闇の思惑1
さかのぼること数千年前、上位の神々による大戦争が起こった
それにより神の約半数が消滅した
人間の勇者と恋に落ちたエイシャをよく思わなかったラシュアがその勇者を消し去ったことが発端だ
しかしラシュアはなぜ自分がそのような暴挙に出たのか自分でも分からなかった
確かに二人の交際をよくは思っていなかったが、その勇者の人柄、人間性は好感が持てたし、何より末妹であるエイシャを傷つけるような行為は決してしないはずだった
それなのに、自分は勇者を消滅させた
「なぜだ。 あの時の記憶があいまいで思い出せない。 なぜ私はエイシャを傷つけた」
いまだに悩むときがある。 あの時勇者を消していなければ今でもエイシャは自分を慕っていただろう
できれば過去を変えたかった。 あの時の自分を止めたかった
「だが、神であろうと過去を変えることはできない。 時の大神クロノ様もそうおっしゃっている。 この事態は起こるべくして起こったのだろう」
だがラシュア含めすべての神々が気づいていないことがある
勇者を消したときのラシュアは正気ではなかった
彼自身も怒りで我を忘れただけだと思っていたがそうではない
「勇者を愛した? ダメだエイシャ。 人と神は恋をしてはならない。 それは大神様がお決めになったことだ」
「で、でも兄様、アストはとてもやさしいし、それに…」
「くどい! たとえどのようなものであろうと許されることではない!」
エイシャはその時初めてラシュアが怒るのを見た
今まで一度も怒ったことのない兄がその勇者に対してこれほどまでに怒っている
何かおかしいと感じたが、それほどの禁忌だとエイシャ以外の神々もそう理解した
そして悲劇は起きた
ラシュアは単独でその勇者を二度と転生することもないよう魂ごと消滅させてしまったのだ
当然エイシャは嘆き、悲しみ、自分についてくれた神々と共にラシュアの元を離れ、戦争を起こした
「うまくいったじゃん。 これで神々も終わりじゃんか」
「いいね~。 最高だね~。 嘗めた真似してたんだから当然のむくいってやつ?」
二つの黒い影が戦争の様子を観察している
封印を逃れていた闇だった
「あとは勝手に共倒れになってくれれば御の字じゃん。 てか、マクロもアシキも封印されてるじゃん。 ま、あいつらならどうにかするだろうけど」
「うんうん、あたちらはあたちらで動けばいいってね」
二人はさらに戦場をかき乱すべく、影から傷を負った神々を殺していった
誰にもばれないよう、細心の注意をはらい、傷つき弱った神を片っ端から
「アハハ、お互い犠牲が出ればあいつらの確執もどんどん深くなるじゃんよ」
「さすがだねペイオ。 あたちじゃ考えもつかないよ」
「いやいや、マオンがいるからここまで大それたことができるんじゃん」
ペイオという名の少年とマオンという名の少女
二人がかき回したことにより、仲違いした神々は埋められることのない溝を深く刻んだ
神々はこの戦いでお互いに傷つけはしても殺し合ってはいなかった
それでも彼らは自分たちが殺し合いをしていたと思い込んでいる
それがマオンの能力、改悪だった
何もかもを捻じ曲げて認識させられた神々は、お互いを深く憎しみ合う結果となってしまった
短いけど、必要なので