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アナサ頑張る3

 悪魔と化した黒族、彼らの封印が解け、アナサはその黒族の情報を皆に伝える役目を負っていた

 そして新たに訪れた世界、荒野が広がり、生き物の気配が全くしない場所だった


「えっと、うーん、相変わらず私に気配なんて分からないわ。 いくら神の眷属になったからって言ったって、あんな化け物たちと比べたら私なんてありんこもいいとこじゃない」


 ただ情報を集めることしかできない自分の力がもどかしく、元魔人としての自分を許してくれた女神達に申し訳ないと思っていた


「アナサ、聞こえます!?」


 パリケルの作った通信機から女神アウラスタリアの声がする

 自分のことを本当の娘のようにかわいがってくれている下位の女神だ


「は、はい! どうしたのですか?」


「すぐにそこから逃げなさい! ナニ ザザ、かが…」


 通信装置にノイズが走り聞き取れなくなってしまった


「逃げなさいって…」


 アナサは急いでその場から走り始めたが、一足遅かった

 どこから出てきたのか、彼女は周りを様々な武器を持った男たちに囲まれていた

 彼らはその背中から黒い靄が噴出している


「まさか、闇化してる、人?」


 彼らは手に持った銃を一斉にアナサに向け、引き金を引いた


「お母さん、助け」


 無慈悲にも銃弾はアナサを貫いた




「アナサとの連絡が途絶えました。 あぁ、もっと早く私が気づいていれば…」


 アウラスタリアはアナサのことを心配し、一人で行かせたことを後悔した


「姉様、あの時異世界に渡れるだけの力を持っていたのはあの子だけでした。 それにあの子も危険を承知で引き受けています。 今は、無事を祈るしか…」


 アウラスタリアの妹、一時期邪神となっていたが、ルーナによって元の女神に戻っているマルセタリア

 彼女もまたそう言いながらもアナサを心配していた

 アナサを魔人にしたことに負い目もあるうえに、眷属としてからは娘のように可愛がっていたからだ


「どうにか、あの子を助ける手立ては無いものでしょうか?」


 二柱の女神はアナサのことを思って祈った。 神が祈るのもおかしな話だが、上位の神々に通じるように一心に祈り続けた




 銃弾に撃ちぬかれたアナサはその場に倒れ、ぴくぴくと身を震わせる

 弾が体にあたる瞬間に身をよじって何とか急所は避けることができたが、銃弾の一つが頭部に当たり、脳をかすめていたためすでに動けず、あとは死を待つだけ

 それでも、アナサは薄れゆく意識の中で考えるのをやめなかった。 それが彼女を死のギリギリで引き留めている


(お母さん、お母さん、ごめんなさい。 役立たずで、迷惑ばかりかけて、だから、私を捨てたんだよね?)


 アナサが思い出していたのは自分を捨てた産みの母。 母親に捨てられた彼女は生きるために人間の死体を食べて食いつないでいた。 それしか生きる術がなかったから

 でも、神の眷属となってからは違っていた

 母親代わりとなった女神は優しく、愛してくれていた

 彼女はそこで初めて愛を知ったのだった

 そして思い出すのは双子の女神、母の姿だった


「こんなとこで、死ねない。 私は、あの人たちの恩に報いなきゃ、いけないんだから!」


 立ち上がったアナサに男たちは驚いた表情を浮かべる

 銃弾は体に無数の穴をあけ、血も吹き出ており、頭部の傷は脳にまで至っている

 それでも彼女はその精神力だけで体を動かしていた

 普通ならとっくに死んでいるはずの体を立たせ、動かし、男たちを睨みつける


「あんたたち、一体何なのよ…。 闇の、操り人形かしら?」


 口から血をボトボトと滴らせるその姿は、恐怖よりも生命力あふれる美しさの方が際立っていた

 男たちは思わず見とれてしまう

 しかしやはり立っているのもやっとのアナサは、立ったままとうとう事切れてしまった


「死んだか?」


 男たちが確認のためにアナサの死体を銃で叩く

 あっさりと崩れ落ち、アナサは血だまりの上で転がった


「あの状態で立ち上がるとは、神の眷属とは恐るべき生命力だな」


 念のためアナサの頭部に銃を突きつけ、撃った

 パンという乾いた音と共に、アナサの頭は砕けた

 そう見えたのだが、銃弾はアナサの頭部に現れた白いものに遮られていた


「なんだこれは?」


 それはアナサの見開いた目から流れ出ており、その白いものはアナサを包み込んだ


「撃て!」


 男たちは一斉に弾丸を撃ち込んだが、白いものは簡単に弾をはじき返す


「おい、もっと威力の高い物を持ってこい!」


 先ほどよりも強力な爆裂を巻き起こす弾丸を撃ち込む。 当たると同時に爆炎が巻き上がった

 やがてその煙は消え、そこには無傷でアナサを包んだ白いものが横たわっていた


「撃ち続けろ!」


 そこからあらゆる銃火器、兵器を用いて破壊しようとしたが、どんなものだろうとアナサを傷つけることが出来なかった


 やがて、白い物の中心にひびが入り、砕ける

 そこからは生まれたままの姿のアナサが現れ、あれほどあった傷は残すことなく綺麗に治っていた


「ふん、中身を撃てばさすがに死ぬだろう」


 男たちは再び銃火器による攻撃を一斉に照射した

 が、その銃弾はアナサに届くことなく空中で静止していた


「なんだか、生まれ変わった気分だわ? 魔人になってた頃よりも、眷属となった時よりも、もっともっとすごいかも? ねぇ、撃ってみてよ」


 立ち上がったアナサはその体を見せつけるように男たちの前に立ちはだかる

 背からは黒と白の翼、頭には右に捻じれた角、左に輝くまっすぐな角

 彼女は神力と魔人の力によって突然変異的に進化を果たした


「う、撃て! 殺せ!」


 男たちの猛攻が始まったが、まるでそよ風にでも当たるように涼しい顔で男たちに近づいていく

 そして、彼らを殺すことなくその体にへばりついた闇にだけ攻撃を加えるという器用さを見せた


「散りなさい!」


 アナサが手を広げると、彼らについた闇は全て消え去り、憑かれていた男たちは全員が昏倒した


「これなら、お母さんの役に、立てる!」

 

 アナサは自分が得た力に(おご)ることなく、アウラスタリア達のために再び歩みだした

 まだこの世界にいる闇化した黒族を見つけてはいない

 しかし進化したその体で居所が分かるようになっていた

 聖魔神、それが彼女が新たに成った種族

 その力は彼女がその身に受けた様々な要因によって中位の神にまで達していた

 人間として生まれ、魔人として育ち、死を体験し、神の眷属となり、再び死を体験した

 それによって力がその身に濃縮され、一気に弾けた結果だった

久しぶりにこの子の話を書きました

ワスレテナイヨ

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