石野の異世界放浪記9-2
「この槍…。 まさか君たちたった二人で魔人ベクスを倒したというのか!?」
「二人じゃないっすけどね」
石野の後ろからレコがひょっこり顔を出す
「その、子も? 信じられん、夢を見ているようだ」
ギルドらしき建物に入った石野は槍を職員に見せ、ギルドマスターらしき男に呼ばれた
槍を見たマスターは自分の見ているものが信じられないと言った驚愕の表情で二人を見ている
「あの魔人がこちらに向かっていると聞いた時は生きた心地がしなかった。 奴は既に二つの国を滅ぼしている。 君たちのおかげでこの国は救われたよ」
ギルドでは強力な冒険者を募っていたところだが、強者はすでに先の魔人との戦いで死ぬか再起不能になっていたのだそうだ
二人はギルドに好待遇で迎えられ、礼金としてこの世界で家10軒は買えるほどの金銭を渡された
「君たちに手伝ってもらいたいことがあるんだ」
礼金を渡したマスターはそのまま二人に依頼をすることにした
「魔人は奴一人ではない。 魔神という王に仕える魔人があと5人は確認されているんだ。 それぞれが国を簡単に滅ぼせるほどの力を持っている。 しかしこちらには対抗できる者が3人ほどしかいないんだ」
魔人に対抗できるとは言うものの、それは三人でようやく魔人一体と均衡できるという程度だ
岸田のように一人で倒すことなど到底不可能な話しだった
というのも、岸田の能力の一つ、認識阻害によって認識をずらされた魔人、彼はその程度で首をはねられることなどないほどの強者だった。 剣が皮膚に通らないほど硬質化しているからである
しかし、岸田は別の能力でカバーしていた
それが細分化だ
剣が当たる瞬間にまとった細分化の力で、剣が触れた部分から分解
斬り飛ばしたのではなく、首の繋がっている部分を消失させたのだった
「俺たちで力になれるのならば力になろう。 それと、一つ聞きたいことがあるのだが、ここに異世界から来た者がいないか?」
「あ、ああ。ヨリヤ・マクガイアのことか。 彼なら魔人との戦いで右腕を奪われ今は療養中だ。 合いたいなら宿を教えよう」
教えられた宿へやってくる二人。 後ろにはレコもついてきている
「あの、ヨリヤさんに会いたいんだけど」
宿の主人に部屋へ案内してもらうと、中には右腕に義手をはめた少年が座っていた
「やぁ、君たちは…。 新しい冒険者?」
落ち込んでいるのか、笑顔に元気がないようだ
「どもっす。 俺は岸田真子、こっちは石野さんっす」
「その名前…。 もしかして君たち、日本人かい?」
二人の名前を聞いてヨリヤは目を輝かせている
「そうっす! あなたはどこっすか?」
「僕はロシアだよ。 以前は両親とよく日本に旅行に行ってたんだ。 いいよね、平和で」
彼の家族は大の親日家だそうで、彼自身日本のアニメのファンなのだそうだ
「できれば、帰りたいけど、そうもいかないよね。 この世界に来たばかりの時、この世界の人達は優しくしてくれた。 僕はこの世界を救わなきゃいけないって思ってるんだ」
ヨリヤは自分の右腕を見る
「でも、こんな身体じゃもう…」
悔しそうな表情で失った右腕をギュッと掴む
「確かに、俺たちじゃ君の腕を元に戻すことはできない。 しかし協力することはできる。 俺たちに手伝わせてくれないか?」
ヨリヤには彼らが救い手に見えた
「よろしく、お願いします…。 どうか、僕の分まで!」
悔しいだろうことは見て取れた
ヨリヤの代わりに戦うことを二人は決める
その時ヨリヤの体が光った
「なんだい、これは?」
「石野さんの能力っす。 心が通じ合った能力者を呼び出せるらしいっすよ」
「呼び出せる? 召喚するってこと? 僕を?」
「そうっす! あ、そうだ。 別の世界に行って君の腕を直せる能力者を見つけたら石野さんに呼んでもらって直してもらうっすよ! それに、俺たちには送還能力を持つ仲間がいるっすから地球へ返すこともできるっす!」
「本当かい!? それなら、この世界が平和になったら、右腕を直してもらって送り返してもらおうかな?」
「分かった。 その時は呼ぶと誓おう」
石野とヨリヤは固く握手を交わした
「ヨリヤさんの力は光線ですね。 剣や腕から光を照射できるみたいです。 その光も様々で、レーザーのようなものから目くらましまで使えるようです」
レコの目によってヨリヤの能力も判明した
それから石野と岸田は魔人との戦いのため、この世界のギルドに身を置くこととなった