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転移させられてきた世界は一見発達しているが、人型の生物が全くいない世界だった
歩道を歩くモノも、車に乗るモノも、ゲル状で、スライムのような生物だった
「なんかこっちを見てませんか?」
「そりゃそうだぜな。 あっちから見れば俺様達は得体のしれない生物なんだから」
何匹かのスライムが得体のしれない言語で何事かを仲間に伝えている
「なんかまずそうだね。 とりあえず逃げよう」
スライムたちの通信を受けてか、真っ赤なスライムがこちらに向かってずるずると歩いてきていた
速度はそれほど早くないため逃げるのはたやすそうだったのだが、その赤いスライムはそのあたりにいた普青いスライムたちとひっつき、速度を増した
「なにあれ、やばいよ!」
速度を増したスライムは次から次へと引っ付きあい、少しずつ巨大化しながら速度を増し、段々と追いついてきた
「飛びます! つかまって!」
ルーナといなみは翼を広げ、二人を抱えて飛び上がった
「これで追いつけないぜな」
しかしそれも甘かった
今度は緑色のスライムと引っ付くと、翼が生え、羽ばたきながら追って来た
「そんなめちゃくちゃな! 何なんだあのでたらめな生物は!」
「と、とにかく逃げます! しっかり掴まってください!」
二人が本気で飛べば隼よりもはるかに速く飛べる
リゼラスとパリケルが呼吸できるよう、薄い空気の膜を張って翼を大きくはためかせた
ぐんぐんスライムとの距離が離れて行き、やがて見えなくなった
「ふぅ、どうやら逃げ切れたみたいだな」
かなり離れた孤島のような場所でひとまず落ち着く
この島には先ほどのようなスライムはおらず、普通の鳥や小動物くらいしか目につかなかった
「得体のしれない生物ばかりだけど、どういう基準で僕らは転移させられてるんだろう?」
「分からないぜな。 ちょっと俺様にその玉を貸してみるぜな」
パリケルがオーブを手に取ると、目がギョロギョロと動き出した
それに応じるかのようにパリケルの体から白い糸のようなものが伸び、オーブにまとわりついた
「成分分析、25%ラグノロ鉱石、1.2%キリサイト、15.12%オリハルコン、残りは神の碑石。 神力を感じる。 指針の神ベクトの力…。 どうですか? シンガ様」
「は? え? シンガ様!?」
突然のパリケルの発言にリゼラスは大きく驚いていた
消滅の神シンガ、リゼラスが相対して震えた一人だ
「そうだな、ベクトの力はその名の通り指針だ。 行くべき道を照らすのだが、この石にはその力が込められている」
「ちょ、どこから声がしてるんですか!」
何も説明しないパリケルとシンガは二人で話を始めていた
「ここここ」
パリケルが指さしたのは自分の胸元。 そこには光るオーブがあった
「これは?」
「これじゃない、俺だ。 シンガだ」
「な、え? なん、え? どうしてそんな姿に?」
「少し事情があってな。 体が吹き飛んだ。 まだ元には戻れないが、可愛い妹が俺の体を集めてくれている」
「あ、そ、そうですか」
シンガは相当なシスコンであると知り、少し怖さが薄れた
「でだ、このパリケルに俺のコアを守ってもらっている。 この世界の何よりも安全な場所だからな」
「さて、この玉返すぜな。 そろそろあのスライムがここに来る頃だぜな」
「え? でも、逃げ切れたんじゃ」
「気づいてないぜな? ここの動物、全部スライムだぜな。 恐らく監視されてたぜな。 こいつら全部感覚共有してるみたいだからな」
そう言った通り、この島の上空がかげる
「な、なんか大きくなってない?」
「なってますね」
「落ちてきそうじゃない?」
「今にも落ちてきそうですね」
「倒すしかない! 攻撃を!」
「だ、ダメですよ! 彼らはこの世界で平和に暮らしてるだけの住人なんですから、彼らは私たちが怖くて襲ってるだけです! どうにかして動きだけを止めて逃げましょう!」
ルーナがそう訴えかける最中もスライムは徐々に膨れ上がり、やがて島全体を覆うほどに大きくなった
「だめだ、落ちる!」
ルーナが手を空に掲げる
彼女の体が光り始めた
「これは、覚醒が始まったのか! 神としての!」
覚醒に必要なプロセス、それは神としての力、責任感、そして世界を思いやれる慈愛
ルーナは力を自分自身の力として扱えるようその体を作り変えていた
やがて光が消え、そこには以前と変わらぬ姿のルーナが立っていた
しかしその雰囲気は依然と比べ物にならないほどの神聖さが宿っている
「ごめんなさいスライムさん。 少し眠っててくださいね」
ルーナが睡眠の神の力を発動させると、その力は世界中へと行き渡り、この世界に住むすべての生命を眠らせた
「これが、ルーナちゃんの本来の力? 世界そのものに影響を与えてる…。」
「うむ、力の女神は全ての神の力を使える。 ・・・。 そう、神々のために、あの子は…。 頼むルーナ、あの子を」
シンガの言わんとすることはしっかりとルーナに伝わっている
小さくなった赤いスライムをそっと地面に寝かせ、光り始めたベクトのオーブを空にかざして転移した