の主だ!」
岸田は新たな神剣を手に入れた
その後、転移被害者のヨリヤに別れを告げる
「本当にいいのか? ヨリヤ」
「ああ、僕はまだこの世界でやれることがあるかもしれない。 君たちのおかげでいつでも帰れるんだ。 ちゃんと平和になったのを見届けたら帰るよ」
石野とヨリヤは硬く握手を交わす
「必要になったらいつでも僕を呼んでくれ! この光線でどんな敵でも討ち取って見せよう!」
ヨリヤに別れを告げ、石野たちは次の世界へと旅立った
神獣たちが集まる世界でレコは思う
(今の石野さんなら、この子たちを使役できるかもしれないです)
その手には、龍、馬、兎と書かれた三つの玉が握られていた