蠢く闇1
「ふぅ、何とか逃げ切れたかな? それにしてもなんだあれは…。 明らかに上位の神々と同じ力をもっていたな。 神々の切り札か?」
真っ黒なローブに漆黒の肌、金色の目に白銀の髪の少年
手には黒いステッキを持っており、それをくるくるとまわしながら狭間の世界の中空を歩いている
「俺以外の知恵ある闇はまだ目覚めていないのかな? まぁそのうち目覚めるだろう」
闇の少年はニヤニヤと笑いながらスティックをまわして空中に座る
「誰だい君は? ここは僕たち二人の通り道なんだ。 どいてくれないかな?」
そう声をかけたのは異様な姿をした二人組
「何だお前ら?」
「聞いてるのは僕たちだよ。 どくの?どかないの?」
「ハハ、わかったよ。 どけるどける」
闇の少年はスッと道を譲った
「ありがとう、行こうフィフィ」
「えぇ、メロ」
二人が彼の前を通り過ぎた直後、彼はフィフィと呼ばれた少女の背中を闇の力で焼いた
「あぁああ!!」
フィフィの背を猛烈な勢いで焼いて行く黒い炎
「フィフィ! お前! 僕の大切なフィフィを!!」
「アハハハ、怒った? 怒ったの?」
完全にキレたメロが闇の少年に攻撃を開始した
「お前は許さない。 僕のフィフィを傷つけたお前はつぶしつくしてやる!」
メロの姿が変化し始めた
もともと大きな右手からぎちぎちと肉が広がり、左腕を侵食し始める
肉はさらに顔を覆い、白い仮面のようになった
目も鼻も口もない真っ白な仮面
「ひょぅ、面白いね君」
メロは傷ついたフィフィをゆっくりと自分の背に背負い、肉で守るようにして覆った
「…」
言葉を発することなく闇の少年に肉で出来たドリルをつきだす
それを楽に避けるが、空ぶった肉はその場で弾けて少年に張り付く
「うわ、気持ち悪いなぁ」
張り付いた肉を引きはがそうとするが、まるで喰いついたかのように離れない
「う、何だこれ、離れない」
肉はそのまま少年の体に広がっていく
「…。 潰れろ」
メロの声に反応した肉は一気に少年を覆いつくし、ギュッと小さく丸く縮まった
あとには闇の残滓が漂いながら残っているだけだ
「全部消えろ」
漂っていた残滓も圧縮し、簡易のブラックホールへと消えた
肉が元に戻って行き、右手に集まる
「フィフィ、フィフィ、僕のフィフィ、大丈夫かい?」
「え、ええ、あなたの一部が私の傷を治してくれてるわ。 とってもいい気持ち」
背中の傷には闇が広がり腐敗させ始めていたが、メロの肉がフィフィの失った体の一部となり、傷口の修復を行ったため彼女は無事だった
治療の終わったフィフィは立ち上がり、メロに抱き着いた
「あぁ、愛しいはメロ。 あなたの一部が私の一部になったの。 こんなにうれしいことはないわ」
「あぁ、これがうれしいってことなんだね。 この気持ちは、なんだかとっても心地いいな。 でもやっぱりさっきの怒りって感情はだめだよ。 ぐるぐると体を巡って、僕を支配するんだ。 それに、一瞬君のことを忘れてしまう。 そんなこと、あってはいけないのに」
「そう、それは私も悲しいわ。 私も怒りは嫌いよ」
二人は抱き合う
愛を確かめるために
「君たちってそういう関係なのか。 うんまぁいいんじゃない? 愛のカタチってそれぞれだし」
声に驚いて振り向くと、先ほど潰し、消し飛んだはずの少年が立っていた
しかし彼は体の半分を失っているようだ
「まだ死んでなかったの? じゃぁもう一度、今度はフィフィと二人でね」
二人が無表情に力を溜め始めた
「おっと、これはやばいね。 アハハ、もし次に会ったらさ。 残酷に殺してあげるよ。 今はまだ力が戻ってないからね。 あの時の女の子と、君たち。 顔は覚えたし、楽しみにしててよね? そうだな、メロちゃんって言ったっけ? 君の目の前で君の大事なその子を、生きたまま残酷にぐちゃぐちゃにしてあげる。 アハハハ、俺のこと、忘れないでよね」
邪悪その物の笑いを浮かべ、少年は消えた
「分かってると思うけどフィフィ、あれはやっぱり」
「ええ、あの時私にとりついた気持ち悪い何かと一緒」
「僕たちの敵だ」
「何だよあれ。 俺が封印されている間に何が起こったんだ? 世界に俺たちに対抗できる奴らがゴロゴロれてるのか? だったら認識を改めないとな」
闇で覆われた彼の傷口は再生し始めている
「他のやつらを探さなければ。 俺だけじゃ力を取り戻しても無理だな。 いずれ必ず全ての世界を闇に染めて、大神を殺す!」
闇は世界が始まるより前にすでにいた
そこに始まりの大神が生まれ、闇の領域を奪い、世界を産んだ
行き場を無くした闇は、世界の日の当たらぬ場所へと逃げ込んだが、そこすらも大神達に蹂躙された
その後、世界に祖神たちからそれぞれの種族が生まれた
それをヒトと言う
闇はそのヒトの心へと自分たちの居場所を求めて巣食った
しかし神々はそれすら許さず、ヒトの心から追いやった
その際にヒトの中に残ったわずかな闇が世界に戦争や争いを広めてしまう
闇は次に神々の反存在として生まれた悪魔と呼ばれる黒族に取りついた
その力は絶大で、闇は神々と同等の力を得ることができた
しかし、数の上では闇が圧倒的に不利だったうえに、光の女神の犠牲によって闇は黒族もろとも封印されてしまった
やがて、その封印は解け始め、今に至る