石野の異世界放浪記7‐3
あれ以来警戒が厳しくなったのか、兵があちこちで検問を行っていた
「ハハ、このままじゃ俺は外に出ることもできんな」
「笑い事じゃないよ! これから革命を起こすってのにこれじゃああたしらも捕まっちまうじゃないか!」
石野を叱るマルア
「まぁ、考えがある。 任せておいてくれ」
そこに石野が放っていたニャコが戻ってくる
「石野さーん、いいことが分かったですにゃ。 あのギルとかいうやつは王宮にいるらしいにゃ。 でももうすぐ街に出て来るにゃ。 どうやら隣国を攻める計画があるみたいで、これから大規模な戦争が起こるかもしれないにゃ」
「戦争が? そんな情報あたしらでも掴んでないぞ?」
「間違いないにゃ。 おいらは偵察のプロ中のプロにゃ!」
ニャコは忍のように姿、気配を消して行動できる
その力を使って王宮まで忍び込み、聞きだした情報だった
「期限はいつなんだ?」
「えーっと、1か月後だにゃ」
「早いな。 水面下で準備をしていたということなのか?」
「おいらの聞いたところによると、1年ほど前から準備していたみたいにゃ」
「く、やはり情報収集に難ありだな。 あたしたちは所詮寄せ集め、そういうことに疎くてな」
情報収集はしていたつもりだったが、素人の集まりのため偽の情報や不確かな情報に踊らされていた
「まぁおいらの情報は正しいのにゃ。 安心して戦争の混乱に乗じて革命を成せばいいのにゃ」
それを聞いてマルアは目を見開く
「そうか、なるほどな。 そうすれば革命がより起こしやすくなる」
「ただですにゃ。 ここにあの男、ギルバートが残る予定ですにゃ。 国一番の実力者、一人でも大丈夫だと王が判断したようですにゃ」
この国の王は身勝手で、自分の利益しか考えていない
その息子たちも同じで、わがまま放題であった
そんな彼らが最も信頼しているのがギルバートである
頭はさほど良くないが、一流の剣士でも勝てない能力を彼は持っているため、王は彼を自由にさせている
その代わりに国を守ってもらっているというわけだ
「あの男、馬鹿だけど確かに能力は馬鹿にできないにゃ。 おいらの偵察でもその正体がよくわからなかったにゃ」
レコならば見破れたが、近くまで行かなければ分からない
「あ、それと、石野さんを探すって息巻いてたみたいだにゃ。 家族や友人も探してるみたいだけど、つかめるはずないにゃ」
石野はこの世界の人間ではないため、当然家族も友人もいない
しいて言えば7神獣が友人であり家族だが、現在ニャコのみが活動しており、しかも彼女の姿はその能力により一切目撃されることはない
マルアに至っても彼女は隠匿が得意で、隠れることも身分を偽ることもお手の物だった
「よし、革命は一か月後だ。 準備を進める。 石野、ギルバートの相手は頼めるか?」
「ああ」
今まで集めてきた仲間、協力者に通達を送る
仲間は貧民層の者に限られているが、それでもこの国の兵より数は多い
さらに戦争のため兵たちは出払うことになる
城を守る兵だけでは対処できないだろう
そして一か月後、準備を終えた兵たちは隣国を攻めるために出立した
全ての兵が国を出るのを見届け、マルア率いる革命軍は行動を起こす
各地に仕掛けておいた火薬を同時に爆破
貴族たちの屋敷が燃える中、爆発音を聞きつけた兵たちが駆け付ける
その混乱に乗じて城へ一気に攻め込んだ
貴族たちを捕らえ、城の地下へ幽閉する
そして王の間
王や王子たちは戦争へ向かったためいないが、その玉座に男が座っていた
「やぁ、来ると思ってたよ」
革命のことをしていたような口ぶりのギルバート
「情報を掴んでいたのか」
「そうだよ。 でも王には教えない。 この国、僕がもらっちゃおうと思ってね。 まぁ僕の力があれば一人でも出来たんだけどさ、出来るだけ楽な方がいいじゃん? それに、お前だけは僕の手で直接殺したかったんだよね」
その額には血管が浮き出ている
怒りに満ちた表情だ
「では、貴方には神の鉄槌の恐ろしさを教えてあげましょう」
石野の横にいたレコが静かに怒っている
「は? クソガキ、僕にそんな口を利くなんて馬鹿なの? まぁいいや、後でいたぶって殺そう」
レコに続いて神獣たちを呼び出す
「ん? この世界でそんなことができるって、もしかしてお前」
この世界には魔法を扱える者はいない
だからこそギルバートの能力は奇跡だと思われていた
「お前、別の世界から来たってことか。 ハハハ、僕と同じってことか。 それにしても、ガキを召喚するだけの能力だなんて僕の敵じゃないね」
「そう思っていればいいのです。 石野さんが戦うまでもない相手なのですよ」
レコは神獣たち全員と共に力を溜める
「先に死にたいならいいよ。 殺してやろう」
レコを見えない刃で斬りつけようと腕を振った
「遅いである!」
エコの防御に簡単に刃は弾かれた
「な!?」
「七神獣一体! 大罪聖火!!」
ろうそくの火のように心もとなさそうな小さな火がギルバートに向かって飛んでいく
「は、ハハハ、なんだよこれ! こんなもので僕を倒そうっての? こんなもの!」
手でつかんで消そうとした
それこそろうそくの火を消すかのように、簡単に、消えると思った
だがその火は掴んだ瞬間に一気に燃え上がった
「ぐあぁあああああ!!」
すぐに体を包み込む炎
叩こうが転がろうが消えることがない
相手の魂が燃え尽きるまで消えない無慈悲な炎だった
やがて燃え尽きるギルバート
彼は元々地球の日本人だった
アメリカ人の母親と日本人の父親との間に生まれた男
しかしその性格はずっと歪んでいた
小さいころから動物をいじめるのが好きだった
小学生のころには女の子をいじめて楽しんでいた
そして高校生になってからはひそかに子供を攫って傷つけ、殺していた
連続誘拐殺人として全国にも取り上げられたが、誰もギルバートを疑う者はいなかったからだ
それもそのはずで、高校生になってからは優等生を演じ、誰の目からも怪しまれることのない人格を作っていたからだ
そんな中、この世界へ転移し、力を得たため、その残忍な正確に歯止めが利かなくなっていた
「彼はもう二度と魂が輪廻に乗ることはありません。 これほど邪悪に染まり切った魂は、もはや救う手立てがないのです」
少し悲しそうな顔をするレコ
神の生み出したヒトはレコたちにとって守る対象
それを自らの手で消滅させたのだ
「大丈夫だレコ、アマテラス様だってわかってくださるさ」
驚異のなくなったダグラス王国はもはや烏合の衆だった
結局戦争も敗戦し、王や王子たちは殺された
新しい王が誕生するまでの間、マルアが国をまとめ上げることとなる
隣国でも革命の情報は流れ、マルアは隣国と同盟を結び、戦後処理に追われた
「後処理を手伝えなくてすまないが、俺は先を急がねばならないんでな」
「いや、いいよ。 あとはあたしらの仕事だからね。 あんたのおかげでこの国は変われる。 ありがとう」
二人は固く握手を交わし、石野はこの世界を去った