石野の異世界放浪記6‐2
集まったのはリゼラスが率いていた騎士達
現在はグリドという寡黙な男がリーダーを務めていた
「こちら私と同じ世界から来た石野さん。 すごく良い人なんですよ。 で、石野さん、こちらはルーナちゃんが本来いた世界と同じ世界から来た方たちです」
騎士たちは立ち上がり、それぞれが名乗っていく
「俺はグリド、一応この七英騎士団のリーダーを務めさせてもらっている」
グリドは丁寧に頭を下げ、いかにも騎士らしい礼儀正しさで石野と握手を交わした
「あたしはキュレス。 この騎士団の研究担当よ。 今は城で深淵の研究をしているわ」
ゴシックドレスを着た少女がスカートの端をつまんで恭しく挨拶をする
「私はオルリアですに。 キュレスちゃんのお手伝いをしてるですに」
細身の剣を下げた猫耳の少女オルリアは元気よく石野に手を振った
「他にもいるんだけど、今日はやることがあってこれないみたいなの」
残りの3人はそれぞれこの国で仕事をしているため、この集まりに参加することはできなかった
ちなみにその三人以外、最後の一人はリゼラスだ
もともと彼女はこの七英騎士のリーダーを務めていた
しかし、操られていたとはいえ自分の犯した罪を償うためにルーナと共に歩む道を選んだのだった
「石野さんはね、ルーナちゃんの養父なの。 あ、地球にいた頃のルーナちゃんのね」
「ほお、あの子の。 あの子には世話になった。 操られていた俺たちを解放してくれたんだからな」
彼ら七英を操ったのは突如現れたアストという勇者
その正体はかつて神々とたもとを別った神々の末妹、力の女神エイシャだ
自分の力を吸収してしまったルーナとサニーから力を奪い返すためにリゼラス達を使っていた
グリドは自分たちの身の上を話し終える
「俺たちはこの世界で暮らしてはいるが、いずれ元の世界に戻るつもりだ。 そのためにキュレスに転移用の装置の開発を頼んでいるんだがな」
ちらりとキュレスを見るグリド
「まだまだよ。 あのパリケルさんって人、相当な天才だったんだと思うわ。 私じゃ無理かもね」
「あれ? でもどうやってこの世界にきたんですか?」
桃の疑問にキュレスはため息交じりに答えた
「私たちの世界に技術を持ち込んだのよ。 あの凶悪な勇者がね。 でも、私はそれに触れてないからわかんないのよね」
心底疲れ切ったような顔で深く深くため息をついた
「深淵の研究はどうだ? 何かわかったのか?」
「ん? あ、それのことなんだけど、なんか正体不明の声がしたのよね。 その声が言うには、パリケルさんは選ばれた存在だから知識を得た、みたいなこと言ってたと思うわ」
深淵とはすなわちアカシックレコード
そのアカシックレコードがパリケルを知識の管理者として選んだのだ
彼女の使命は新しい知識を世界に広めること
今まさに、世界の進化が始まっているのだが、アカシックレコード以外にその情報を知る者はいない
「なるほど、パリケルさんはもしかしたら深淵から知識を得たのかもしれないな」
グリドが冷静に分析する
「それじゃぁ私じゃわかんないわよ。 深淵は私を選ばないって言ってたから」
「話が大きすぎてよくわからないんだが」
分からないことが多すぎて石野と桃はフリーズしていた
しばらく話し合い、それぞれの事情、使命を知ってお互いを称えあった
「そか、桃ちゃんはこの世界の勇者なんだな」
「はい! もしまた悪い奴が出ても私がこの盾で守って見せますよ!」
桃がこの世界の女神から与えられたのはラーニングという見ただけでスキルや魔法を覚える力と、神具の大剣と大楯
しかし、桃自身が世界を渡った時に得たと思われる能力は未だ発現しておらず、本来の桃の力はいまだ不明だ
話が盛り上がっていると、コンコンと部屋の扉が叩かれた
「遅くなってすいません」
入って来たのはアルサスという少年だった
「アル、こっちこっち」
桃が手招きする
「石野さん、この人が私の大切な人、アル君です」
誠実そうな少年で、うちから溢れ出る優しい人オーラが周囲をほんわかとさせている
「ど、どうも、僕はアルサス。 こう見えて魔導士なんですよ」
石野はアルを見て思う
(こう見えて? どう見ても魔法使いにしか見えない恰好なんだが…)
口には出さず、自己紹介をして握手した
「この子たちの紹介もしておこう」
石野が球を取り出し、神獣全員を召喚した
神獣たちはポーズを決めながら自分たちで考えたであろう口上を述べているが、あまりにも長かったため、途中で石野に遮られていた
「可愛い! 特にこのニャコちゃんがすっごく可愛い」
「は、離すにゃ。 おいらは抱っこされるの嫌いにゃよ!」
ニャコはぴょんと桃の手から逃れると、シャーとうなった
「落ち着けニャコ」
石野が顎下を撫でると、ニャコはゴロゴロと喉を鳴らして喜んだ
桃もそれに習ってニャコの喉を撫でると、それに安心したのかニャコは桃の膝上に収まった
神獣たちの自己紹介も無事終わり、石野は明日には旅立つことを告げた
「もし、また会えたら今度は酒でも酌み交わそう」
石野はグリドに相当気に入られたようで、お互い親友のような間柄となっていた
「ああ、また会おう」
「石野さん、あの時は私を信じてくれてありがとうございました。 石野さんが信じてくれたから、私は自ら命を断とうとは思いませんでした」
桃は感謝を告げる
すると桃の体が光った
「え? え? 何これ」
石野は桃に説明すると、桃は驚きながら召喚されることを了承してくれた
「通じ合ったみたいですね。 桃さん、貴方まだ能力が発現していないみたいですので、あなた自身の能力を教えておきます。 あなたの力は、先見の明。 相手の動きを予知し、どう動くのかが分かる力です」
レコにそう告げられ、桃はようやく自分の本来の力を知ることができた
「つまりその力を使いこなせるようになれば、ルーナちゃんや石野さんの力になれるってこと?」
「そうですね。 特に桃さんの力は数十秒先まで見ることができる大変希少な力です」
桃は嬉しそうにレコにお礼を言いながら撫でた
その日、石野たちは夜遅くまで話しこんだ
そして翌日、石野はまた次の世界へと旅立っていった
必ずまた会うと約束をして
やっと桃の本来の能力出せました
どこで出そうか悩んでましてね(笑)