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スライムの世界から抜け出し、転移したのは、まともな、人間族や亜人が暮らす文明ある世界だった
人々は幸せそうに笑っており、平和な世界に見える
「やっとまともな世界に来れたようですね」
「うん、邪悪そうな気配もないし、少し落ち着けそうだね」
辺りを見渡しても誰もこちらを気にしていない。 それほどになじんでいると思った
しかし、よく観察するとそうではない彼らはコミュニケーションを一切取っていないのだ
会話も、ジェスチャーも、アイコンタクトですら取っていない
「なんだか不思議な光景だぜな。 ここの住人はどうやってコミュニケーションを取ってるんだぜな?」
(君たち、ハーツを持っていないのかい?)
突如頭の中に声が響いた
「な、誰ですか?」
(ああ、やっぱりか、すぐそこの店でハーツを配布してるからそれを付けるといいよ)
「あ、ありがとうございます」
「心で会話してるってことだぜな? テレパシー? いや、そういう装置を使ってるってことぜな」
教えられたとおりに店で配られていたハーツという装置をこめかみに張り付けた
すると、目にビジョンが映し出される
“ハーツVer3.2 起動”
“テレパスシステム 起動… オールグリーン”
“情報共有システム 起動… オールグリーン”
目に映し出される情報の数々にルーナは思わずチップをはぎ取った
それによってか突如サイレンが鳴り始めた
(な!? 君! チップをはがしたのか!? なんてことを…)
心の中で話しかけてきたと思われる男性が座り込んでいたルーナに駆け寄って立ち上がらせると手を引いた
「君たちも一緒に来なさい!」
男性は脳内ではなく直接声を上げた
「言われた通りにしよう。 なんだか信用できそうな人だし」
彼について急いでその場を離れる
「いやぁ危ないところだったねぇ。 君たちさ、実はこの世界の住人じゃないでしょ?」
彼はひょうひょうとそう告げた
「なぜ、分かるのですか?」
「ハハハ、分かるよ。 だってチップのことも知らないし、一回貼ったら剥がしちゃだめってこともわかってないし。 まぁいいや、それ皆剥がしなよ。 ちょっと修正加えるからさ」
全員チップを外すと、彼は素早くそれらに手を加えて修正し、四人のこめかみのぺたぺたと貼っていった
「これで良しっと。 これさ、居場所が分かる機能があるんだけど、それを攪乱させるようプログラムを書き換えといたから」
「ありがとうございます。 あの、あなたは?」
「僕? 僕はタブだよ。 こう見えてラブレルト族なんだ」
「ラブレルト族?」
「あそっか、異世界から来たんだから知らないか。 ラブレルト族ってのはこの世界ではかなり少ない種族でね、絶滅危惧種族だから保護されてる感じかな? まぁ僕は隠してるからその対象外なんだけどね」
タブの話では今この世界では全ての人間がチップによって管理されているらしい
犯罪の抑制、戦争の鎮静などに役立ったが、それは同時に監視社会という形態も作り出した
全てが監視され、その思想や言動も事細かに分析される
危険な思想や考えを持つ者は強制的に連れていかれ、その思想を洗脳によって書き換えられる
平和が一番という一見ほのぼのとした思想にだ
「でもね、そんなの間違ってると思わない? 人それぞれが自分の思想を持ってるからこそ人間は素晴らしい、と、僕は思うんだ。 だから、僕はこの世界を壊したい」
最後の一言に緊張が走った
四人とも彼から目を離せずにジッと見つめる
「あ、いや、壊すって言ってもこの今の社会をだよ。 別に世界すべてを破壊するってことじゃなくてね?」
タブの入れてくれたコーヒーをすすりながらしばらくゆっくりとした時間を過ごした
「おや、もうこんな時間か、今日は泊まるといいよ。 布団でいいかな? 僕はソファーで寝るからね」
「あ、でも」
「ん? もしかして僕が夜中に襲うんじゃないかって思ってる? 大丈夫大丈夫、不安なら縛ってくれていいから」
「いえ、そういうわけじゃなくてですね。 迷惑じゃないですか?」
タブはキョトンとして四人を見る
「迷惑なわけないじゃない。 異世界の人を泊めれるなんて生きてるうちに一回あることが奇跡だよ。 で、だね、明日僕に異世界の話を色々聞かせて欲しいんだ。 それと、なんで君たちが一緒に世界を回ってるのか、なんてこともね」
世界を回るなど一言も彼に話していない
それなのに彼は見抜いていた
「驚くのも無理はないかな? 僕達ラブレルト族には真眼っていう物事の本質を見破る目があるんだ。 だから君たちのことも大体わかってる。 君と君が神、ってこともね」
「驚いたな。 この二人の本質を見極めるとは…」
「ま、出来る範囲でいいから話を聞かせて欲しいな。 興味があるからね」
タブはそう言うと布団を敷く
「シャワーしかないけど一応そっちの部屋にあるから、浴びるといいよ。 じゃぁ僕は寝るね」
彼はソファーに寝ころび、薄い毛布を掛けるとそのまますぐに寝息を立て始めた
「変な人、だけど悪い人じゃないみたいだね」
「そうですね。 ひとまずシャワーを浴びて寝ましょう」
四人で交代でシャワーを浴びると、敷いてくれた布団にもぐり、眠った