4-13
「それにしてもあの男、なぜ王の能力が使えなかったんだ?」
「それはね、我ほどの能力になれば意思を持つからなの」
「意志を?」
「そ、我とこの子とはずっと一緒だった。 寂しい時話し相手にもなってくれた」
ヒミコの力は一人歳をとることもなく生き続け、寂しかったヒミコに答えて意志を持った
そのため奪われた時、自らの意思で能力を抑え込んだのだった
「なるほど、興味深いぜな」
パリケルも今まで意思を持った能力など見たことはない
「さて、魔力もたまったことですし、そろそろ行きましょう」
ヒーローたちに見送られながら四人は転移を終えた
ここは一体どこだ?
最初に思ったのはその一言
俺は確か警察署から家に、帰る途中だったはずなんだが
自分の状況を確認するため、まずは体を見てみた
「手がやけに小さい気が…。 それに、なんだこれは…。 胸ポケットに何か入れてたか? ん? 声もおかしいな。 風邪か?」
顔を見たいが周辺に鏡はない
と言うよりここには草以外なにもないな
仕方ない、歩くか
しばらく歩き続け、ようやく人を見つけた
しかし何かがおかしい
見つけた人はまるで昔海外にいた盗賊のような恰好だ
「あの、ちょっと聞きたいんすけど」
その盗賊のような男たちに話しかけてみた
こちらを値踏みするかのように見る男たち
「おい、マジかよ」
「ちょうどいい、金に困ってたんだ。 捕まえて売っちまうか?」
「ああ、この顔なら高く売れそうだ」
男たちはニヤニヤと笑いながらヒソヒソ話し合っている
「あ、あの、街、に、行きたいんだけど。 てかここはどこか教えてくれないすか?」
「おう、嬢ちゃん、俺たちについてくりゃいいとこに連れて行ってやるぜ」
「嬢ちゃん? 俺が女に見えてるんすか? いやまぁ確かに中性的って言われるすけど」
女の子に見られて少しムッとしたが、ここがどこなのか情報が欲しい
彼らから何か聞き出せるか?
「いいとこってのは遠慮するっすけど、街に連れてってほしいっす」
男たちに囲まれた
「自分のことを俺とか言っちゃって、可愛いとこあるじゃねぇか。 奴隷商に売る前に味見するべ」
何を言ってるんだこいつらは
俺を女と勘違いするし、奴隷商? 一体どこの国なんだここは
いやその前に何故言葉が通じるんだ? 俺、英語の成績なんて目を覆いたくなるような成績だぞ?
「ほれ、こっちに来な。 可愛がってやるから」
男の一人が俺に手を伸ばした
「ちょ、止めろって」
その手を払うと男の腕がくるくると回転しながら地面に突き刺さった
「え? う、腕、俺の腕がぁあああ!!」
激痛でのたうち回る男
ちょっと待て、なんだよこれ、俺刃物なんて持ってないぞ?
「なんだ、これ…。 どうなってるんだ?」
「くそ! おい、やっちまうぞ!」
男たちは剣やナイフを抜いてこちらに襲い掛かって来た
「ま、待てって、何かの間違いだって!」
「うるせぇ! 女だと思って優しくしてりゃぁ付け上がりやがって!」
け、拳銃、そうだ! 拳銃を…
腰を触るが何もない
そうだ、着替えたとき警察署に置いてきたんだった
くそ、これは、まずいな
二人くらいなら何とかなるが、相手は6人…
だめだ、どうあってもやられる未来しか見えない
すまない石野さん、俺はこんなところで…
やられると思ったが、男の一人が頭に何かが刺さり倒れた
弓矢?
「クソ! 冒険者かよ!」
冒険者?
矢が飛んできた方向を見ると、アーマーやローブを着た男女入り混じる5人組が立っていた
「フレイム!」
少女が叫ぶと炎が男の一人に吹きあがり、男は燃えカスとなった
「大丈夫か君!」
銀髪に整った顔立ちの男が俺の肩を掴んで守るように前に出る
盗賊のような男たちは逃げようと背中を見せて走り出した
「逃がしません!」
最初に弓矢を放った耳の長い少女が再び矢を放つ
まっすぐに飛ぶ矢は男の一人の背中に突き刺さる
「そらよッと!」
軽装備の男が素早く逃げる男に駆け寄るとその男を捕まえ首を掻き切った
「ウィンドブレイク!」
少女の魔法のようなものが男二人の頭を吹き飛ばした
「な、なにも殺さなくても…」
目の前で起きた惨劇に俺は思わず顔をそむける
「こいつらは手配書にあった盗賊だ。 今まで多くの人を殺している。 当然の報いだよ。 それにしても君、優しいんだね。 今襲われそうになった男たちのことまで心配するなんて」
「いや、俺これでも刑事だし…。 相手が犯罪者だろうとその裁きは法に委ねるのが筋っすから」
「ハハ、君面白いね。 刑事って何だい?」
そうか、それでわかった
ここは、元居た世界じゃないんだ
剣に魔法に、あの耳の長い少女…
俺は、異世界に来たのか
俺の名は岸田真、いや、今は真子と名乗るべきかな?
どういうわけか俺の性別は変わっていた
だから盗賊たちは俺を襲おうとしてたってわけか
助けてくれた5人と共に街へ向かう
彼らは冒険者という職業を生業としていて、さっきの盗賊退治もその仕事の一環だ
リーダーは銀髪の男で、名前をクロフと言うらしい
彼のおかげで俺は助かった
当面暮らせる金を貸してくれた上に、冒険者となるための指南までしてくれた
それから数ヵ月後、俺は少しは名のしれる冒険者と成れた
最初魔力や適正職を調べたのだが、魔力は通常の人の1000倍もあり、適正職はありすぎて迷うくらいだった
「すごいなマコは、もう俺たちに追いつきそうな勢いだよ」
クロフはそう言ってほめてくれた
ひとまず冒険者を続けながら元の世界へ戻る道を模索することにした
だが、戻ってどうすればいい? こんな姿じゃ誰も俺を俺だと気づいてくれないかもしれない
まぁ、今考えても仕方ないか
岸田さんの性別が変わった理由はあとで書きます