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石野の異世界放浪記5‐3

 二人の意識が戻ったのは数時間後、やはりエコの顔には傷が残ってしまってようだ

 鼻の上に横一文字に走る深い傷跡は少女が負うには深すぎるものだった


「エコ…。」


「ハハ、こんなになってしまったである。 でも、これはこれでかっこいいのである」


 エコは笑っている

 しかし石野にはそれが強がりで笑っているものだとわかっていた


「いいんだエコ、強がらなくて。 すまない、俺がもっとしっかりしていれば」


 エコを優しく抱きしめると彼女は泣き始めた

 抱き着いて泣くのでそのまま泣かせておく


「落ち着いたのである。 みっともないところを見せてしまってすまないである」


「大丈夫ですよエコ、そのくらいの傷ならツクヨミ様が治してくださいます。 それに、異世界を回るのですから完全に傷を癒せる者もいるかもしれませんですのよ」


 ヤコが優しくエコを諭した


「よし! 行くであります!」


 エコも元気が出たみたいだ

 ニャコの案内で地球人を探すために街を出た

 そしてそれを追う黒い影

 巧みに隠れるその影に一行は気づかなかった


 街から数キロ離れると人の行き来もなくなり、寂しい道が続いた

 

「クンクン、こっちにゃ。 うんうん、こっちの方に気配がするにゃ」


 ニャコの案内で数日間歩き、小さな村が見えてきた

 村の人は優しく歓迎してくれたが、この村に地球人はいない

 一日滞在して村を出る


 そこからさらに数日歩くと今度は大きな街が見えた

 

「フンフン、ここだニャ。 おいらの鼻がここにいると告げてるニャ」


「そうか、ありがとうニャコ」


 街は活気に満ち溢れ、雪山近くの街よりも発展しているようだ

 

「あ、あちらを見てくださいまし。 パレードのようなものをやっていましてよ」


 それはまるでテーマパークのパレードのように賑やかなもので、その中心では幾人かの少年少女が手を振っていた


「キャァアア! リュウエイサマァアア!」


 街の住民である女性たちから黄色い歓声が上がり、中心にいる少年が手を振ると卒倒するものまでいる始末だ


「あの人ですニャ! あの手を振ってる黒髪の男ですニャ!」


 それは中心にいたアジア系の美少年だった

 青龍刀を背負い、中華風の格闘着を着ている

 

「よし、追うぞ」


 石野はパレードに沿って進み、彼の後を追った


 それから数時間たち、ようやくパレードも終わったようだ


「全く、一体何のパレード何だこれは」


「あら、知らないの?」


 教えてくれたのは少年の追っかけらしき女性だ

 なんでも、彼はこの街の英雄で、今日も街近くに出た巨大な竜を退治したらしい

 彼の剣さばきは素晴らしく、この国に彼に敵う者はもはやいないのだとか


「あ、見てみなさい。 リュウエイ様がこちらにいらしたわ! あ、あの! ずっとファンです! 頑張ってください!」


 彼女はリュウエイに花束を渡した


「綺麗な花だね。 ありがとう」


 ニコリと微笑む彼からは嫌味などなく、純粋に喜んでいる顔だ


「ごめんね、通してもらえるかな? ちょっと彼に用があるんだ」


 リュウエイが指さしたの石野だ


「ちょうどいい、俺も君に用があってね」


「リュウエイ、俺たちは先に宿に戻っとくぞ」


「あぁ、後で合流しよう」


 リュウエイと石野は連れ立って人気のない場所まで歩いた

 と言ってもこの街に彼がひとりになれる場所はないので、街の外まで出る羽目になってしまったのだが


「自己紹介がまだだったね。 僕はチョウ・リュウエイ。 君、僕と同じ地球の人だろ?」


「あぁ、俺は石野正」


「イシノ…。 日本人かい?」


「あぁ」


「ほー、いいねいいね。 僕は日本のアニメが大好きでね。 っと、そういう話がしたいわけじゃないよね。 ごめんごめん」


 話してみると、リュウエイは中国出身だということが分かった

 彼の話の節々に彼の優しい性格が聞いてとれる

 そして彼は自分の身の上を話してくれた


 貧しい村に生まれた彼は幼いころ両親を病で亡くし、祖父母に育てられたそうだ

 一人っ子なので兄妹はいない

 17になって祖父母もなくなり、天涯孤独となったため働きに出ようと街に出た矢先にこの世界へと飛ばされた


 この世界で彼は英雄と成れた

 特異な力、それで数多くの人を救った

 

「僕は別に英雄になりたいと思ってなかったんだけどね。 でも、この力でみんなを守れるならそれでいい」


「そう、か…。」


 石野はエコを見る

 

(俺は、なにも守れてない。 俺は、弱い)


 その時街の方で悲鳴が上がった


「何かあったみたいだ! 行こう石野さん!」


 我に返った石野はリュウエイと共に悲鳴の上がった方向へ走る

 

 街は黒い得体のしれない生物であふれかえっていた

 リュウエイの仲間たちが街の住人を守っているが、斬ろうが魔法を当てようが黒い魔物はすぐに再生していた


「い、いや、闇…。 なんでであるか…。 闇の気配何てなかったである…」


 エコはおびえていた

 少し前のことを思い出してしまったのだろう


「エコ、戻るんだ!」


 石野はエコを強制送還した

 彼女にはまだトラウマが根強く残っていると気づいたためだ


「ヤコ、やれるか?」


「わたくしは大丈夫ですわ。 この前のようにはいきません!」


 ヤコはどこから出したのか、その手に八咫烏が描かれた大刀を握る

 

「神具を持った時こそ私達神獣の真骨頂ですの!」


 神大刀八咫暗(やたのくらみ)

 ヤコの姿が黒い影と共に掻き消える

 次に姿を現したのは黒い化け物の後ろだった


暗中天落(くらなかあまおち)!」


 ヤコが八咫暗で化け物を斬りつけると、化け物はいきなり宙に浮かび、そのまま天へ天へと昇っていった


「わたくしの刀の能力は、斬りつけた相手を空へ落とすんですの! 奴はどこまでも飛んで行ってやがて宇宙空間でグシャリですの!」


 得意そうにヤコが説明している


 石野とリュウエイは二人で連携を取りながら化け物と戦っていた

 リュウエイの能力はまだ発動していないらしく、青龍刀で斬りつけて見事に化け物を倒していた

 どうやら無意識のうちに神力を込めているようだ


「くっ、何だこの化け物の数は。 きりがないよ!」


 倒しても倒しても次々と湧いてくる化け物に、次第に体力を奪われていき、やがて石野とリュウエイ、その仲間たちは街の住民たちと共に黒い化け物に囲まれてしまった

 

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