石野の異世界放浪記8‐2
ラレインまでもうすぐと言うとき、凄まじい轟音と共に周囲の木々がなぎ倒され、石野とレコたちは危うく吹き飛ばされそうになった
「うお、一体何なんだ?」
レコが険しい顔をしながらその爆発のあった方向を見る
「これは、神力…。 もしかして神様が!?」
レコが走り出したので石野たちも慌てて着いて行く
「落ち着けレコ。 一体何が起こったんだ?」
「神様が力を行使したみたいです! 何やら邪悪そうな気配が消し飛びました!」
「それは、闇なのか?」
「いえ、多分違います」
爆発のあった高原。 そこは一面焼け野原で、何かの残骸が多数転がっていた
その中心部にいたのは…。
「ルー、ナ…?」
石野が見たのは、ひどい顔でたたずむルーナの姿だった
すぐに駆け付けて抱きしめる。 しかしルーナは何の反応も示さなかった
(私が、皆に裏切られる? でも、私は…。 私は一体何なの? あの姿…。 どうして?)
疑問が尽きない。 石野がゆすっても、心の中でサニーが呼びかけても、ルーナは動かなかった
「どうしたんだルーナ?」
その時ルーナが動き出した。 顔つきが変わっている
「誰よあんた。 気安くお姉ちゃんに触らないでよ!」
どうやらサニーにシフトしたようだ
「ルーナ? いや…。 君は誰なんだい?」
「あたしはサニー。 ルーナお姉ちゃんの妹よ。 あんたこそ誰よ」
「俺は…。」
そこにリゼラス、いなみ、パリケル、岸田、それに続いてエルフの女王シアと人間の王クロドが兵たちと共にかけてきた
「やりましたね御使い様!」
シアは手放しで喜んでいる。 クロド王もだ
しかし、サニーは笑わない
「うるさいわね! 何なのよもう! あのくらいどうってことないの! それより、今は…。」
「ルーナはどうしたぜな?」
「今、心を閉ざしちゃってる…。」
「何があったの?」
ひとまずサニーはリゼラス、パリケル、いなみ、岸田に触れ、転移しようとする
「待ってくれ! 俺も!」
石野は慌てて掴まり、共に転移した
「あんた本当に誰よ! 放して!」
拳をみぞおちに撃つが、それを素手で受け止める石野
「俺だ! 石野だ!」
「え? マジっすか? ホントに、石野さんすか?」
声をあげたのは岸田だった
「俺っす! 岸田です!」
「は? 嘘、だろ? だって性別が…。」
「それを言ったら石野さんだって若返ってるじゃないすか」
再開した二人だったが、今はルーナのことが心配だ。 喜びあうのは後にしてサニーに状況を聞く
「だめ、お姉ちゃん、反応してくれないの」
泣きそうな顔のサニー。 本当にルーナのことを心配し、心を裂いているようだ
「ルーナ、いるんだろう? 一体何があったんだ? せっかく再開できたというのに…。 俺は」
(この、声…。 石野おじさん? なんで、こんなところに…)
声はルーナに届いていた
(でも、おじさんに話したって…。 私は一体ナニモノなの?)
「あ、お姉ちゃん、出てきてくれるって」
サニーからルーナへとシフトした。 出てきたルーナは、泣いている
「どうしたんだ。 さぁ、こっちにおいで」
石野は家族だったあの時のように、不安そうなルーナを抱き寄せて優しく頭に手を乗せた
「私は、私は一体、なんなんですか?」
ルーナは先ほどの魔王との念話について話した
「あの魔王が、ルーナちゃんの未来? どういうことなの?」
「いずれ来る未来、そう言ったのか」
「なるほど、わかったぜな。 そういうことかぜな」
一人だけ理解できたようなパリケルに一斉に目が向いた
「この先、ルーナが旅を続け、どこかに問題が生じるぜな。 それは、恐らくルーナを世界の敵とみなす重要な出来事。 俺様達も敵になるべくしてなるような出来事が…。 今までのことから考えるに、ルーナには十中八九神の力が宿っているはずだぜな。 それはルーナ、君自身も気づいているはずぜな」
コクリとうなずく
「何故ルーナに神の力が宿っているのか、それは分からないけど、何者かがルーナとサニーの体を乗っ取ろうとした。 その際サニーが力を吸い取ってしまった。 それを助けようとしてルーナがその力の半分を請け負った。 多分だけど、そういうことなんだと思うぜな」
パリケルはアカシックレコードの力を知らず知らずのうちに使い、正解を導き出していく
「いつか、その力が暴走、もしくは、ルーナ自身がその何者かに乗っ取られる可能性があるってことじゃないかぜな?」
一同は黙り込む。 ルーナだけがそれを聞いて震えていた
「私、こんな力、いらないのに…。 サニーと、静かに暮らしたいだけなのに…。」
その震えを抑えるかのように石野が優しく抱きしめる
「俺が、そんなことはさせない」
「そうだぜな! みんないるぜな! 誰一人、ルーナの敵にはならない! 未来なんて決まってないぜな!」
ここにいる誰もがルーナのことを思い、決意する
いずれ来たる未来を変えるために、一同は同じ気持ちになった
「とにかく、会えてよかった。 どうだルーナ。 俺と一緒に来る気はないか?」
涙をぬぐい、微笑むルーナ
「すいません、石野おじさん。 私は、私の生まれた世界に、戻ります。 そこには本当のお父さんとお母さんが、眠ってますから」
「そう、か…」
寂しそうな顔になる石野
「大丈夫っすよ石野さん! 俺が石野さんについていくっす! 一緒に地球から飛ばされた人々を救うっすよ!」
こうして、ルーナ達は故郷へ、石野は地球人探しの旅へと戻ることとなった