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「ま、またドラゴンが!」
マートは震えながらも槍を構える
「落ち着け人間。 私はそこのクズを消しに来ただけだ。 このドラゴン族の恥さらしをな」
光の槍を刺したドラゴンは、すでに死んでいる追放されたドラゴンを足蹴にする
「全く、こんなところまで逃げてきておるとは…。 それにしてもそこの人間、貴様一体何者だ? たかだか人間に我らドラゴン族を殺しえるだと? ふざけている」
どうやらそのドラゴンはルーナ達を警戒しているようだ
明らかに敵意をあらわにしてレライアを睨んでいる
「なんだ。 力も測れないのか? ルーナちゃん、どうやらあたいらは相当下位の世界に来てしまってるみたいだね」
「なんだその俺たちを馬鹿にしたような言い草は…。 人間、ドラゴン相手になめた態度をとるとどうなるか、知らぬわけでもあるまい。 きめた。 こいつはここで殺す。 安心しろ、喰いはしない。 そんなことをすればこいつの二の前だからな」
レライアはニヤリと笑った
「なるほどね。 マートさん、根本の解決が必要だよこれ。 こいつらドラゴンはいずれ人間を裏切ってただの餌として見るようになる。 今は供物でその命を買ってるんだろうけどさ、いずれ喰われるよ」
ドラゴンが光りの槍を作り出してレライアに投げた
「これは人間に対する罰だ。 甘んじて受け」
言い終わらないうちにレライアの雷撃に貫かれ、雲島から驚愕の表情を浮かべながら落ちていった
「あ、あのドラゴン、隊長格ですよ…。 それをいともたやすく…。 あなたは一体何者なんですか?!」
レライアは口に指をあててウィンクを送りながら答えた
「知らない方がいいよ」
「ねぇルーナちゃん、この世界のドラゴンの認識を変えなきゃいけないと思わない? 同じ世界に住む者はみんな家族ってのがあたいの理想なんだけど」
「私も、争いは嫌いです。 こんな力を持っていながら何ですが…。」
レライアはルーナの頭をよしよしとなでぐりする
「まぁどっちにしろ放っては置けない。 レライア様、行きましょう」
リゼラスも賛成しているようだった
この世界の人間は、ドラゴンによって虐げられている
条約とは名ばかりで、本来ここのドラゴンは人を喰らうのが好きだ
それでもおきてとして人間を喰ったドラゴンを処刑しているのは、実力あるドラゴンたちの暇つぶしによるものだった
実力あるドラゴンとは先ほど倒された隊長格以上のドラゴンのことだ
「マートさん、ドラゴンの住処がどこにあるか知りませんか?」
「そうか、あなたたちはこの世界の住人じゃないんですね?」
「何故分かるぜな?」
「この世界の住人でドラゴンの住処を知らない者はいません。 物心がつけばすぐに徹底的に教え込まれるからです」
「なるほど、確かにあたいらは何も知らないねぇ。 ま、そういうわけだからさ。 この世界のドラゴンが人間に手を出さないよう説得してあげるから任せてみない?」
マートは女神を見るような顔でレライアを見た
まさか目の前のその人が正に女神であるとも知らずに
「ドラゴンの住処はこの街から遠く離れた地、世界の裏側と呼ばれる混沌とした場所です。 ドラゴン以外にも眷属であるワイバーンなどが闊歩していまして、とてもではありませんが普通の人間が入れる場所ではありません、が、あなた方ならば…。 隊長格を落とせるあなた方なら行けるでしょう!」
マートに地図をもらい、ドラゴンの住処をパリケルの四号にインプットしてナビゲートさせることにした
追跡機能まである四号にはうってつけの役割だった
「さぁ、四号ちゃんに続けぜな。 しっかりと案内してくれるはずだぜな」
世界の裏側まではルーナといなみが仲間を運ぶことになった
正確な場所が分からないため簡易転移ではとぶことができないからだ
ルーナといなみに抱えられ、時折みかける街で休憩しながらも二日ほどで到着した
「見てください、あの大きな城。 あそこからドラゴンが何体か飛び立つのが見えました」
その城は圧倒的な大きさを誇っており、かなりの数のドラゴンが住んでいることが分かった
城の前に降り立ってドラゴンの兵士に囲まれてから1時間後
全てのドラゴンがレライアの前にひれ伏していた
「で、どうすんの?」
「我ら、ドラゴン族一同、貴方様に従います」
「それなら今日より以降ずっと、人間族と仲良くすること。 あっちにも言っておくからさ。 出来ないなんて言わないよねぇ?」
「そ、それはもちろんです! 我らは強者に従う種族。 必ずやレライア様とのお約束、守り通しましょうぞ!」
平服しきったドラゴンたちを後に、ルーナ達はタークーの街へと戻った
「まさかこれほど短時間で…。 先ほど全世界へ伝達がありました。 ドラゴン族の方から同盟を結んできたのです。 たがいに傷つけ合わず、立場は対等だという同盟が…。 しかも、彼らは自分たちに戒めの呪いまでかけたようなのです。 もし約束を違えば心臓を破裂させるという呪いを」
「そこまでしろなんて言ってないんだけどなぁ。 でもまぁそのくらいしとけば二度と人間に危害は加えないでしょ。 でもそれに甘んじてちゃだめだよ? マートさんたち人間も彼らに歩み寄ってあげないとね」
それからこの世界はすっかり様変わりした
ドラゴンと人間は手を取り合ってこの世界をより良い世界へと導いていくことになる
やがてこの世界は格を上げ、中位の世界へと変化するだろう
平和になる空の世界を後にし、ベクトの指針に従って転移した
今回何が言いたかったのかというと
世界も進化するってことです