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石野の異世界放浪記5‐2

 レコはしばらくの間こちらには来れない

 少なくとも、心の傷が癒えるまでは

 それがいつまでかかるかは分からないが、あちらでは同じ神獣仲間がケアしている


「と言うわけで、わたくし様が来てあげましたわ。 それと、エコも来ていますわ」


「うむ、ミーたちに任せるである」


 出てきたのはヤコとエコだ

 石野のフォローをするようにポコから言われたらしい

 リーダーだったレコが行動不能の今、ポコが指揮をとっている


「ひとまずその貴族の元へ行く。 レコをあんな目に合わせたボスの元へな」


「どうするつもり、ですの?」


「わからん…。 殺すかもしれんな」


「人を殺めると心の闇が広がるである。 その闇はお前たち人間種が生まれたときから持つものであるからして、広がれば、あいつらと同じになってしまうのである」


 遥かな昔、闇は一度滅んだ

 その時生き残った闇が巣食ったのが人間種と呼ばれる人型をした生物たちだ

 彼らの負の感情は闇にとって居心地のいい場所だった

 そしてそこから復活し、神々と再び戦って黒族と共に封印された


「いいですか? 石野さんはもうわたくし様たちと同じ神獣の扱いなのです。 心を純粋に、清浄に保つ必要があるのです」


「神獣? 俺がか?」


「そうである。 アマテラス様に仕えるミーたちは神力を分け与えられた立派な神獣である。 石野殿にもその一端があるのである。 ミーたちと一緒なのであるぞ。 誇りに思うがいいぞ」


 石野は確かにその力の流れを自分で感じていた

 自分の体が作り替わっていく感覚、神とのつながりが強くなっていく感覚を

 人の体のようだが、すでに変化が始まっている

 まず食欲がわかなくなった

 食べ物を食べることはできるが、なぜか排泄しなくなった

 全てのエネルギーが神力へと変換されているからだ

 疲れにくくなり、長時間呼吸しなくても動けるようになった


「そうか、俺は人間じゃなくなっていっているのか」


「不満ですの?」


「いや、全く。 お前たちと同じ神獣になるならそれもいいかもな」


 段々と石野の中にあったどす黒い気持ちが収まっていく

 レコのことはもちろん大切だ

 復讐してやりたい気持ちもある

 だがその結果として闇落ちしてしまうのは本末転倒だろう


「レコは、自分のことよりも地球の転移者を探すことを優先してほしいと言っていたのである。 気持ちを汲んでやってほしいのである」


「…。 わかった。 地球から流れ着いた者を探そう」


 石野は貴族の家へ向かう方角から踵を返し、街の広場へと戻った

 そこで事件は起きた


「見つけたよ」


「ふふ、まだこの街にいたなんて、探す手間が省けたわ」


「う、ぐ、が、ゴロズ、オデ、ごいつゴロズ」


 広場に立っていたのは石野が殺したはずの三人

 ただ、様子がどう見てもおかしかった

 目は怪しく光り、体は黒く染まっている

 熊の入れ墨を付けた男などは首が後ろ前逆になっている


「あ、こいつは復活するとき失敗しちゃったらしいんだ。 気にしないでよ」


「じゃ、二回戦と行きましょう」


「二回戦? 何を、言って」


 石野が言い終える前にあたりに爆発が起きた

 爆弾ではなく、通行人がはじけたのだ


「何をしているんだ!」


「花火だよ。 僕たちと君の戦いののろしさ」


 悲鳴が怒る広場、それを聞きつけて衛兵と思しき男たちが広場に集まって来た


「邪魔」


 蛇の入れ墨を持った女がフッと息を兵士たちにかける

 兵たちは骨だけを残して溶けてしまった


「あらあ、もろいのね」


 蛇の女、カサドラは骨を拾い、バリボリと食べ始める


「カサドラ、僕たちの分も残しといてよ」


「しょうがないわねぇ、少しだけなら残しておいてあげるから、その男、早く殺しちゃいなさいよ。 私はこっちの兵士たちと遊んでるから」


「わかった。 ちょっとだけ待っててよ」


 猿の入れ墨と熊の入れ墨の男、エリドとギダルがこちらに狙いを定めた


「何だあの姿は…。 蘇った? そんなことが可能なのか?」


「できないはずですわ。 だって、蘇生は神様が禁じた術ですもの。 生き死にを操っていいのは生死を司る大神様だけ…。 この術、は…。 闇!?」


 エリドの腕がエコに迫る


「ふん、まがい物の猿が! 狒々であるミーにかなうはずがないのである!」


 エコは長い尻尾を地面に打ち付けて高く飛んだ


「逃がさない!」


 エリドはあり得ない動きで方向を変え、エコの足を掴むと地面に叩きつけた


「ぐぶ!」


 エコの顔が地面にめり込み、ジワリと血がにじんでくる


「よわ! アハハハ、所詮お前らなんて僕の敵じゃないんだよ!」


「エコ!」


 石野は駆け寄ろうとするが、それをギダルに邪魔された


「グゲゲ、ゴロずぅ、げへ、げえっへ」


 首があらぬ方向についているためうまく発音できないのか、ギダルは不気味な奇声を発しながらその大きな腕でヤコを掴んだ


「ひゃっ」


 途轍もない握力でヤコは握りつぶされていく


「あ、ぐ、うぅうあ」


 ボキボキとヤコの骨が砕けていく音が聞こえてくる


「ヤコ!」


 石野は剣を抜き、ギダルの腕を叩き切った

 解放されたヤコはその場に倒れ、血を吐き出しながら苦しんでいる

 エコの方はピクリとも動かない

 そんなエコをエリドは持ち上げ、地面にまたたたき付けた

 既に意識のないエコは受け身も取れず、激しく顔面を地面に叩きつけられた

 可愛らしかった少女の顔は今や無残にはれ上がり、血が滴り、歯はかけていた

 それでもまだ辛うじて生きている

 

「今助けるぞエコ!」


 石野はヤコを抱えたまま一瞬でエリドの後ろに回り込むと背骨を踏み折った

 エコを助け出すと、ポコを呼び出し、すぐにヤコとエコを帰還させた


「おいお前ら、俺とだけ戦え。 恨みがあるのは俺だけだろう?」


「へぇ、力を得た僕たち相手に一人でやるっていうの。 雑魚が! 粋がってんじゃねぇよ!」


 エリドは背骨が折れているにもかかわらず、すぐに立ち上がって石野に向き直った

 その体は段々と変化していき、エリドの顔に猿の体がついた化け物となった

 同様にギダルの体は熊に、カサドラの下半身は蛇へと変わった


「死ねよクソガキ!」


 エリドの大きな腕が振り下ろされるが、石野は刀で受け流し、胴に一太刀を浴びせた

 その一撃には非常に濃い神力が込められている


「あ、え?」


 エリドの体が崩れ、灰になっていった


「一度ならず二度までも、お前らは俺の大切な仲間を傷つけた」


 石野の心は今凪のように穏やかだった

 怒りではなく、このような姿になってまでも憎しむことをやめない彼らに対して憐れみを抱き

 さらに二人を切り伏せた

 本の刹那の時、光の速さに近い速度で二人を斬りつけ、二度目の死を(おく)った


 エコとヤコはすぐにミコによる治療が開始され、何とか峠は去った

 エコは顔の損傷が激しく、傷が残るかもしれないとのことだ

 女の子であるエコにとってはショックなことかもしれない


「すまない、俺がもっと早く助け出せていれば…」


「石野しゃん、気を落とさないで欲しいでしゅ。 わたしゅたちはこのような事態も覚悟していたでしゅよ。 エコも、ヤコも、もちろんレコも」


「ミコ…。」


 治療を終えたミコが石野を慰める

 

 石野は、二人の傷が完全に癒えるのを待って街を出ることにした


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