石野の異世界放浪記7‐1
晴れ晴れとした空にカッと輝く太陽が気温をグングン上げていた
最早汗も出ないままに砂漠を進む石野
「もう、ダメだ…。 こんなところで、俺は」
熱射病と脱水症状によって石野は意識を失った
さかのぼること数時間前、石野は新しい世界に降り立っていた
しかしそこはどこを見ても砂ばかりの砂漠だったのだ
周辺には蜃気楼も見えないほど何もなく、仕方なくまっすぐ歩いて行くことにした
「いずれどこかには着くだろう」
そう思っていたのだが、歩けど歩けどただただ砂漠が続くだけ
人影はおろか、生物の姿が全くない死の砂漠だった
「こんなところにあの子たちを出すわけにもいかんしな」
そのまま石野はレコたちに頼らずに歩き続け、その結果倒れてしまった
石野が意識を取り戻すとそこは石造りの建物の中だった
寝ていたのはお世辞にも柔らかいとは言えない粗末なベッド
起き上がると目の前にある扉が開いて人が入って来た
「お、起きたみたいだね」
褐色の肌の健康そうな女性
右目には眼帯を当てていて、腰にはカットラスという剣を下げていた
「あんたカノーラ砂漠で倒れてたんだよ。 あたしらが通らなかったら死んでたね」
豪快の笑う女性
「すまない、助かったよ。 おれは石野正。 あなたは?」
「あたしはマルア、この義賊団のリーダーだよ」
「義賊?」
「あぁ、まぁ簡単に言えば悪い貴族から金を盗んで貧しい人々に分け与えてるやつら、かな?」
「なるほど、だがそれは犯罪じゃないのか?」
「確かにそうだが、あいつらは民を虐げておおよそ無理な課税によって今こうしている間にも人々は苦しんでるんだ。 なぁ、あんた行くとこがないならあたしらの仲間にならないか?」
石野はその提案に少し考えると答えた
確かに地球で盗みは犯罪で、この世界でもそれは同じことだ
しかし苦しむ市民を彼女らは助けている
それに自分は既に刑事ではない
人々を守る神の使い、神獣の一人だ
ならば、人々を助けることが自分の使命なのではないのだろうか
「そんなに深く考えなくてもいいと思いますよ」
レコの声がする
玉に力を込めるとレコが飛び出した
「石野さんが正しいと思ったことをすればいいのです。 あなたは神様が認めた方なのですから」
「俺が正しいと、思うこと?」
石野は心を決めて部屋を出た
「マルアさん、俺には探している人がいるんだが、その人を見つけるまでだったら手伝わせてもらいたい」
「お、いいよそれで。 正直助かる。 少し前に以前のアジトが兵に襲撃されてな。 仲間が何人か掴まって処刑された…。 あたしはあいつらの犠牲を無駄にしないためにも、貴族たちを、そして王を倒さなきゃならない。 それがいくら険しい道であったとしてもね」
それからマルアに連れられて街の様子を見た
中心には大きな城があり、そこから放射状に街が広がっている
中心に行くほど街は発展しているのだが、外周は酷いありさまで、そこかしこに飢えた人、病人がはびこり、盗みを働く子供なども見受けられた
その盗みを働く子供のうちの何人かは兵に掴まり、二度と帰ってはこないという
「子供でも容赦なく処刑されるんだよ」
その日一日を生き延びたいがためにパンを盗んだ子が次の日に首を斬られるというのが日常茶飯事となっている国
肥える者以外はこの国ダラクスから逃げ出したいと思っていたが、周りを砂漠に囲まれるダラクスからは逃げることができない
それに、国を逃げ出す者も処刑されるため、逃亡を図る者はいない
「ひどいだろ? あたしもここのスラム出身なんだ。 親から捨てられて、盗みを繰り返して、それでもやってこれたのは私たち孤児を受け入れてくれたハーゼンさんっていう神父様がいたからさ」
そのハーゼンさんはいつも貧しい人々のために身銭を切って食料を与えてくれた優しい人だったらしい
しかしマルアが12歳になったころ、彼はぬれぎぬを着せられて処刑された
その時彼女は復讐を誓ったそうだ
貴族を、ひいては王を討ち、この国を変えると
それを聞いて石野も手伝いたいと思うようになった
「すまないレコ、地球人探しは後でもいいか?」
「大丈夫です。 ワコが言うにはこの国にいるみたいですし」
どうやら地球から転送された者はいつでも見つけれそうだ
石野はマルアの元、義賊に加わり、革命を成すことにした
やがて義賊は革命軍と名を改め、大きく広がっていくこととなる