闇の少女
とある世界、とある国の隔離された地下空間
そこで一人の少女が目を覚ました
少女からは黒いものが流れ出ている
まわりを見渡す少女
「復活、した?」
自分の手を見る
黒い肌、落ちていた鏡の破片を拾い上げ、自分の顔を見た
「あたし、何年封印されてたの?」
鏡に映るのはツインテールの黒髪が可愛らしい活発そうな少女の顔だ
服は何も着ていない
今いる場所は牢屋のようだったが、カギはしまっておらず、そこからすんなり出ることができた
しばらく歩くと階段が見つかる
上の方からは明かりが漏れていて、人の話し声が聞こえていた
「今の地震、なかなかすごかったな」
「まぁこの国は地震が多いからな」
少女が扉を開くと、廊下を歩く数人の兵士らしき男が見えた
「え? 女の、子?」
裸の少女を見て兵士たちは驚いた
その中の一人が着ていたローブを脱いで少女にかぶせる
「? なにこれ?」
「女の子がそんな恰好で歩いてちゃダメだろ。 それをあげるから隠しなさい。 それと、ここは危ないから入っちゃだめだよ。 どこの子だい? 城下町?」
「何言ってるの? あ、そうか」
少女はローブをくれた兵士の頭をデコピンで弾いた
兵士の頭はスイカのように弾けて彼は絶命する
「え?」
「ローブ、ありがとう、お礼に楽に殺してあげるね」
その場にいた兵士たちは数秒でただの肉塊となった
「まずは、この世界を壊しちゃおっと」
少女は闇の力を少し解放した
「あれ? 思ったより力が出ない。 まだ完全じゃないのか」
少しがっかりした感じで闇の力を周囲に放った
国一つが一瞬で消えた
小さなブラックホールを作り出した結果だった
「う~ん、ここの生物、相当弱いのね。 この程度で死んじゃうんだ」
指をはじくと、この星が消えた
さらに手を叩くと、世界が消えた
「あいつらの創った世界、ぜーんぶ壊しちゃお。 まずはみんなと合流しなきゃね。 復活してるやつもいるだろうし」
少女は他に復活したであろう仲間の気配を探って世界を渡り始めた
その過程である世界に行きつく
「そうだ、久しぶりだし、ちょっと面白いこと思いついちゃった」
少女はまずそのあたりにいたウサギを捕まえる
「この子に、これを植え付けてっと」
少女が取り出したのは闇の一かけら
植え付けられたウサギは黒く染まっていき、醜悪な姿へと変貌する
「う~ん、だめね、失敗。 人間とかでやってみてもいいかも。 でもなるべく目立たないようにしないとね。 あいつらに見つかると厄介だし。 少なくとも、力を取り戻すまでは」
少女は街に向かった
大きな街、近くには豪雪の振る雪山がある
「あ、良さそうなの見つけた。 あれに協力してもらおっと」
少女が見つけたのは一人の貴族だった
「くっ、本当に使えんやつらだ!」
貴族の男は何かに怒っている
「ねー、思い通りにいかないなら、あたしが力をあげるよ」
「何だ貴様は! どこから入った」
鋭い眼光に整った容姿の貴族の男は、どこからともなく現れた少女に警戒する
「慌てない慌てない。 あたしはあなたに思い通りになる力をあげるって言ってるの」
「思い通りになる力、だと?」
今目の前にいる少女は一目で邪悪なものだとわかった
しかし、自分の野望のためにはたとえその邪悪だろうとも利用する決意がある
「どんな、力なんだ?」
「お、聞く気になったねぇ。 この力は、人間や動物に闇の力を与えてより強力な生物へと変化させちゃうんだ。 しかもあなたの言うことをちゃんと聞いてくれるよ」
「ほぉ、ではその証拠を見せてもらおうか」
「そうだね、見てもらう方が速いかも」
少女は男を連れて生物のいる場所まで転移する
「何だこの魔法は! 見たこともない魔法を…。 お前は一体」
「いいからいいから、ほら、見てて」
目の前にいたのは鹿
それに闇の因子を植え付けた
すぐに変化が起こり、真っ黒な魔物へと変貌する
「これは、素晴らしい!」
「どう? 気に入ってくれた?」
「何と素晴らしい力なんだ。 ありがたい、これで目的が果たせる!」
少女は男を連れてまた貴族の家へ戻った
「じゃ、有効に使ってね。 それと、これで変化した生物は二度と元に戻らないから気を付けてね。 それがたとえ、人間でもね」
「あぁ、ありがとう、名前を聞いてもいいかな?」
「あたしたちに名前なんてない。 好きに呼べばいいよ」
少女は消えた
「ふふ、面白い感じになってくれればいいな」
それから数日たったころ、貴族の男は着々と黒い化け物を増やして行っていた
その中には貧民の子供も交じっている
「いい感じ。 そろそろかな?」
貴族の様子を楽しんでいた闇の少女はある気配を感じた
「…。 嘘でしょ…。 なんでこんなとこに。 まだ力も戻ってないって言うのに!」
途端に慌てだす少女
気配を完全に絶って、同行をさぐった
「まだこちらに気づいてないみたいだね。 くっ、せっかく面白くなってきたのに」
少女はしばらく敵であるその気配を観察した
「もう、あいつの組織に接触してる。 あぁもう! 使えない部下ってのは本当ね!」
その部下たちが幹部も含めて皆殺されるのを観察し、敵がいなくなったのを確認して死体のそばに来て何事かつぶやいた
「最後だからさ、君たちに面白い力をあげるよ」
死体は当然何も答えない
少女は死体を元通りの綺麗な形に戻し、宙を漂っていた魂を捕まえてその体に戻した
古くから生きる闇ならば死してすぐの者を直すことなど簡単なことだ
「これでよし、じゃ、あたしは行くね」
少女は消え、この世界を去った