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多くの人が行きかう王都コスタベルカは様々な種族が入り乱れている
そのためか、ルーナが歩いていてもあまり気にはされていない
しかし、やはり目は引くので翼を穴の開けたリュックで隠し、角はローブを深くかぶることで隠した
手には分厚いグローブ、足にはブーツ、体もローブでおおわれているのでこれで彼女の姿がわかることはない
ただ、温暖な気候のためルーナは少し熱がっていたが、どうやら自身で体を覆うように冷たい空気を纏えるようだ
本人もできたことに驚いているが、ミシュハたちに教わった魔法が役に立ち少しうれしそうだ
ひとまず獣魔王は動いていないので、トロン以外の四人の実力を見ることにした
元賢者とまで呼ばれていたトロンは当然強いので不参加
アルはこの国の魔導兵士なのだが、今まで下っ端だったので大した実力を見せることなくここまで来ている
そのため上司であるレノスが君の実力を見てみたいと言ったのだ
トロンの一番弟子といったこともあって興味を持ったのだろう
彼らは自分がどの程度戦えるのかを見るため、最近増え始めた魔獣や魔物を狩ることにした
獣魔王が復活したためか、街道に多くの魔物たちが出現し始めたためちょうどいい
一応冒険者や魔導士たちが狩ってはいるのだが、それでも一週間ごとに出てくる群れに手を焼いていた
街道に着くとさっそく襲ってきたのはグレムリンの群れ
弱いが、かなりの数で襲ってくるため厄介な相手だ
「まずは僕が行きます!」
やる気満々といった感じでアルが剣を抜きながら前に出た
一斉に襲い掛かるグレムリン
アルは一瞬ゆらりと揺れたかと思うとあっという間にグレムリンの群れの中に飛び込んで行ってしまった
そこからは一方的な戦いだった
剣に炎を纏わせ、身体能力を強化し、恐るべき速さで斬りつけていく
斬りながらとびかかってくるグレムリンを炎で撃ち落とし、その手で雷を後衛に構えたグレムリンに放って倒した
そして10分後、そこには山高く積みあがったグレムリンの死体があった
下級レベルの魔物とはいえ、これほどの数をこの短時間で倒し切ったことにレノスは感嘆の声をあげた
「さすが先生の一番弟子です!」
「まぁ、私にはまだまだ及びませんがね」
恐らく褒めているのだろうことは分かった
そのまま街道を進むと次に出てきたのはオークの群れだ
強力な打撃を加えてくるが動きは遅く、冷静に対応できれば大した相手ではない
「じゃぁ次は私ね」
「クルトスさんに教わった剣技、見せてあげる!」
背中に背負った大剣を抜き放ち、もう一方の手に大楯を構えた
その後ろで見守るトロンたちには盾の恩恵が与えられ、防御力は飛躍的に上昇した
試しにトロンがオークの攻撃を受けてみると、体には傷一つつかない
並大抵の攻撃なら無効化するようだ
大剣を腰下に降ろし、構える
そこから一閃
「一刀煌閃!」
どこまでも伸びる大剣は横に流れ、オークの群れをただ一撃で両断した
さすがは勇者というべきか、30頭ともなると討伐団が結成されるほどの数のオークを一撃で屠ってしまった
「どう?」
パリケル、トロン、アル、ルーナがパチパチと手を叩く
レノスは目を輝かせていた
「素晴らしいですよ勇者様!」
勇者桃の手を握ってぶんぶんふる
柔らかい手はほのかに温かく、心地いい
「次は俺様だぜな」
パリケルが背中に背負っていた機械を下ろすと、その機械が変形した
普段はリュックとしても使える優れもの、パリケルちゃん2号(以下2号)だそうだ
1号はもちろん自分である
カチャカチャと体を揺らしながら立ち上がる
ピーーーッと起動音が鳴ると、それにつられて魔物が現れた
ウォードッグという危険な魔獣だ
ウォードッグは牙を剥き出し襲い掛かる
鋭い爪が2号の体に食い込んだ
しかしその爪は2号の服を少し切り裂いただけで特殊合金製の体には傷一つついていない
むしろウォードッグの爪を砕いてしまった
「2号ちゃん!ロックバレル!」
ガチャリと腕を変形させる
その腕には大きなバルカン砲が現れた
2号はウォードッグに狙いを定めると、怒涛の銃撃を見舞った
あっという間にハチの巣になり、ウォードッグは息絶えた
「どんなもんよ、俺様の科学力は世界一だぜな!」
エッヘンとない胸を張る
レノスはそのしぐさにキュンとなったが心の奥に押しとどめ、冷静を装った
しかしその手はパリケルの頭を撫でまくっており、パリケルが痛がっている
「さ、最後は私、です」
ルーナの番になった
記憶を引き出したことで自分の力の使い方を思い出している
暴走しない限りは問題なさそうだ
すると、道沿いの森の中からガサガサと何かが這う音がした
そこからカメレオンのような不気味で大きな顔がのぞく
「まずい!あれは亜竜種のメレオリザードだ!」
「なぜこんなところに!」
メレオリザード、カメレオンに似た亜竜種で、強力な胃酸を吐き出し獲物を溶かす
また、姿を周囲に溶け込ますこともでき、気づいたら溶かされてしまう冒険者も多い
ほの暗い森の奥に住むのだが、こんな街道まで出てくるのは珍しい
トロンは今のアルやルーナ達ではかなわないと判断し、逃げる準備を整え走り出した
しかし、ルーナは動かない
恐怖で足がすくんだ?と思ったが、その小さな体はしっかりとしており、自らメレオリザードと対峙している
ルーナは分かっていた
自分よりはるかに格下の魔物だと
翼を広げ、尻尾を振った
それは一瞬の出来事だった
誰もその動きをとらえることはできず、わずかな残像が残るほどの速さで打ち抜かれ、メレオリザードはただの肉塊へとなり果てた
遅れてくるパァンという破裂音と共に
予想以上のルーナの強さに一同は息をのんだ
そしてパリケルは思った
もう全部あの子一人でいいんじゃないかな?
と…
やっとルーナの強さを示せた気がします