石野の異世界放浪記9-3
魔人は今もどこかに潜み、人間を滅ぼそうと画策しているらしい
ギルドに寄せられる情報だけではその全容がつかみきれない
「情報があまりにも少ない。 人手が、足りない」
「今まではどうやって情報を集めてたんっすか? 情報屋やそういうのを生業にしてる冒険者もいるはずっす」
ギルドマスターは険しい顔をし、事情を話した
「この前の戦闘でかなりの冒険者や兵士が死んだことは話したな? あの時裏で情報を仕入れていた者たちも捕まり、処刑された。 情報を集められる者が極端に少なくなってるんだよ」
それを聞いたレコは仲間を呼び出す
「ポコ、手伝ってほしいの」
「うむ、わしらならその問題、解決できるですの」
二人は手のひらを合わせた
「魑魅魍魎、大召喚!」
二人の前に光の輪が現れ、ポコポコと魑魅魍魎たちが飛び出してきた
見た目はどれも小さくて可愛い小動物のような姿だが、一度敵に牙をむけば相手が動けなくなるまで襲う恐ろしい面をのぞかせることもある
「この子たちに任せればあっという間に情報が集まりますよ」
「これは、魔物? いや、召喚獣か。 しかしこれだけの数を召喚するなど聞いたこともないぞ」
「この子たちは魑魅魍魎と言って、低位の妖怪ですの。 すっごく可愛いですの!」
「確かに、フワフワもこもこしててかわいいっすね」
岸田がその中の一匹を持ち上げてくすぐってやると、嬉しそうにキューキューと鳴く
「さぁお前たち、魔人の情報を集めてきなさい」
「頑張るですの!」
レコとポコの掛け声とともに魑魅魍魎は一斉に外へと走っていった
「なぁ、魔物として退治されたりはしないのか?」
「大丈夫です。 あの子たちは姿を消せるので密偵としても大活躍できるのですよ」
魑魅魍魎の内の一匹がレコの肩に乗る
「この子は送られてくる情報を私たちに伝える役割を持っています」
魑魅魍魎たちが集めた情報は全てこの一匹に集約される。 それをレコに伝え、有益な情報を引き出すわけだ
すると肩に乗った一匹がプルプルと震える
「早速いい情報を掴んだみたいです」
「早いな」
一匹一匹が最高時速300キロを誇る。 仮に見つかったとしても素早く逃げれるようだ
「ふむふむ、それで、どのあたり? うん、うん、そっか、ありがとね。 わかりましたよ、魔人の居場所。 ここから東にある小国、バトランテという国の地下に潜んでいるようです」
「ふむ、あそこは鎖国された島国だったな。 ギルドもあるにはあるが、冒険者がほとんどいない閉ざされた国だ。 なるほど、隠れ蓑にはいい場所だな」
「俺たちで行ってみよう。 どのような状況か確認し、出来るようなら魔人を討伐しよう」
「ああ、頼む」
バトランテに乗り込むのは石野と岸田、そしてニャコ。 ニャコは音もたてず歩くことができるのでこの偵察に適していると判断した結果だ
「じゃ、行ってくるっすよ」
ギルドマスターに手を振ってバトランテへと向かう準備を始めた
鎖国されてはいるものの、冒険者や旅行者はおり、貿易が行われていないだけだった
それは、外からの文化をあまり入れたくないからであり、冒険者や旅行者には現地民とあまり接触しないよう厳しく目が光っている
ギルドがあるが、それは当時ギルドを設立した者に多大なる恩があるからだった
ただ、この国には15歳になれば外の世界を見るために旅に出ていいという風習がある
それは、見聞を広める以外に、いかにこの国の方が良いかを知らしめるためでもある
その結果、この国から旅に出る若者は数多いが、そのほとんどが国に帰ってくる
それがそのままこの国の幸福度を示していた
外の世界よりも、この国の方が安全で幸せだと感じるのだ
「なんともまるで昔の日本のような国っすね。 いや、若者を旅立たせてるって点では違うっすけど」
大きな旅船に乗り込み、波に揺られながらバトランテについて調べていた一行
旅行者として入り込むつもりだが、常に監視がつくらしい
「ニャコ、着いたら頼むぞ」
「はいにゃ! 任せるにゃ! おいらの妖術にかかれば夕飯前にゃ!」
ニャコが選ばれた理由にはもう一つある
彼女の妖術の一つ、それが幽体離脱だった
自らの魂の分体を飛ばして偵察するのだ。 レコとポコの魑魅魍魎ではどうしても強者相手になると見つかる可能性があるが、ニャコのこの能力は霊感があろうと全く見つかることのない特殊なものだった
「そろそろ着くぞ。 準備はいいか?」
「はいにゃ!」
ニャコが妖力を込める
「妖術! 九重尾魂!」
ニャコが妖術を放つと、その体から八つのニャコの魂が抜け出てきた
「にゃふふふふ、おいらの分体たちよ! 素早く情報収集してくるのにゃ!」
「「「にゃああああ!!」」」
八体の分体は一斉に声を上げて消えた
「にゃふふ、どうかにゃ? おいらの分体たちは可愛いのにゃ?」
「あ、ああ。 だが幽体離脱しているのになぜおまえは普通に立ってるんだ?」
「にゃふふ、猫には九つの魂があると聞いたことはないかにゃ? 特においらは年経て強くなっていった妖猫にゃ。 妖猫は年をとればとるほど尻尾と魂が増えるのにゃ。 900年生きるおいらともなればそれだけ魂も多いのにゃ」
ニャコはどうだとばかりに胸を張って石野に頭を撫でろと催促していた
「さて、おいらの分体が戻るまで観光でもするのにゃ。 おいらあそこの魚料理が食べたいのにゃ」
石野はニャコの頑張りの褒美として魚料理をふるまった
それから数時間後、分体がすべて戻り、ニャコの体へと戻って行き、全ての情報を脳内で統合して魔人の位置を正確に割り出した
「この街の地下、あそこの城みたいな建物から入って地下道に入るのにゃ。 入口はそこしかないにゃ」
ニャコが指示したのはまさしくこの国の城だった。 当然警備の兵も相当に多い
「これは、骨が折れそうっすね」
「問題を起こすわけにはいかん。 ニャコ、抜け道はあるか?」
「そう言うと思って調べておいたのにゃ。 おいらに感謝してなでなでしてほしいのにゃ」
石野が再び頭を撫でてやり、やる気満々になったニャコは城内に入るための抜け道へと案内した