石野の異世界放浪記9-6
一行は空に浮かぶ国、テルロアへとヤコに抱えられて飛んでいた
「くん、ふぅ、んく、もう、少し、です」
相変わらずなまめかしい声を上げながら石野と岸田を運んでいく
「はぁはぁ、着き、まし、た」
テルロアに到着したとたんにへたり込むヤコにねぎらいをかけながら戻ってもらった
ここからはレコとニャコを召喚して闇の気配を辿ることにした
「んにゃ、どうするにゃ? またおいらの分体使うかにゃ?」
「ああ、場所まではまだ分からないからな。 頼む」
「了解にゃ! 九重尾魂!」
再び八体の分体を作り出すと一斉に放った
「みんながんばってくるのにゃ!」
「「「にゃーー!」」」
掛け声とともに分達たちは姿を消し、気配を消して走っていった
「情報はすぐ集まるはずにゃ。 その辺でも散歩して待つのにゃ」
ニャコの言ううとおりにテルロアを歩き回るが、ここには人間族の姿が見当たらなかった
そのためか、石野と岸田は奇異の目で見られていた
「なんで人間が一人もいないんすかね?」
「魑魅魍魎の話だと、ここには空を飛べる種族しか来れないみたいなんです。 転移の魔法はないですし、飛空艇のような空を飛ぶ乗り物もないらしいので」
「なるほど、それで彼らは俺たちを見ていたのか」
確かに奇異の目では見られているが、それでも石野たちに警戒はしていないみたいだ
それは、石野たちのように翼人たちが人間を連れて来ることもあるからだろう
「む、戻って来たみたいにゃ」
ニャコの周りに八つの玉が集まる
それは人型を解いたニャコの分達たちだ
「ふむ、ふむふむ、にゃるほどにゃ。 石野、案内するからついて来るにゃ」
どうやら闇の気配がある場所を突き止めたらしい
走るニャコの後を慌ててついて行くと、モニュメントの置かれた広場に着いた
「このモニュメント、この頂上に気配があるにゃ」
そのモニュメントは10メートルほどで、フランスのルーブル美術館前にあるオベリスクのようだった
「確かに、変な気配がありますね」
レコが上を見上げている
「あ! あれ見てください!」
モニュメントの上、そこに黒い塊が浮かんでいた
それは脈打っており、まるで卵のように見える
「あれから邪悪な気配を感じます。 今のうちに壊しましょう!」
「しかしどうやって攻撃するんだ? ヤコはまだ回復していないぞ?」
「それならエコを。 彼女ならこのくらいの高さ、するすると登っていきますよ」
言われた通りにエコを召喚する
顔の傷が痛々しいが、彼女は既に元気を取り戻していた
「話は聞いたである。 任されよ!」
手をほんの少しのでっぱりに引っ掛けると、簡単に頂上まで登り切ってしまった
「これであるな? では石野殿にいいところを見せるのである!」
エコは妖術を使うため、体内の妖力を練り始める
「行くである! 乾坤一擲、栄光の手!」
エコの腕が妖力に包まれて巨大化する
その腕を闇の卵に振りぬいた
パキンとガラスが割れるような音が響き、卵は粉々に砕け散る
「やったである! 処理完了である!」
モニュメントを降りてきたエコの顔はやり遂げた非常にすがすがしい顔になっていた
「よく頑張ったなエコ」
石野が頭を優しく撫でてやる
「エヘヘ、いいところを見せれたであるか?」
しかし、それで終わりとはいかなかった
割れたはずの卵は再び周りから闇を吸収し、先ほどよりも大きくなってモニュメントの下に降りてきた
その卵にひびが入り、割れた
何事かと見ていた翼人たちはその光景に驚き、一斉に逃げ出す
「これはこれは、またなんとも奇怪な化け物であるか」
卵からはドロドロとした巨大な鳥が羽化した
雛と見るにはあまりにも凶悪で邪悪な容姿
石野たちの方を見て襲い掛かって来た
「なんだこれは、魔物なのか?」
「たぶんそうですが、卵のうちに闇化したのかもしれません」
石野は攻撃を躱し、刀を抜く
それと同時に岸田も剣を構えた
「とりゃっす!」
岸田が剣を振って切りつけたが手ごたえがない
「あれ? 何すかこいつ、まるで霞でも切ってるみたいな」
魔物は口を大きく開けて岸田に喰いついた
「おっと」
剣で受け流す
「何で斬れないのにそっちの攻撃はあたるっすか! 理不尽じゃないっすか!」
攻防は続き、レコとエコも戦いに参加した
一方ニャコは早々に逃げ帰っている。 戦闘能力が低いニャコでは太刀打ちできないためだ
「石野さん、下がってください! 妖神術! 黄金狐火!」
「ミーのも受けるがいいである! 妖神術! 御影妖拳!」
レコは金色に輝く炎を召喚してぶつけ、エコは妖力と神力で作り上げた複数の拳を撃ち込んだ
どうやらその攻撃は有効のようで、魔物に大打撃を与えた
「どうやら実体化したみたいだな」
二人の攻撃のおかげか、魔物は弱って実体となった
そこを逃さずに石野と岸田の合わせ技が炸裂した
「行くぞ岸田!」
「はいっす!」
二人の剣が魔物に向けて交差する
「クロスディストラクション!」
これは石野のもう一つの能力によるものだった
心の通じ合った者と共闘するとき、特別な力を発揮できる
「倒しきれたみたいっすね」
「レコ、エコ、ありがとう、助かったよ」
二人に感謝し、残りの闇を払うためテルロアからヤコに掴まって飛び去った
魑魅魍魎からの情報によると、この世界の残りの闇の気配は三つだ