石野の異世界放浪記9-7
闇の気配を辿りながら次の場所へと移動する石野たち
そこに魑魅魍魎から連絡が来た
「ふむふむ、なるほど、それで場所はどこですか?」
レコの頭に乗ったフワフワの綿あめのような魑魅魍魎が耳打ちをしている
「近そうですね。 案内をお願いします」
その魑魅魍魎の案内に従って場所を移動する
「どういう情報だったんだ?」
「はい、どうやらこの世界にはもう一人、異世界転移の被害者がいるようなのです。 冒険者ではないようですね。 最近ここに来たのかもしれません」
その者がいる場所はテルロアの真下から数キロ進んだ歯車都市ドーマ
歯車と滑車によって栄えた大都市だ
速度を上げて走る三人
時速40キロは出ているであろう石野と岸田の後ろを難なくついて行くレコ
「ここが、ドーマ、何てでかい都市なんすか」
口を開けてその都市の外観に圧倒される岸田
「岸田、口を閉じろ。 ものすごくアホに見えるぞ」
「失礼っすね石野さん! 俺はアホなんじゃなくてバカなんすよ!」
「一緒だろ」
「違いますよ! 俺はバカはバカでも馬鹿にされないくらいバカなんすよ!」
「いやよく分からん」
二人は一連のやり取りを終えて都市へと入った
「まずは聞き込みっすね!」
「いえ、居場所は分かってるのですぐ会えますよ」
「あ、そっすか」
魑魅魍魎のおかげで転移者の居場所は既につかめていた
それはこの都市の貧民街にある教会だった
「ここか?」
「そうみたいです」
教会に入ると、誰かが一心に女神の像に祈っていた
「あの」
祈っているのは少女、彼女は涙を流していた
「あ、すいません。 ここにどういったご用件でしょうか?」
少女は立ち上がって涙をぬぐう
「俺は石野、こっちは岸田だ。 君は地球からここに飛ばされた子だね?」
「え!? どうしてそれを…」
「俺たちも地球から来た。 君の名前は?」
「失礼しました。 私はペシェ・ジュド・アロモラ。 ベトナム出身です」
「なるほど、なら俺たちは同じアジア圏出身だな」
優しく微笑んだ石野に安心したのか、ペシェは急にまだ涙を流し始めた
「神様、ありがとうございます。 希望を…。 遣わせてくださったのですね」
彼女はベトナムで若いながらも貧困のため働いていたそうなのだが、仕事先からの帰り道に立ち眩みがしたと思ったらいきなりこの教会に立っていたらしい
「私の帰りを待っている弟、妹たちがいるんです。 早く帰らなきゃ、あの子たちが…」
岸田はペシェの手をそっと握る
「大丈夫っすよペシェさん。 この子たちには転移者を返せる能力があるんすよ。 すぐに帰れるっす!」
その言葉でペシェは顔を輝かせた
「本当ですか!」
彼女はすぐにでも帰りたそうだ
「ちょっと待ってください石野さん、この子」
「どうした?」
「この子の能力、超回復です! 手足を失っても生きてさえいれば完全回復させれる希少な能力ですよ!」
なんと彼女は、石野やこの世界にもう一人いる転移者のヨリヤが探していた能力者だった
レコはペシェに事情を話す
「家に帰れるのなら、そのくらいなんてことないです! 任せてください!」
ペシェも快く引き受けてくれたため、まず石野はエコを呼び出した
「本当に、治るであるか?」
エコは恐る恐るペシェの前に来る
顔に刻まれた大きな傷。 その傷にペシェの指が触れると、傷が光った
傷をなぞって指先が這って行くと、それに沿って傷が消えていった
「なんと、なんと、ミーの顔が…」
エコは泣きながら喜び、ペシェに抱き着いた
「素晴らしいである! この恩、生涯忘れないである!」
「役に立ててよかったわ。 女の子の顔に傷なんて…。 ひどい人もいるものですね」
次は右腕を失ったヨリヤだ
レコは簡易式の転移によってヨリヤのいる宿へ飛んだ
「うわっ、びっくりしたな」
突然目の前に現れた石野たちにヨリヤは驚く
「見つけたぞヨリヤ!」
ペシェの能力を説明すると、ヨリヤは目を丸くした
「本当かい? まさか同じ世界にいるなんてね」
すぐにペシェはヨリヤの腕を見る
「少し痛いですが、我慢してくださいね」
先ほどと同じように傷口に指で触れると、傷口がグネグネと動き出し、まず骨が生えた
その骨に沿って筋肉、血管、神経、皮がぐにょぐにょと張り付いて行く
「ぐ、がぁ! イテテテテ!」
ヨリヤは脂汗をかきながら痛がっているが、一分ほどで腕が綺麗に生えた
「これはすごい! 全く問題なく動くよ! ありがとうペシェちゃん! これで、僕も戦える!」
ペシェに感謝しながらヨリヤはギルドの方へと走っていってしまった
「さて、あなたを元の世界へ返します。 こちらに来てください」
レコはアマテラスから預かった宝珠を取り出す
「これに触れていてください。 そして故郷を強く思ってください」
ペシェは宝珠に触れる前に石野たちに感謝の言葉を述べた
そして石野と握手を交わす
「え? 私の体が光ってます」
それは石野とのつながりの光だ
レコが説明すると、ペシェは喜んだ
「すばらしいです! この大恩、一度だけで返せるものではありません! 傷を負った時は是非私を呼んでくださいね!」
ペシェはずっと感謝の言葉を石野たちに伝えながら、宝珠に触れて帰って行った