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ルーナたちが夕食に食べたのは、雲鳥という驚くほど体重の軽い鳥を使った焼き鳥にフワエールというアルコールの入っていない炭酸ジュースのようなものだった
「なんとふんわりとした食感! あたいこういうの好きだねぇ!」
レライアはその手にすでに20本もの焼き鳥を持ってがっついている
よほど気に入ったのか、食べ終わる前にもうおかわりを頼んでいた
「そういえば、モグモグ、面白い話を、ムグムグガツガツ、聞いたんだけど」
咀嚼しながらレライアが話を切り出す
「ゴクン、実はさ、この街から南西にあるタークーという街で困ったことが起きているらしいんだよね。 なんでも数週間前から凶暴なドラゴンが現れて、街を荒らさない代わりに供物をよこせと言って、街の食料の半分を一週間に一回渡すことになっているらしいんだ。 でもさ、そんな量の食料を持っていかれたらその街の人たちも飢えちゃうよね? そこでなんだけど、あたいらでそのドラゴンを懲らしめようと思うんだ」
「それはいけませんね」
ルーナはその街の人たちのために明日、そのドラゴンに喝を入れに行くことにした
そして次の日、フワフワとした雲のベットで最高の目覚めを得、すっきりとした気持ちで朝を迎える
「レライアさん、起きてくださいよ! 行きますよ!」
「う~ん、あと300年~」
「さすが神様だな。 寝言も壮大だ…」
ようやくレライアを起こしてタークーの街へ行く準備を整えた
「雲は綿あめで甘いんだよなぁ」
まだ寝ぼけて変なことを口ずさむレライアを連れてタークーへと飛んだ
通常ここの住民は雲島から雲島に移るのに巨大な鳥を使う
彼らの翼では島から島へ渡るほどの力はないからだ
しかしルーナ、いなみは神の力を持つため、その翼の力も強い
三人を抱えて飛ぶくらいは朝飯前だった
ちなみに三人の翼は簡易の物なのであまり長時間は飛べない
数時間かけてタークーへ着くと、周りの人たちは驚いた顔でルーナ達を見た
「き、君たち、まさか自分の翼でここまで?」
「はい、そうですが…。 それよりもここにドラゴンが現れると聞いてきました」
「おお、もしや他の島からの援軍ですかな?」
そう言って走って来たのはこの街のを治める翼長と呼ばれる男
「私はこの街の翼長のマートです。 ここではなんですので私の家にいらしてください」
マートに連れられて彼の家を訪ねた
人数分のお茶をマートの妻が入れ、マートは語りだした
「あのドラゴンは数週間前に突如として現れました。 今までドラゴンが街まで来ることはなかったのですが、恐らくあのドラゴンははぐれなのでしょう」
「はぐれって何ですか?」
「はぐれというのは悪さをして群れから追い出されたドラゴンのことです。 通常は人里離れた場所に追放されるのですが、どうやらあれはそこから離れてこの街まで来たのだと思います」
マートはため息をつく
「もともとこの街は質素倹約を基盤としていますので、食料もそう多くはありません。 既に全ての食料を出だしてしまっているためこれからどうすればよいのか悩んでいたのです」
「なるほど、ではそのドラゴン、あたいらが退治してきましょう」
「ま、待ってください。 相手は世界最強種のドラゴンですよ!? 援軍は…。 他に援軍はこないのですか!?」
「問題ないよ。 あたいらで事足りる」
「し、しかしですね」
「まぁ任せてよ。 僕らこう見えて強いから」
それで話は決まったとばかりにレライアを筆頭に立ちあがって外に出た
「待ってください! ならばせめて私も! 今は翼長ですが、私も若いころは魔物退治で腕を鳴らしたものです。 お役に立てるかは分かりませんがおとり役くらいにはなるでしょう。 この街を守れるならこの命、惜しくはありません!」
「ついてきてもいいけど、出番はないよ? あたいが倒しちゃうから」
心配そうな顔のマートを尻目に、レライアは供物の捧げられる場所へと飛んだ
「まもなく現れるはずです。 しかし、大丈夫なのですか? いざというときは私を置いて逃げてください」
マートの覚悟は相当なもので、本当に命を懸けて戦う気でいるようだ
「まぁマートさんはそこで見てなって。 あたいの強さ、見せてあげるからさ」
しばらくすると前方から大きなドラゴンが迫って来た
ドラゴンはゆっくりとルーナ達の前に降り立つ
「おい、供物が置かれていないとは一体どういう了見だ? まさかてめぇら俺に逆らう気じゃねぇだろうな?」
威圧され、マートは震える
「お前に寄こすものなんかもうないんだよ。 文句あるならあたいが相手になる。 かかってきなトカゲ」
トカゲと言われ、ドラゴンは怒り狂った
「お前、言っちゃならねぇことを言いやがったな。 その場で八つ裂きにして食ってやるから覚悟しろ? ヒャヒャヒャ、若い女の肉なんざなかなか食えねぇからな」
「こ、このドラゴン、人間を喰ったことがあるみたいです! そうか、だから、追放されたのか」
マートが言うには、ドラゴンと人間との間には不可侵条約があり、ドラゴンは人間を食べないかわりに、年に数回ある程度の果物を捧げることになっていた。 そのおきてを破って人間を喰ったドラゴンは本来ならば殺されるのだが、このドラゴンは逃げてきたのだった
「そうか、なら最悪死んでも文句を言われることはないってことだねぇ」
レライアはバチバチと体から火花を上げ始めている
体の電気をフルまで溜めているようだ
「それじゃぁ女、喰わせてもらうぜぇ」
ドラゴンは口を開け、レライアに噛みついた
その瞬間体全体に超高圧の電撃を受けて、心臓はその鼓動を止めた
「あーやっぱこの電圧だと死ぬか」
レライアはドラゴンの胸、心臓のあるあたりに手を当ててわずかな電流を流した
それによって再び心臓は鼓動を始める
「ぐ、がはぁ! な、なんだ。 俺は今、何が起こって…」
絶句しているドラゴン
「悪いね。 殺すつもりはなかったんだけど、あんたがあんまりにも弱いからさ」
ドラゴンは今しがた与えられた死の恐怖に震え始める
「なななな何なんだお前! なんなんだよ!」
ドラゴンが逃げようと翼を開いた瞬間、ドラゴンの胸に光の槍が刺さって今度こそ完全にその命を断たれた
光の槍を刺したのは、別のドラゴンだった