石野の異世界放浪記5-1
豪雪の中で彷徨う石野とレコ
レコの狐火によって寒さはない
しかし深い雪によって足をとられ、体力が徐々に奪われていく
「ぐ、これはなかなかきついな。 今までで一番かもしれん」
「頑張ってください、向こうに明かりが見えます!」
レコが指さす方向にはうっすらと明かりが見えた
明らかに人工的な光
「レコ、人の気配はあるか?」
「そういうのはわちきよりワコかニャコに聞いてほしいわ」
「そうか、すまない。 ニャコ、頼む」
(パスするにゃ)
「パス?」
「ニャコは寒さが苦手なのよ」
「猫、だからか…。 仕方ない、ワコ、いけるか?」
「任せるですわん!」
元気よくワコが飛び出してきた
しかしその姿はもこもこの厚い毛布に覆われていた
「ワ、コ?」
「はいですわん!」
「何その恰好…」
「雪って冷たいですわん」
ワコも寒がりだったようだ
レコの狐火のおかげで何とか活動できるらしい
「人の気配ですかわん?」
「あぁ、あの光の方角なんだが」
「ありますわん。 それも数千人規模ですわん。 大きな街のようですわん」
光に向かって歩き続ける
ワコは石野の頭にのっていた
やがて光の正体が分かった
大きな石柱が幾本も立ち並び、それが光りを発していたのだ
さらに、その光の内側では雪が一切降っておらず、心地よい暖かさだった
「なんだこれは、温かいな」
「これには魔法が込められていますね。 それもかなり強力な、何百年も続くような魔法です」
「とりあえず、街の中を見て回るか」
「あっついですわん! 毛布なんてかぶってる場合じゃないですわん!」
数枚の毛布を取り去ったワコのすがたは、ノースリーブのシャツにドロワーズという下着だけというもの
幼女らしいいで立ちだった
「こらワコ! はしたないですよ!」
「う、ごめんなさいですわん。 服着てきますわん」
ワコはいったん玉に戻ると、数分後、いつも着ている巫女服に着替えて出てきた
「それにしても、街の住人が多いな。 とてもあんな豪雪地帯が隣接している街とは思えん」
「あったかくていいですわん」
街並みは中世ヨーロッパのような石造りで、馬車が走り、自転車のようなものもあるようだ
人々は幸せに満ちた顔をしている
「で、地球人の気配は分かるか?」
「う~ん…。 この街にはいないみたいですわん。 魔法の気配が多いからこの世界は魔法中心の生活をしているみたいですわん。 それに、魔物の気配もしますわん。 さっきの雪山、あそこから強大な気配がしますわん」
「ありがとうワコ、まずはこの街で休息しよう。 何か地球人の手掛かりも見つかるかもしれん」
三人はひとまず街の中を歩いた
中央にあった噴水広場にあるベンチで休憩をとり始めた
「わちき、何か情報がないか探してくるわ。 石野さんとワコはここで休んでて」
「あぁ、助かるよレコ」
レコは再び街の中へと消えた
そしてその日、レコは戻ってこなかった
「こんなに戻ってこないのはおかしいですわん! 何かあったんですわん!」
「あぁ、探そう!」
ワコはレコの神力と匂いをたどる
「あっちですわん!」
街の路地裏、そのさらに奥に真っ暗な通りが見えた
怪しい男や女が石野を睨みつけている
「本当にこんなところなのか?」
「間違いないですわん! 近いですわん!」
さらに奥に進むと、大きな扉があり、行き止まりとなっていた
「この扉の中ですわん!」
石野が扉を思いっきり蹴破ると、そこでは 男たちが数人でレコを取り囲んでいた
中央にいたレコは裸で、泣いている
「貴様ら…。 レコに何をした!」
怒り、石野は神刀を抜き放った
「何だお前は、これからいいところなんだよ。 …。 お、そっちのガキも高く売れそうだな」
「ワコ、目を閉じるんだ」
「は、はいですわん!」
石野は今喋っていた男の首を飛ばした
吹きあがる血しぶき
「な!?」
驚いた横の男を唐立割で一刀に伏す
泣いているレコを抱きしめて後ろに飛びのくと、ワコにレコを任せて石野は男たちの輪の中に一瞬で入り、刀を一閃した
男たちは抗うこともできず、その生涯を終えた
「レコ、大丈夫か?」
「あ、うぅ、石野さん、怖かったです」
泣きながら石野に飛びついた
石野はワコに毛布を取って来てもらい、それでレコを覆う
「何があったんだ?」
「それが…」
レコが言うには、街を探索していると急に口を何かで覆われて意識を失ったらしい
気が付くと真っ暗な部屋の中で男たちに囲まれ、裸に剥かれたらしい
その恐怖は尋常ではなく、失禁したのを大笑いされたらしい
悔しさと恥ずかしさと恐怖で泣きじゃくっていると、男たちはさらに興奮して笑った
そしていざ襲い掛かろうとしたところを石野が駆け付けたらしい
「じゃぁ、なにもされてはいないんだな?」
「は、はい、でも、でも、怖かったです、うぅうう」
また思い出してレコは泣いた
普段強がっているが、レコも女の子なのだ
トラウマになるほどの恐怖だっただろう
「すまないレコ、俺がついて行けばよかった」
「石野さんは、悪くないです。 私がもっと警戒していれば…。 うぅう」
泣くレコをなだめ、ワコと共に帰らせた
「さて、うちの大事な神獣を泣かせたお前ら、覚悟はできているんだろうな?」
部屋の奥、真っ暗な空間に石野は語り掛ける
「気づいていたのか。 ちぇ、油断したところを後ろから首を落としてやろうと思ってたのに」
「さっきの動き、みてたでしょう? この男、そんなことじゃ殺せないわよ」
「まぁなんにせよ、ここを見られたからには生かして返さないけどな」
そこにいたのは三人の男女
三人はゆっくりと石野の前に歩み出た
「さて、殺し合いかな? お望みなんだろう?」
「まぁ、一方的な惨殺になるかもね」
石野は何もしゃべらない
「俺たち三人を一斉に相手するんだ。 運がなかったな」
「我ら、ベルペインが幹部、僕は猿のエリド」
「私は蛇のカサドラ」
「俺は熊のギッ、がっ…」
熊の入れ墨を持った男の首が飛んだ
「え?」
次に女の体がバラバラになって崩れ落ちる
「ちょ、嘘、だ」
最後に残った猿の男も両手両足を落とされた
「ぐわぁああああ! 僕の! 僕の手足がぁああ!」
「お前らは許されないことをした」
「わ、わかった! 謝る、謝るから!」
「お前ら、組織で動いているのか?」
「あ、あぁあ! そうだ! ボスは竜のトラウバルトだ! この街の貴族だよ!」
「もう一つ聞く。 何故レコにあんなことをした」
「あ、あれは部下たちが勝手にやったんだよ! たまに女を与えとかないということ聞かないんだよ! それがたとえ子供でも! た、頼む! 俺は悪くないんだ!」
「そうか」
石野は無慈悲に男の頭を刀で刺し貫いた
「…。 人を殺した…。 怒りで我を忘れていたとはいえ、何も感じないものなんだな」
石野は死体の山を後にして外に出た
血にまみれた石野の姿を見て、路地裏の住人は恐怖したようにたじろぐ
そのまま石野は夜の街へと消えた
目指すはトラウバルトの元だ
死体のそばに人影がある
「やっぱり、人間じゃダメだな。 あーあ、めんどくさそうなのがこの世界に来ちゃってるし、そろそろ潮時かな? ま、いいけどね。 最後だからさ、君たちにちょっと面白い力をあげるよ」
人影は幹部三人の死体に手をかざす
バラバラだった死体は元通りに戻る
しかし、魂までは戻ってきていない
「えーっと、魂は、あ、あったあった」
空中を見つめ、何かを捕まえる仕草をする人影
「これをこうしてっと」
死体にその何かをねじ込む
すると、死体に生気が戻った
「あ、れ? 僕らは一体」
「死んでたんだよ。 君たち」
「だ、誰!?」
「やだなぁ、君たちのボスの友人だよ。 どうだい? もう一度生を受けた気分は」
「私達、たしかあの男に殺されて…」
「そうそう、だからね。 君たちに力をあげる。 それがあればあの男に勝てるかもね。 それどころか、この世界すら手に入れることができるかも」
「なんと! 本当かそれは!?」
「あぁ、だからさ、滅茶苦茶にしちゃってよ」
願ってもない申し出に三人はすぐに飛びついた
「じゃ、力をあげる」
人影は三人に真っ黒なものを注入した
その力は闇の力
「これでよし、じゃ、あたしは行くね」
邪悪な笑顔
「おお、力が、みなぎってくる!」
三人からは闇の力が溢れている
「頑張ってね~」
闇の力を与えたのは少女だった
彼女は三人に手を振って、この世界から完全にいなくなった
こんかいちょっとえぐかったですね
すいません