石野の異世界放浪記9-4
ニャコの示した道は街の下水道
緊急用の王族が使うための逃げ道が用意されており、そこを逆にたどって城へと侵入することになった
「にゅふふ、おいらにかかれば迷うことなくまっすぐに案内してやるにゃ。 オーボエを持った気でついて来るにゃ!」
「それを言うなら大船に乗ったつもりで、ですよニャコ」
「んにゃぁ、おいらの家ではそういうのにゃ」
「いや、私たちもそこに住んでますし」
ニャコとレコのやり取りをほっこりして見る二人
「かわいいっすね」
「襲うなよ?」
「襲わないっすよ!」
地下へと潜り、しばらく進んでいると巨大なネズミの魔物が現れた
こちらを見ているが、ネズミ特有の危機管理能力なのか、石野たちを見て怖がっているようだ
「襲ってこないっすね」
「ああいう魔物はもともと強さを測る能力が発達しているのです。 自分より強い者には決して襲い掛かりません」
レコが得意げに説明していると、いつの間にかネズミが増えていた
「なんか囲まれてないすか?」
ネズミたちの目は真っ赤に光り、こちらをねめつけている
「様子がおかしいですね」
ネズミたちはギラギラと殺気を放ち、姿を変えた
体毛が黒く生え変わり、鋭い牙が生えた
「これは…。 闇化?」
「でも闇の気配は感じないのにゃ」
探知の得意なニャコがいくら気配を探っても闇の気配はしない
それなのにここのネズミたちは闇に支配されていた
「どういうことなんだ?」
「考えるにここは闇の実験場だったのかもしれません。 魔物を闇化するための」
「実験場すか?」
「はい、闇化した魔物は恐ろしく強く、凶悪になります。 世界に混乱を巻き起こすための下準備をしてたのでしょう」
ネズミたちが一斉に襲い掛かってくる
「この程度なら」
石野と岸田で素早くネズミたちを排除した
「楽勝っすね」
「これらは闇化が失敗したものだと思います。 本来ここまで弱くありません」
完全な闇化した魔物なら初めから体色、もしくは体毛が黒く、凶暴性も桁外れだ
場合によれば一匹でも世界を壊せるほどの脅威になりうる
「もしかしたらこのネズミたちだけではないのかもしれません。 気を付けていきましょう」
「にゃ、今のネズミの気配を元に探ってみるにゃ。 おいらの分身でにゃ!」
ニャコが再び自分の分体を撒き、探り始めた
「世界中を探させるから少し時間がかかるのにゃ。 魔人でも倒して気長に待つにゃ」
ネズミのいた下水道を抜けると広い部屋へたどり着いた
その中央に壺が一つ置かれている
「何すかこれ? 壺?」
手を伸ばす岸田
「触っちゃだめです!」
岸田の手が触れ、壺がくるくると回転を始めた
「げっ!」
「馬鹿! 離れろ岸田!」
「は、はいっす!」
壺はさらに回転を増して宙に浮かぶと、ひびが入り、その隙間から光が漏れ出し、粉々に割れた
その中から黒く染まり切った男が現れる
「フハ、ハハハ、体が軽い。 力が溢れる」
「あれ、魔人だにゃ。 それもかなり危険な」
「さーて、人間で遊んでこよっと。 ってそこによさげなのがいるじゃん。 ねね、殺しあわない?」
男はさも楽しそうに、邪悪な笑みを浮かべている
「俺さ、人間をバラバラにするの好きなんだよ。 とくにさ、君みたいな可愛らしい女の子を指でちょっとずつ千切ってくのが好きでさ。 あれさ、ゆっくりやるとずーっと痛がってくれるんだよね。 その時の悲鳴が最高」
岸田は寒気を感じ、それと同時に憤った
「岸田。 行けるか?」
「はいっす!」
石野は神剣を、岸田はその力を開放した
「やる気だねー、いいねー、君はぐちゃぐちゃのミンチにしようっと」
魔人がギザギザの歯をむき出し、よだれをたらしながら走り出した
「合わせろ!」
「いくっすよ石野さん!」
石野が軽やかに飛び上がって魔人に切りかかり、岸田は能力の一つ、縛によって魔人を拘束した
「げ、なにこれ? 動けないんだけど」
体がピクリとも動かなくなった魔人はそのまま石野の剣によって首を断たれた
「あれ? 景色が逆さま?」
魔人の首がコロコロと転がってケタケタ笑っている
「まだ死なないっすか?」
「フハハ、痛いけど、フフ、楽しいね楽しいね」
魔人の体が首を拾い上げて自ら元の位置へと戻すと傷はふさがり、元通りになった
「そうそう、あいつが言ってたっけ? 僕は不死シリーズ。 成功したって。 フフハハ、ねーねー、無限に生き返るか試してみない? その前に君たちが死ぬかもしれないけど」
首をゴキリと鳴らして首を斬った石野を睨んだ
「まず、お前だよ。 死んでないけど痛かったし、同じことしようっと」
魔人は先ほどよりもはるかに速く動き、石野の後ろに回り込んだ
「ふん!」
石野の剣が魔人をかすめる
「げ、ダメじゃんこれ。 僕の動きに対応してんじゃん」
ケタケタと笑い、腕を伸ばして岸田を掴んだ
「な!」
「つーかまーえたー♪ ていっ」
岸田の二の腕から肉を千切り取る
「あぐっ!」
血が吹き出る腕を抑える岸田
「なんだよー、もっと色気ある悲鳴上げないと面白くないじゃん」
今度は指を千切り取った
「がぁ!」
痛みをこらえ、岸田は逆に魔人を掴んだ
「何すんだこの変体野郎!」
魔人の腕をひねって投げ飛ばし、地面に頭からたたきつけた
「ぶべっ」
魔人は頭をつぶされ、倒れる
「ぬ、ぐ」
岸田の傷口がグニグニと動き、再生した
「ふー、再生するけど痛いんすよねこれ」
岸田の能力の一つ、再生だった
魔人の方も頭の再生が始まっている
「キリがない!」
「石野さん! ヤコを呼んでください!」
「ヤコを? 何か考えがあるようだな」
レコに言われた通りにヤコを召喚すると、すぐに動いた
「レコ、皆さんを連れて離れてくださいですわ!」
再生している魔人にヤコが近寄ると、その手に光る玉を召喚した
「全てを照らしなさい。 太陽召喚!」
激しく輝く光の玉は周囲をじりじりと焦がしていき、魔人を炭化させ、チリへと変えた
「ふー、この技は巻き込むことがありますから危険なんですの。 あまり使いたくない技ですのよ」
完全にチリになった魔人は復活しないようだ
「不死と言っても細胞全てが壊れれば復活できないようですね」
無事魔人を倒したはいいが、なぜここに魔人がいたのかが分かっていない
それに、闇化した魔物、魔人がまだまだいる可能性もあった