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4-29

 タブを追いかけて空を飛び、ものの数分で追いつく


「あれ? 来たの。 まぁいいか、僕の仕事を見せるいいチャンスだし」


 タブが誰かを殺そうとすれば止めるつもりでいたが、彼が向かったのは子供たちがたくさんいる施設のような場所だった


「ここは?」


「あぁ、孤児院だよ。 みんな僕の子供達、そして、チップを入れられていない未来を作る子たちさ」


 タブの説明によるとこの孤児院は、チップによって意思を奪われた親を持つ子供が安心して育つ施設だった

 意思を奪われた親たちは平和で、何事にも怒らず、一切の敵意や怒り、負の感情が全くない存在になり果てる

 しかし子供たちはそこに不気味さを感じてしまう。 どこか人間ではないと感じてしまうのだ

 一度意思を奪われれば元に戻ることはない。 たいていの子供がそこから逃げ出してしまうのだ

 しかし逃げた子供も捕まり同じように意思を奪われてしまう

 そんな逃げ出した子供を彼が匿っているのだ


「意志なき人間なんてもう人間じゃないよね? わかってくれるかな?」


「そこに関しては、同意する。 しかし人を殺すのはまた別の話ではないのか? 彼らにだって家族がいて、当然悲しむのではないのか?」


「分かってるよそんなことは。 だからね、僕は、家族一緒に成れるよう一族をみんな殺してあげてるんだ。 どうだい? 幸せな解決方法だろ?」


 彼には子供のことを思いやる慈愛がちゃんとある。 それと同時に敵とあればその全てを、憎しみも持たずに殺しつくすようなサイコパスのような一面もあり、その矛盾が一つの体に共生していた


「一族って、その中には子供もいるんじゃないの?」


「うん、でもね、本当の家族と一緒にいられることが何よりも幸せでしょ? だから送ってあげるんだ」


「話が全く通じないぜな。 やっぱりこいつおかしいぜな」


「おかしい。 そうだろうね。 自分でもわかってるよ。 普通じゃないから普通のことができるんだよ」


 彼は自分で自分を理解しつくしている

 それ故に普通にふるまうことができ、誰にも怪しまれず人を狩れる

 

「ここじゃ子供たちが危ない、おい、私達と一緒に来てもらおう」


「殺すんだね? 僕を。 まぁそうなると思ってたけどね。 いいよ。 どこで殺りあう?」


 タブはおとなしく従い、ルーナ達について行った


「考えを変える気は…」


「ないよ。 これが僕の正義だから」


 やって来たのは近くにあった荒廃した土地

 かつて戦争によって破壊しつくされた街の跡地だった


「ここならだれも来ないから。 どれだけ暴れても大丈夫」


 タブは自分の力を最大限に発揮するためにこめかみのチップを取って握りしめ、破壊した


「さ、誰からかな?」


「私が行こう。 お前たちがこれ以上手を汚す必要はない」


 リゼラスが前に出てタブに向き直り、腰の剣を抜いた


「君じゃ役不足、って気がするけど、死に急ぐならそれもいいね」


 二人は向き合うと、同時に走り出した


「せりゃぁ!」


 剣を横なぎに振ると、それを後ろに反って回避するタブ

 

「てい!」


 タブの掌手がリゼラスの胸元を捕らえ、鎧を砕き割る


「なっ! オリハルコンの鎧を軽々と!」


 さらにタブは拳を鎧の砕かれた腹部にねじ込んだ


「う、グブゥ」


 胃が破裂し、大量に吐血するリゼラス

 地獄のような苦しみが襲っているにもかかわらず、倒れることなくタブを睨んだ


「へぇ、これを喰らって生きてるなんて君、タフなんだね」


 リゼラスは血をゴポゴポと吐きながらも剣を構えた


「ぐぶっ、まだ、だ」


 走り、タブの腕めがけて剣を振り上げる


「あっ」


 油断していたのか、避けることができずに右腕が地面に転がった


「いたたた、速い、ね」


 持っていたハンカチで止血をするタブ

 残った左腕をリゼラスに向けた


「そっちもギリギリでしょ? 僕もこの出血量、もってあと数分、かな? 君も、同じくらい」


 二人は走り、ぶつかり合った


 そして数分後、さらに左腕を斬り飛ばされたタブが地面に倒れる

 リゼラスも無事ではなく、あばら骨は砕け、その砕けた骨が肺に突き刺さっており呼吸もままならない

 それでもしっかりと自分の脚で立っていた


「はは、負けちゃったよ。 これで僕の正義も終わりか。 勝った方が正義だもんね、世界っていうのは」


 既に意識がもうろうとしているのか、その焦点は定まっていない

 ルーナはリゼラスの治療を素早く終えると、タブの傷を治した

 落ちた腕を拾い上げ、綺麗に付けなおす。 治療の神の力だ


「なんで、僕を?」


「だって、人を殺すのは間違ってます。 あなたも、私も、償わなきゃいけません。 でも、あなたがあの子供達を思っているのは本当。 だから、あの子たちのために、正しく生きて。 自分の正義じゃなくて、あの子たちの正義のために戦って」


 目を見開くタブ

 ルーナをしっかりと、まっすぐと見た


「やり直せるかな?」


「できます! だって、前までのあなたはここで死んだから」


 タブは立ち上がると、子供たちのいる施設へと去っていった


「いいんぜな? 見逃して」


「分かりません。 でも、きっとタブさんは前のタブさんじゃない」


「うむ、ルーナがソレでいいと思ったんなら、それでいいぜな。 それにしてもリゼラス、あんたあんなに強かったんだな」


「まぁ魔物以外には負けてばかりいたからな。 ルーナ達といればいやでも自分が弱いと自覚する。 私もまだまだだな」


 リゼラスが空を見上げた直後、ベクトのオーブが光り、四人を包んで転移させた

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