4-17
ラレインに着くと、すでに人々は大混乱を起こしていた
大量の魔族の軍が侵攻してきている。 混乱するのも無理もない
「たくさんの邪悪そうな気配…。」
ルーナは肌で魔族たちの気配を感じ取ってその方向へと目を向けた
エルフの援軍、それに多種族同盟からの援軍が到着し、人間の軍と合流する
「シア様、援軍ありがとうございます!」
人間の王クロド・ラレインがシア王女の前へと膝ま付いた
長く続いているエルフの国、その女王ともなれば他国からも敬愛されている
「クロド様、魔族軍はどこまで侵攻しているのでしょう?」
すぐにでも戦闘へ向かうことのできる準備をしながら魔族の侵攻距離を確認する
「ここより西のガベリオン荒野、すでに隣国ガルドラの国境を超えております」
地図を広げ、その場所の確認をするクロドとシア。 その横ではルーナ達も控えている
「思ってたより速いですね。 このままでは1時間後にはぶつかることになります」
「はい、現在先兵を送っているのですが、恐らくそんなにはもたないでしょう。 ところで、そちらの方たちは?」
「この方たちは神の御使い様です。 我々を救ってくださるため降臨なされたようです」
「なんと! それはありがたい」
一斉に注目されて少し顔を赤くしながらも、ルーナは力強くうなずいた
探知したところ、魔族軍からは闇の気配などはしない。 しかし、どこか懐かしいような気配、それだけではなく、今現在も感じ続けているような魔力を感じた
「準備は整っています。 すぐに出立すればこのデオ高原で当たるはずです。 ここならば街への被害も出ないでしょう」
「はい、それでは全兵へと伝えます。 私達人間軍は先頭を、シア様は後方から支援をお願いいたします」
「えぇ、気を付けてくださいね」
「あの、私たちは?」
「御使い様はわたくしたちの後ろからついてきてください」
どうやらシアはルーナたちを傷つけないようにすぐにでも逃げ出せる最後方へと配置したいようだ
しかし、すでにルーナにはわかっている。 魔族軍など自分たちにとって取るに足らない有象無象だということがだ
ひとまず最後方から着いて行くことを了承し、戦場となるデオ高原に到着してすぐに力を発揮つもりだ
それから数分後、準備の整った連合軍はデオ高原へと出陣した
「魔族、か…。 闇とは関係なさそうだけど…」
いなみがルーナの方を見ると、ルーナは複雑な顔をしていた
「どうしたのルーナちゃん?」
「あ、いえ、何でもないです」
ルーナは魔族の懐かしい気配について考えていた。 どうしてこんなにもこの世界の魔族に親近感がわくのか、自分と関係あるのか、そして、なぜ、魔族の中から自分と同じ気配がするのか
デオ高原へと到着すると、小さな川を挟んだ向こう岸に魔族の軍が見えた
そしてルーナははっきりと確認した。 その魔族の軍を率いている男、魔王、その者の気配を
その気配は明らかに自分のものだった
「どういう、こと、なの?」
「ふ、やはり、か…。」
魔王はルーナの目をしっかりと見据えながら心に直接語り掛けてきた
「あなたは、一体」
「そうか、この時だったか。 お前がここに来るのは…。 長いようで短かったな」
「何を言って…。」
「気づかないのか? お前は私だよ」
ルーナは驚いた
鼓動が早くなり、目を見開き、汗が噴き出る
「あなたが、私?」
「そうだ。 私は、未来のお前。 お前はいずれ全てから裏切られ、魔族の祖となる運命にあるんだよ。 そして、魔王として転生し続け、今ここに立つことになるんだ」
痛いほどに鼓動する心臓。 体も震え始める
「みんなが、裏切る? そんなこと、あるはずない」
「あるんだよ。 もはや私の記憶も! 力も! 薄れ始めてはいるが、お前は、私であることに間違いはない」
「何馬鹿なこと言ってんのよ!」
そこにサニーの意識が介入した
「私がお姉ちゃんのこと裏切るわけないじゃない! あんた一体だれなのよ! お姉ちゃんの気配を纏ってどういうつもりなの!? 私達を惑わせようってわけ!?」
怒りを隠さず魔王へと怒鳴り散らす。 しかし魔王はそんなことを意に介すこともない
「いずれ分かる。 今回は私の負けだが、私は何度も魔王としてこの世界に蘇る。 そしていずれ、神々へと復習を! この憎悪をあいつらに!」
ルーナからサニーにシフトすると、消滅の力を魔族軍に向けて放った。 それはこの高原を草木の生えない土地へと変え、ものの数秒で魔王含め魔族を消し飛ばした
あとにはただただ驚愕する同盟軍と仲間たちが残っているだけだった
「世界は、救われたのか?」
クロド王の一声で一斉に歓声が沸く
今代の魔王の消滅は、数十年の平和を意味していた