4-14
世界を渡る時、魔力のない世界で生まれた地球の人々は異世界に呼ばれるとき絶大な力を持つ
その際に体に変化をもたらす者もいる
姿が変わったり、別の種族に成ったり、性別が変わったりと色々だ
そのため岸田も性別が変わっている
「それにしてもこの顔、俺じゃないみたいだな」
顔は涼し気な切れ目に二重の美少女、髪の色は紫がかった白
胸は少し大きめで、背は以前と変わらず170㎝くらいだった
冒険者になってから一気にランクを上げ、その人気にも火がついている
「さて、次の依頼はっと」
依頼書に目を通していると、金髪に白いフルプレートメイルを着た男が近づいてくる
「やぁマコ、もう決心はついたかな?」
男は岸田の力と美貌に目をつけて常に自分のパーティに誘っている
男のパーティは彼以外すべて女性で、10人の大所帯だ
「前にも言ったっすよね? 俺にはやることがあるからあんたらのパーティには入れないって」
「でもマコ、僕は金も持ってるし、正直強い。 君を楽させてあげられると思うんだ」
彼はかなりの女好きで有名だし、金持ち自慢などもするが、悪い男ではない
フェミニストで全ての女性に優しい
パーティの女性も平等に愛し、誰かが危なくなれば身を挺してでも助けるような男だ
「だからフリオさん、俺は金に興味があるわけでも名をあげたいわけでもないんっす」
「そうか、まぁ根気強く誘うよ。 それと、もし困ったことがあればいつでも言って欲しい。 パーティに誘えないまでも必ず力になるから」
内心岸田は彼に感謝していた
クロフと別れた後、優しく色々教えてくれたのは彼だったからだ
それでも、もし彼の仲間になれば自分は自由に動けなくなる
この世界から元の世界に戻るという目的がある自分ではいずれ彼に迷惑をかけてしまうとわかっているからパーティには入れない
「それは助かるっすけど、俺には返せるものがないっすよ?」
異世界に関連する本を読み漁っているため、常に金欠だった
そのため岸田にはフリオに恩返しすることなどできない
「そんなことはいいんだよ。 僕がただ力になりたいだけだからね」
フリオは女性をいつも口説いている
しかしパーティの女性は嫉妬しない
彼は優しすぎると知っているからだ
そのやさしさに惹かれた女性たち
もし彼に仇名すものがいればみんなで守ると硬く決意をしているいわば同士
彼女らはフリオの恋人にして同じ目的を持つ仲間たちだった
そんな優しい男フリオに礼を言って岸田は一つの依頼書をはぎ取った
不思議な魔力磁場を観測、至急調査されたしと書かれている
「不思議な魔力磁場…。 またか」
この依頼を受け、調査班に加わることにした
ルーナ達は夜の墓場のような場所へ立っていた
「転移したみたいだが、墓場とは何とも不気味だな」
リゼラスは周りを見て少し怖がっているように見える
「あ、リゼラスの後ろに髪の長い女がいるぜな」
「ヒッ…。 いないじゃないか!」
パリケルにクスクスと笑われる
「もう、遊んでないでここから出るよ。 ホントに何か出てきそうだし」
いなみの言うように確かに人魂のようなものが舞い始めていた
「あっちに明かりが見えます。 恐らく街ですね。 人の気配がたくさんありますよ」
墓地から出て明かりのある方向を目指して歩く
この世界には魔力があるようで、次の転移まで数日ほどで済みそうだった
街に着くと、夜であるにもかかわらず人通りが多かった
大き目の建物も多く、発展している街だと伺え知れる
「ひとまず宿をとりたいが、この世界のお金なんて持ってないぞ」
「何かで稼ごうにも夜ですし…。 ひとまず野宿でもしましょう」
そんな声が聞こえたのか、一人の男が話しかけてきた
「お困りのようだね、美しいお嬢さんたち」
女性を数人引き連れた男に声をかけられ、四人は同時に嫌な顔を向ける
「先を急ぐので」
「ま、まぁ待ちなさい。 困ってるならこれを使いなさい」
彼は布袋を渡した
それに入っていたのは銀貨、当面は暮らせるほどの額だ
「なっ、もらえませんよ!」
突き返そうとするが
「女の子が野宿なんてだめだよ。 ちゃんと宿で寝なさい。 この辺りは盗賊も多いから危険なんだ」
強い口調で彼はお金を突き付ける
「でも」
「いいから! また会えた時にでも返してくれればいいよ」
話し方はキザで好きになれなかったが、その言葉で彼の優しさが分かる
「僕はフリオ、しがない冒険者だよ」
見ればわかるが、それでも彼に感謝しているので口には出さない
「何かあったらギルドにおいで、いつでも力になるから」
彼は引き連れていた女性たちと共に街の暗闇へと消えていった